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あなたの×××を吸いたい!  作者: ブーカン
第九章 夢で逢い恋文を詠む
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第七十九話 ヒゲのおっさん問答

「よう、つよし……。なかなか最近、顔、見せなかったじゃないか」

「おじさん、お久しぶりです……」


 詩織しおりのおじさんは不機嫌そうな様子を隠すことなく、ノシノシと道場に入って来た。相変わらずの、筋肉隆々りゅうりゅうとした体格。相変わらずの、僕のことを殺しかねないような目つき……。僕は昔から、このおじさんには頭が上がらない。

 でも、今はそんな迫力に負けているわけにはいかない――。


「なにか、頼みがあるんだって?」


 正座する僕の対面にドカリ、とあぐらをかくと、おじさんは眉をひそめた。僕は彼の目を一心に見つめ、しばらくしてから土下座をした。


「強……。それは、何の真似まねだ?」

「おじさん……。今から車を出してもらえないでしょうか? 富耶麻とやままで僕たちを運んでもらえないでしょうか」


 顔を伏せているからおじさんの様子は判らないけれど、「ふむ」と考えるような声が聞こえる。


「顔、上げろよ」


 言われて僕は上体を起こす。いくらかけんはとれているようだったが、バキバキに固そうなひげを撫でながら、いぶかしむ様子はまだ続いている。彼はへの字に曲げていた口を開くと、僕に「ひとついとくが」と言った。


「詩織ちゃんをくれ、とか、そういうことじゃないよな?」

「……はい?」


 意味が判らなくて訊き返したのがマズかったのか、おじさんはきつく眉根を寄せた。


「詩織ちゃんを嫁にもらいに来たワケじゃねえよなッ?!」


 「父さん!」と、僕の後ろに控えていた詩織が大声を上げる。


「な、なな、なに言ってんの?! マジで! マジでなに言ってんのッ?! 強も、早く強も! 違うって言って!」


 バン、バンと背中を叩いてくる詩織……。イタイわ。彼女の隣のソフィーは口に拳をあてて笑いをこらえてるし……。

 僕はおじさんに向き直ると、鬼のような面相めんそうを直視して言った。


「詩織……さんを嫁にもらいに来たワケじゃありません。ただ僕を……僕たちを、富耶麻まで今すぐに連れて行ってほしいんです」


 「お願いします」と僕はもう一度、土下座をした。


「……顔上げろって」


 ソロソロと、僕は顔を上げる。おじさんはいまだ鬼の顔だった。


「詩織ちゃんをさらいに来たワケじゃないのは判った」

「……はい」

「だが、詩織ちゃんをあんなに泣かせたのは、お前か?」


 僕の家で大いに泣いた詩織は、今でも目を赤くして、頬を赤くして、号泣したのがすぐに判る顔だった。おじさんはそのことを問い詰めている。


「ちょっと父さん! 強のせいじゃ……「詩織が!」


 彼女の言葉をさえぎるように、僕は叫んだ。


「詩織があんなに泣いたのは……、僕のせいじゃない、とは言い切れません」


 おじさんの目に僕への殺意が込められた気がした。こ、コワい……。でも……。

 僕は言葉を続けた。


「今日、僕たちの大切な……友だちがいなくなりました。僕はその子の一番近くにいたのに、その子のずっとそばにいたはずなのに、いなくなったことに気付かず、ただ寝ていました」


 僕は後ろの、詩織をチラリと見やる。


「詩織は彼女のために泣いていました。彼女を想って大泣きしました。……僕のせいです」

「強……」


 「すみません」と僕は、三度目の土下座をした。


「……だから、それヤメろって」


 顔を上げると、おじさんの顔からは怪訝けげんな様子がいくらか消えていた。依然としてどこか敵対心みたいなものは見え隠れする……。

 けれどおじさんは、「判った」とため息をひとつ吐いた。


「車、出せばいいんだな?」

「……はい!」

 

 よ、よかった……。ここ最近で一番、死ぬかと思った……。

 後ろの詩織が、「よし!」と威勢をあげて立ち上がる。


「そうと決まったらこうしちゃいらんない! 父さん、ホントはこんなゴチャゴチャしてる時間なかったんだからね! 超特急で!」

「オーケィ! 詩織ちゃんのためなら、父さん、二百キロ出しちゃう! さ、行くぞ!」


 急に様子がおかしくなったな、このおじさん……。とりあえず、制限速度は守ってもらおう。

 立ち上がった僕に、おじさんが近づいてくる。そして、僕の背中に――。


パァン


「うッ?!」


 平手をくれた。娘の三倍はイタイ……。


「……強、少しは男が上がったんじゃないか?」


 髭の中、口のをニヤリとさせる詩織のおじさん。

 昔から怖い、怖いと思ってたけど、幼い頃の僕は、おじさんカッコいいな、とあこがれていたことを思い出した。


------------------------------------------------


「ちゃんと戸締りして寝なよ、拳一けんいち! 朝と昼はごはん冷凍してあるから、自分で適当に作って食べな!」

「判ってるよ。いってらっしゃ~い。おみやげよろしく~」


 拳一に見送られて、僕たちは詩織家を出発した。

 運転席にはおじさん。助手席におばさん。後部座席に詩織、僕、ソフィーと五人での車内。


「すみません。おばさんまで夜遅くに……」


 僕は助手席の詩織のおばさんに向けて謝った。

 水無みずなしから「鳴らし山」のふもとまでは高速道路を利用しても六時間以上はかかるようだ。いくら頑健がんけんな詩織のおじさんでも、ぶっ続けで運転するのは疲れが来て危ないから、とおばさんも同行してくれたのだ。ホント、助かります……。


「いいの、いいの。すいちゃんのためでしょ? 詩織から聞いたわ」

「あ、おばさんは会ったことあるんですね」

「うん。今日もウチに来てたわよ。可愛い子よね、すいちゃん……」


 「そんなにか?」と運転席のおじさんが割り込んでくる。


「そうよ。小っちゃくて、目なんかパッチリとしてて、ニコニコとよく笑う子で……。あれ、お父さん、会ったことないっけ?」

「ないな……。その子は詩織ちゃんより可愛い?」

「あんた、クソバカね。比べるもんじゃないわよ」

「なるほどな。比べた俺がバカだった。詩織ちゃんは次元が違うからな」

「クソバカね」


 なんか前の座席で文字通り、夫婦めおと漫才が始まったよ……。詩織なんか親のそのやりとりが恥ずかしいのか、縮こまっちゃって……。

 漫才が途切れたかと思うと、ギラリと、ルームミラーの中からおじさんが僕をニラんできた。


「そのすいちゃんといい、隣のキレイな子といい……。強、浮気はすんなよ?」

「……浮気?」

「父さんのバカ! 黙って運転して!」

「ふふ……。面白いお父さんね……」


 ああだ、こうだとやりとりをしているうちに、水無の高速入り口に入った。ひとまずこれで朝方には「鳴らし山」のふもとにたどり着けるだろう。時刻ももう十時をまわった。


「長丁場だからあなたたちも寝れるうちに寝ときなさい。この人のことはいいから」


 おばさんの勧めもあったけど、僕は昼にタップリ寝たおかげか、眠気を感じていなかった。なにより目の前の、どんどんと後ろに流れていくフロントガラスからの眺め――すいに着実に近づいていってるのだと思うと、眠るような心持ちになれなかった。


------------------------------------------------


『ぽい~ん。ヨッシー! 電話だよ~、電話だよ~。ワタシ以外なら出ないでいいよ~』


 僕のスマートフォンが鳴った。着信音に登録していたのはすいの声だったから、一瞬ドキリとさせられる。少し慌てて、僕はナップサックから電話を取り出した。誰からなのか、画面を確認する。


「母さんか……」

 

 母さんには「今日の夜は僕もすいも家を空けてる」とだけ、メッセージを入れておいたのだ。きっとそれを見て、仕事中にもかかわらず電話をかけてきてくれたのだろう。


「……もしもし、母さん?」

『やっほ~。つよぽん? 今、電話してても大丈夫なの~? すいちーとの夜、おジャマになってないかな?』


 母さんのノンキな様子に僕は苦笑いを返すばかりだった。

 僕のその様子に、さすがの母さんも察したのか、『何かあったのね?』と声を落とした。どこからどう話したらいいものか、僕が無言でいると、電話先の母さんは小さくため息を吐いていた。


『やっぱりね~……。最近、すいちーちょっとおかしいな~と思ってたから、思わず電話しちゃったのよ』


 母さんも気付いてたのか……。


『すいちーは今、そばにいるの?』

「……いない」

『そうか~……。あいちんになにか、協力できることある?』

「……大丈夫。なんとか……、してみせるよ」

『そう、頑張ってね。つよぽん』


 『ちゃんとふたりで帰ってきてね』と励まされ、僕と母さんは電話を切った。


「愛さん、心配してたろ?」


 ルームミラーから、おじさんがたずねてくる。


「……はい」

「強。あんなに美人でいいお母さん、あんまり悲しませんなよ?」


 どこかで聞いたことのあるようなセリフに、僕は「はい」とだけ答えた。


「へえ。愛ちゃんは美人なんだ? 私のことはブス、ブスっていっつも言うくせに……」

「バカ、お前……。比べるもんじゃねえだろ……」

「クソバカ」


 また始まった夫婦漫才に微笑ほほえましく耳を傾けていると、隣の詩織が僕の手元に視線を寄越していることに気付いた。


「どうかした?」

「そのマフラー……」


 彼女が見ていたのは、ナップサックの口からのぞく、すいが残していったマフラーだった。


「ああ……。僕の誕生日プレゼントだってさ。マフラーなんて季節外れなのに、どこで買ったんだろうな……?」

「……いや、それ……すいちゃんが編んでった物よ。……ウチで」


 このマフラーをすいが……自分で編んだ?

ご感想、ご罵倒、ご叱責、お待ちしております!

もちろん大好物は褒めコメです!

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