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あなたの×××を吸いたい!  作者: ブーカン
第五章 欲は重なりいつか消える
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第四十二話 Hello! New World!

「むんぐ、むんぐ!」

「ふはっはっははっ! オメガ! せっかく頂いた差し入れ、しっかり脂肪にしてあげなさいヨ!」


 オメガはその尋常じんじょうでない大きさにひらいた口の上でコーラボトルを直立させ、コーラの最後の一滴まで飲み干そうとしている。


詩織しおりッ! なんでわざわざ……」


 僕は、コーラなんてカロリーの高そうなものをオメガに投げ渡した詩織の方に振り向く。

 だが、彼女の様子は僕の言葉を詰まらせた。

 両の拳を腰元に据え、直立する詩織。目を閉じ、深い呼吸をしている。

 何かの構えか?


「ふぅぅ……すぅぅ……」

「このカンジ……。詩織、まさか……?」

「ワタシの術と……似てる……」


コンッ


 オメガはペットボトルを完全に空にしきって、放り投げる。


「さあ、オメガ! そろそろトドメをさしてあげましょうかネ!」


 小男の声に応じたわけではないのだろうが、オメガは両肩を上げ、そのぶよんぶよんのほほを膨らませた。あれは、もしや……。


グエェェェエエプ


 そう、ゲップです。

 まあ、コーラをあれだけ一気飲みすればね。そりゃそうですよ。


「それよ! 曖気あいきさわりかたッ!」


 詩織が大声で叫ぶ。

 ふたたび詩織の方に目をると、彼女は目を見開いて、深く息を吸っていた。彼女の口もとにほんのりと赤い光が吸い込まれていく。


「あれはッ!」

「すいッ?! し、詩織は一体?!」

曖気あいきどうッ!」

合気あいきどう? あれ? あの空手みたいな武術のこと? ねえ、すい。合気道?」

「ワタシの屁吸へすいじゅつ、みぽりんの呿入きょにゅうけんと同系統の暗殺武術……」

「ねえ、すい。合気道ってそんな怖ろしい武術でしたっけ? ねえ、そんなんが日本全国に道場があるの? ねえ、怖いよ。日本という国が怖い」

「相手の曖気……つまりはゲップ。これを吸入することにより心神を喪失そうしつさせ、音もなく死に至らしめる暗殺武術……。いや、ゲップの音はするよね」

「ちょっとすい、何言ってんのッ! 合気道ってそんな珍奇ちんきな武術なの?! 日本はどこへ向かってるの! あと、君、そんなお約束の説明小ボケしてる間に『輪魂りんこん』の強化が解けちゃってるよ? もったいなくない?!」

「んだ。疲れた……あちゃペロ~」


 膝に手を置き、肩で息するすい。「輪魂」は一定時間経過後に解除されてしまい、反動として、疲労が激しいのだ。

 疲れるならするなよ、小ボケを。

 あと、舌を出すな。


「グゥッ……! つかめ……たッ!」


 僕とすいがそんなこんなしてるうちに、詩織の口もとの光がより濃い赤色に輝く。


「むぐぅ……!」

「どうしたネ?! オメガ!」


 オメガの様子がおかしい。喉元のどもとを抑え、何かをこらえているようだ。

 まあ、あれだけ小ボケをしてたけど、僕には判った。詩織がオメガにコーラを渡したのは、ゲップを出させるため。彼女はどういう経緯けいいかは全く判らないけど、「あいきどう」なる武術を新たに修得しており、それを今、オメガ相手にかけているのだ。


 詩織……。


 はっきり言うと、僕の中での最後のとりでは詩織だったんだ。

 僕自身もみぽりんに師事しじすることになって入門した、このトンチキワールド。空手っていう至極しごくまっとうな武術を貫く詩織だけが僕の唯一の救いだった。これは……僕のひとりよがりかなぁ?

 あ、やべ。なんか涙でそう。


「ヨッシー、ホラ。うなだれてないで見て!」


 すいに促され、再びオメガをみる。彼の表情筋はプルプルと震え、目尻には涙が浮かんできている。

 そして……。


「オエェロオロロオロオオッ!」


 彼の口から……その……ね。まあ、出ましたよ。口から出るヤツね。


「オメガッ?! ……クサッ! クサイヨ!」

「うへぇッ?! 酸っぱい!」


 周囲に充満する胃液のにおい。すいも僕も、鼻をつまむ。


「くさっ……新規のクサイの、ご入店……」


 そばで倒れているソフィーは訳の分からないことを口走ってる。まじでコイツ、今回は何のポジションなの?!


「ハァ……むぐ……」


 出すもの出して、ひとまず落ち着いたらしきオメガが口元をぬぐう。けど、その姿……。


「ち……縮んでる?!」


 そう。オメガの体がさっきより小さくなっているのだ。

 その証拠に、オメガに取り込まれてもはや鼻と口だけだった拳一けんいちの、顔と首が、外に出ている!


「……どういう理屈か判んないけど、ゲロで脂肪も持ってかれたみたいね」


 あ、こら、すい。僕は直接は言葉にしなかったのに、言いやがった。


「ゲップなら、オナラさえ吸収するアイツの特殊な器官とやらにたどり着く前に外に出てくるってわけね……。しおりん、スゴイッ!」

「ハァ……ハァ…! まだよ……まだ……」


 詩織は構えの姿勢はそのままながら、大量の汗を流して呼吸も荒い。

 詩織のヤツ……「あいきどう」、まだ慣れていないんじゃないか?


「姉ちゃんッ?!」


 拳一が叫んだ。顔が出たことで、周囲の様子が見られるようになったみたいだ。


「拳一……! 今、助けるからねッ!」

「姉ちゃん! ムリはしないでね! こっちはこっちでなんか気持ちいいから!」

「気持ちいい?!」

「そう、なんだろうこれ……なんかムズムズして、『ムハーッ!』ってカンジ! だからぼくは、このまま昇天したとしてもさほど悔いではない!」


 ダメだ。早くしないと拳一が新しい世界に行ってしまうッ! いや……あの表情、もう手遅れかもしれない。


「すいッ! 今なら拳一を引っ張りだせるんじゃないか?」

「まだ、もう少し……外に体が出てないと、拳一くんの頭が千切ちぎれちゃう!」


 千切れるて。


「もう一度……かけるっ! 障の型を」

「詩織……。でも、そんなに疲れてるじゃないか?」

「強が……」

「ん?!」

「強が応援してくれるなら、やれるッ!」


 か細く笑う詩織。

 その言葉、さすがは僕の自慢の幼馴染おさななじみです。


「頑張れッ、詩織ッ!」

「……いよぉし!」


 詩織は発奮はっぷんし、天を仰ぐ。もう辺りは真っ暗。住宅街に降り注ぐ星々の光。彼女はそれらさえも、吸い込もうとしているかのようだ。


「すいちゃん、ゲップの誘発打ちって出来る?!」

「合点承知ッ! オナラの誘発の応用で行けると思う! でも、同時に小男も抑えないと拳一くんが……」

「それは……私の役目……ね……」

「……ソフィー!」


 ソフィーが立った!


「このままじゃあ……ただのキス魔で終わっちゃう」

「そうだね! それはサイアクだよ!」

「よし、金パツは小男の口をふさげッ! ワタシはゲップを誘発させる! 拳一くんは……」

「僕が引っ張りだすッ!」

「オッケー! 行くよ!」


 すいの掛け声とともに、まずはソフィーが跳び出す。


「オッラァッ! こんのチビオッサンがぁッ!」

「ひぃ! なんか来たヨ?! オメガァッ!」

「むんぐ!」


 小男の呼び掛けに応じたオメガが、向かい来るソフィーに掌打しょうだを飛ばす。


「ニェプッ! 私にビンタなんて、強くんしか許さないんだかっらッ!」


 ソフィーは蹴りでその掌打を弾いた。弾かれた衝撃でオメガの身体が少しグラつく。

 いや、僕はソフィーにビンタなんてする気ないよ?


「今よッ! ヨッシー!」

「わかった!」


 すいが跳び出す。僕も続く。


「オメガッ! そのこぞうを……んぐっ?!」

「感謝しなさい! 女子高生……しかも最上級のメスに口を抑えられる幸運にっ!」


 ソフィーは小男の背後に回り込み、口を抑えた羽交はがめをかけている。

 どうでもいいけど、自分でメスって言うな。


「うるぁぁああぁぁぁッ!」


 僕の十数歩先を行っていたすいは、早くもオメガを射程圏内に捉え、連打を放つ。

 拳打自体には脂肪の鎧でダメージを受けていない様子のオメガだが、すいの拳を受けるごとに彼の頬が膨らんでいく。


グェエグゲエェエエプッゲ!


 ついに彼の口元は決壊し、辺りに大音量の異音が流れた。


 そう、やっぱり、ゲップです。


「曖気・障の型ァッ!!」


 背後で詩織の叫び。と、ともにオメガの口から今度は、例のモノが流れ出してくる。


「うわっ、クサッ! ゲロくさいッ! 姉ちゃん、何が起きてんの?! ねえ、ゲロがくさいよ!」


 今度は拳一が言いやがった。

 ま、彼の目の前を滝が流れているのだからしょうがないか……?


 オメガの体が目に見えて縮んでいく。今や、拳一が取り込まれているのは両手両足を残すのみ。


「強兄さん!」

「拳一!」


 けれど、まだ四メートル近くはあろうかというオメガの巨体。僕はその正面にたどり着いた。

 オメガの……嘔吐おうとは止んでおり、ゼェゼェと息が荒い。


「帰ってこい! お前の世界はこっちだ!」

「その考えはなかったっ!」


 拳一の腰元を抱き込み、オメガを足蹴あしげにして力を入れる!


「んぬおおぉおおぉお!」

「あ、強兄さん! ぼくのそこらへん、今はダメかも!」

「うるせぇっ! ぬおおおおぉッ!」


 ズズズッ、と拳一の体が動く感覚がする。いけるッ!


「うっらあぁァッ!」


ヌポンッ


 抜けたッ!

 だが、その反動で僕と拳一は地面に倒れ込んだ。


「……強兄さん。ここ……ゲロの海が……」

「不可抗力だ。許してチョンマゲ」


「金パツゥッ! 来いッ!」

「わかってるわよッ!」


 すいの呼び掛けにソフィーが駆け付ける。小男はソフィーにキメられたのか、地面に倒れて伸びていた。


「うっらぁぁッ!」

「食らえ、こんのぉッ!」


 ふたりは左右から同時に、拳と蹴りをオメガに浴びせる。


「ぐ……むんぐッ……!」


 だが、まだ脂肪の鎧は効果があるようで、ダメージは十分ではない様子。


ゲェエエプ


 オメガの口から再びゲップが……。すいの拳撃けんげき、誘発打ちも兼ねてたんだ。


「障の型ッ!」


 すかさず、詩織が叫ぶ。


「えろぉえろおぉぉっ!」


 オメガが嘔吐。僕と拳一はモロにそれを浴びる。

 オメガの体はまたもや縮まった。


「ラあッ!」

「いい加減このクサイの慣れてきたわッ!」


 すいとソフィーのコンビネーション……。


「むうううんぐぅ?!」


 先程よりダメージが通った様子……。

 続けて、ゲップ。続けて、詩織。続けて、僕たちに降り注ぐシャワー。


 このやりとりがあと二回ほど続きました。

 僕と拳一は、新しい世界に飛び立てそうなほどにゲロにまみれました。


「ラストだぁッ!」

「ぶっ倒れろ、クソブタがぁッ!」


 もはや二メートルほどに縮みきったオメガは、すいとソフィーのフィニッシュに小さなうめきを上げ、地面に倒れ込んだ。

 なんで自分が倒れるときはゲロの海が広がってないがわなの? ズルくない?

ご感想、ご罵倒、ご叱責、お待ちしております!

もちろん大好物は褒めコメです!

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