第三十四話 そして解答(と呼べるシロモノではない)
「えっ、えっ……。三穂田さんも、星を持ってる? どういうこと?」
詩織が僕の手元と、今やイビキをもかきはじめたみぽりんの手元を交互にみて驚いている。
「簡単なことさ。すり替えたんだ」
「すり替えたって……どうやって?」
「あのきったないオッサンには、強くん近づけなかったんでしょう?」
みぽりんは確かにちょっと不衛生だけど、ひどい言われようだな。
「うん。そうだけど……星を取るには必ずしもみぽりんに近づく必要はないんだ。星がみぽりんから離れるのを狙えばいい」
「星が……離れる……」
「この写真、見て」
僕は、自分のスマホを三人に見せた。
「これ、寝ている三穂田さん?」
「そう」
「あ! みぽりんの帽子、テーブルに置いてあるね! 離れてるってこういうことね」
すいが気づく。
「そう。初日、僕が惜しいかな、と思った瞬間もこの時だった。みぽりんが寝ている間、帽子は脱いでテーブルに置かれる。ただ、直接行くのはダメだ。当然、初日のうちに失敗しているしね」
「うぅ……じゃあ、なんで? なんで取れるの? そもそも今、みぽりん、こんなふうにベッドに寝てなかったよ?」
「それじゃあ、今日の朝はどうかな?」
「朝? そりゃあ、朝は……寝てるね」
「そして、僕が用意した星のニセモノ……」
僕はツカツカとみぽりんに近づき、彼の手から星を抜き取った。
「これを、本物が本来あるはずの場所……テーブルの上に、帽子とセットで置くと……」
「三穂田さんはそのニセモノの星がついた帽子をかぶるのね。癖で……習慣か!」
詩織が平手に拳を打つ。
「あれ……でも……本物の星がついた帽子はどこ行ったの? ……あれ?」
「僕がしたことを順に説明するね」
まず、先週の土曜日。
「アタシと出かけた日ね……」
「うん、そう」
僕がしたことは次のふたつ。
・天気予報のチェック
・ニセモノの星の材料調達
「天気予報? それがなんだっていうんです?」
「この作戦には雨が……しかもできれば二日以上続くような雨の日が必要だった。幸い、今は梅雨の時期だしね。昨日からしばらく、雨の予報だろう? 僕はこの、条件に合う予報の日を確かめたんだ」
次に、日曜日。
僕は仕掛けの準備の視察目的でここを訪れた。すべきことは大きく四つ。
・他の、同型のカウボーイハットを持ち去ること
・星のニセモノが作れるよう、写真をとること
・ベッドが置かれている部屋、テーブルの真上に天井裏などに通じる出口があるか、確かめること
・置きカサがないことを確認する。あれば、持ち去る。
「帽子を持ち去る、写真をとるってのは……わかるけど、あとの二つが何がなんだか……?」
「天井裏については、あとで言うね。カサってのは、みぽりんのメンドくさがり度合いが、『雨の日にカサがなければ濡れてもいいから目的地に行く』くらいかな、とは予想がついたからね。カサが事務所にないことを確認、あればなくしておきたかった。みぽりんには、帽子ごと濡れてもらう必要があったんだ」
「雨の日に濡れてもいいって……。ま、このオッサン、そんなカンジはしそうですけど……本当かしら?」
「こっちに来て」
僕たちは、隣のみぽりんのプライベートルームに入った。
「これ見て、何か気づかないかな?」
そう言って僕は、三つほどのカウボーイハットがかかった帽子掛けに手を添えた。
「なんかどの帽子も、見事にシナシナだね」
「そう。これは普段、雨の日にみぽりんはカウボーイハットでそのまま出かけ、帰ってきてから濡れた帽子をここに掛け、ろくに手入れもせずに放置する、彼の行動を物語っているんだ!」
「「「な、なんだってーッ!!」」」
三人揃っての驚き、ありがとうございます。
「だから僕は、みぽりんに同じ行動をとってもらうためにカサの確認をした。案の定、すぐ見当たるようなところにはカサはなかったよ。あとこの日は、帰ってからはニセモノ星の作成」
「あ~……そういえば。ヨッシー、寝室にこもってコソコソなにかしてたのって、これかぁ。ワタシはてっきり自らをなぐさめ……「言わせないよ?!」
そして、月曜から水曜にしたこと。それは、「すいの食事を抜く」ことだった。
「えぇ! アレも作戦だったの?!」
「うん。次の仕掛けのためにね。僕も当然抜いてたけど、すいには悪いな、とは思ってたんだ。ごめん」
「言ってよっ! ヨッシーのためならいくらでもメシなんて抜くのに!」
「星を作るときもそうだったけど、言ったらたぶん、すい、口をすべらすか、表情にでるだろう?」
うん、うんとソフィーも詩織もうなずく。
「……あちゃペロ~」
舌を出すな。
木曜日。
この事務所を訪れてしたことはもちろん「事務所の食糧を食べつくす」だ。食事を抜いたのはこのため。すいのおかげで、自然にその流れに持っていけた。
けど、みぽりんのメンドくさがりからそれほど食糧のストックはないだろう、とタカをくくってたのが的を外れた。思ったよりカップ麺があったんだ。最初はあせったけど、それ以上にすいの食欲がスゴかったので助かったよ。
「すいちゃん敢闘賞!」
「じゃあ、食糧がなくなった三穂田さんは……」
「金曜に買い出しに行く。少なくとも、土曜までには行くだろうね。いくらメンドくさがりでもお腹は空く」
その翌日、金曜日に僕がしたことは、「事務所の屋根裏に侵入し、テーブルの上にニセモノの帽子と星のセットを置く」こと。
「だから日曜にそれが可能か、屋根裏への扉を確認したのね」
詩織が上を見上げる。
「うん。まずは屋根裏から、本物の星がついたハットが帽子掛けにかけられていることを確認した。どうやらこの日は、みぽりんは目論見通り、雨の中カサをささずに買い出しにでかけて、濡れた帽子をここに掛けた。そうでなかったら、次の日に出直す」
「だから、『二日以上の雨』……か」
「屋根裏の出口はテーブルの真上とはいかなかったから、天井裏から帽子を吊った糸を振ったりして……これが結構骨が折れたよ。このまま本物の星を僕は取れそうなものだけど、それはしない」
「ベッドで眠る三穂田さんが近いからね」
「日曜にみぽりんの具体的な守備範囲を思わずきけたのもよかった」
「むっふっふ~」
すいが何やら勝ち誇ったような様子で腰に手を当てている。
「これはワタシ、手伝ったもんね~!」
「え、手伝ってもらったの?」
「う~ん……。問題は、僕が天井裏からテーブルに帽子を置く間、みぽりんが深い眠りに入ってるかどうかだったんだ。これは、僕にはまったくわからないから、ここだけすいに、みぽりんの気配を教えてもらった。これくらいはいいかなぁ、と思って」
「ワタシ、だい・かつ・やく!」
「ちっとだけだろうが、このチビが」
「んだとオラぁ!」
「……落ち着け。まあ、そうしてセットを終えた僕とすいは帰った」
そして今日、みぽりんは朝起きると、いつもの習慣でテーブル上の帽子を頭に被った。以降、「星をつけた帽子は前日に帽子掛けにかけなかったっけ?」という疑問を抱かれないのが大事だけど、みぽりんのど忘れ度合いを信じて、なるべく早く来ることでこの可能性を下げる。
「早く、と言ってももうお昼近いですよ?」
「いつもの習慣で帽子を被ってもらうことがこの作戦のキモだ。早く来すぎていつもと違う行動をとられるとまずい。朝、何時に起きるか、それも知らないし、妙に探りを入れて気づかれても厄介。さすがにお昼前には起きてるだろうから、午前中を目安にした。かといって、お昼ちょうどだとご飯なんかで動き回る可能性が高まって、その分気づかれる可能性も高まる。だから、十一時頃に着くようにしてみた」
「それで、本物の星はこの部屋に残されたまま……みぽりんから離れたままの状態になっていたってことだね……。ヨッシーはそれを回収した、と」
「……すごいっ! どうしちゃったの強! 名探偵みたい!」
「いや、穴も多い作戦さ。みぽりんが星を毎日確認する習慣があったら一発アウト。朝早く起きてて時間経過で気づかれてもアウト。まあ、みぽりんのメンドくさがりと幸運にかけて、六割くらいはうまくいくんじゃないかなって試しただけだよ」
「六割って、だいぶ低く見積もってるのね」
「成功すればそれでいいし、失敗すればまた次の手を考えればいいからね」
「ハァ~……。強、すごい!」
パンッと詩織が僕の背中を叩く。
「いてて……詩織のおかげだよ。この間、詩織と食事に出かけたことでいい気分転換になったし、作戦を思いつけた。ありがと、詩織」
「強……」
「おわったかな~? もどっておいで~」
隣のオフィス部屋からみぽりんの声が聞こえる。
「どうだ、みぽりん野郎! 恐れ入ったか! ヨッシーを鍛えやがれ!」
「いや~。恐れ入ったね。ボクは実力行使とか、誰かに手伝ってもらうとかじゃなく、強くん自身が今できることで、工夫をしてもらいたくてこの試練を出したんだけど、まさかこうまでしてくるなんてね~……。後進育成か~……あ~あ、メンドクサイな」
コイツ、ぶん殴ってやろうか……。
「なんて、ウソウソ。約束は約束だよ、うぇへっへっ……。さて、じゃあ、早速やろうか。屋上、来てくれるかな」
そういうとみぽりんは立ち上がり、ノソリ、ノソリと事務所の出口に向かってくる。
何気に、この人の立っている姿見たの、初めてだわ。
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