第二十七話 千代行路
「ワタシたちはどこに向かってるでしょ~か?」
「千代……」
「何のためでしょ~か?」
「……みぽりんから聞いた『ダイチ』の情報を確かめに、です」
「ブッブー! デートに決まっておろうが!」
ヤバい。隣の席に座るすいのテンションが高い。
僕たちは「ダイチ」調査のため、千代行きの高速バスに乗っている。もちろん、詩織もソフィーも一緒だ。
なんだか忘れがちになってきてるけど、僕の高校生活は、ワワフポの「ダイチ」の記事を発端にして、闇の仕事を生業とするような襲撃者たちに狙われる、という非日常に一変したのだ。
僕は記事の内容の真偽、自分の父が本当にその「ダイチ」なのか確かめるためにこの調査を始めた。ほとんど僕自身のエゴみたいな調査なんだけど、なんだかんだでいまや、そのパーティは四人にまで増えている。
「ちょっとすいさん、席代わってくださいよ。私も強くんの隣に座りたい」
前の座席からのぞき込むようにしてソフィーが言う。
「やだね。ヨッシーの隣はワタシの指定席なのよん!」
うん、ナイス。ソフィ―の隣では僕の心身が持つ気がしないので、これはすい、ナイス。
「すい、ちょっと静かに……。他のお客さんもいるから」
「チャック?!」
「うん、そうして……」
彼女は、口元をチャックで閉める素振りをする。
「それにしてもすいちゃん、今日可愛い格好してるよね~」
すいは僕が選んだしまくらセットを今日、着ている。というか、服に無頓着なので、いまだにそれしか普段着を持っていないようなのだ。
「むむんむむむ~」
「え? なに?」
「すい、小さい声ならしゃべってもいいんだから……」
「ジー」
毎度、閉めてもすぐ開くのね、そのチャック。
「あのねぇ、ヨッシーが選んでくれたんだよ。コレ」
「へえ。強がね~……こんな可愛いのをね~」
意味ありげな目を座席越しに寄越す詩織。
「ま、ワタシゃ素材がグンバツだからね。ワタシがデルモなら何でもパーリナイよ!」
「黙れちんちくりん。強くん……今日はどのような予定なんですか?」
えげつないな、ソフィー。
「うん、ダイチが目撃されたっていう『マリア』ってバーを探す。とりあえず、二軒は目星があって」
「……ちんちくりん……」
「ひとつは千代駅前で、ひとつは少し離れた、和泉ってとこにあるらしいから、そこには電車で向かうかな」
「……ちんちくりんって言われた……」
「ちんちくりん」のダメージでかそうだな。
ソフィーに噛みつかないところをみると、すいは自分の体型に思ったよりコンプレックスを持ってるみたい……。
「そう、そうそう! すいちゃん、千代といえば牛タンね。知ってる?」
詩織が、すいの気を取り直させようとする。
「ちんちく……ぎゅうたん?」
「あ、興味ある~?」
「ぎゅうたん!」
すいは目を輝かせて前の座席にかじりつく。
ああ……。まずは語感が気に入ってるな、この感じ。
「ぎゅうたんって何? 面白いもの?」
「面白いというか、美味しいもの」
「食いもんか!」
「そう。牛の…」
ペロ、と舌を出す詩織。舌を出すな。
「げぇ、牛のベロ?! おいしいの~? 無難にお肉でよくな~い?」
「うっふっふっ。あとで吠え面かくわよ……。ね? 強」
「うん、そうだね。どっちにしろ、今日は一日中千代だろうからね。牛タンどこかで食べよっか」
「よっしゃあ! 牛タン初体験!」
「何気に僕も初めてだけどね」
「なぬ? じゃあ、ヨッシーと初体験だ!」
「私も食べたことないわ」
「金パツは初体験させん!」
『まことに申し訳ありませんが、車内では他のお客さんの御迷惑になりますので、お静かに願います』
車内アナウンスにビクリとする僕たち。マジすんません。
僕たちはお互いに、肩をすくめてバツの悪い顔を見せ合った。
……おいこら、すい。あちゃペロしてるだろ、ソレ。舌を出すな。
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「と、とと、都会やで~!」
千代に到着。駅前だ。
水無もそこそこ栄えているけど、さすがこの地方の中核都市。比じゃない。高い建物ばっかり。
「お昼にはまだ時間あるね~。どうする?」
今の時刻は十時半の少し前。
「先に一軒目、行ってみよう。このバス降り場からそう遠くないはず」
僕たちはスマホのナビアプリを頼りに一軒目を目指すことした。
「今日、晴れてよかったね~」
「そうだなぁ、雨とか最悪だしな~」
「ワタシ、雨好きだよ」
「えぇ、なんで?」
「なんかわかんないけどワクワクする……」
「子供みたいね。さすが……」
「ちんちくりんって言う気か! このパツキンが! パツキンのくせして貧乳のくせに!」
「ニェプ、私のは誇りある貧乳よ。ちんちくりんとは違います」
「言った、ちんちくりんを言いやがったよ……。なんだよ? 貧乳の誇りって。ワタシも知りてーよ……教えてくれよ……」
元気だな、コイツら。僕はちょっと緊張してるってのに。
あと、往来でそんな話、やめてくれ。
そうこうしてるうちに一軒目の雑居ビルにたどり着いた。
「ここの三階だな」
「うーん……」
詩織がビル入り口にある各階案内を眺めてうなっている。入居店舗の一覧に「マリア」、あるいはそれを含むような店舗名は見当たらない。
「はずれかもね……」
「十五年も前の話だから、もとから雲をつかむようではあるんだけどね……」
「とりあえず様子、見てきましょうよ」
三階まで行って確認したがやはり、該当しそうな店舗はなかった。ダメ元で昼食営業の準備をしていた別のダイニングバーの人に訊ねてみたものの、「十五年も前のこのビルの状況は知らない」とのことだった。
だが代わりに、ビルのオーナー、そして、仲介不動産屋の連絡先を教えてもらえた。
早速、電話をしてみる。
『あ~……四、五年前までだったかな、「マリア」ってお店はあったよ』
「本当ですか! あの……お店の関係者だった方の連絡先とか、教えてもらえたりしませんか?」
『……なに、キミ。それ聞いてどうするつもり?』
う。まずい。不信感を持たれてしまう。
声もまだ子供っぽい自覚あるからな。客観的にみたら、バーのこと訊ねる子どもとか怪しすぎるよね。
「あの……実は、父が行方不明でして、その……そのお店のことだけが手がかりで……」
この、アドリブ力のなさ。ほとんど事実そのまんま言っちゃった。
『そ、そうかぁ……それは、キミ、うん。わかった。調べとくから、分かったら連絡するから、うん、つらいだろうけどな、頑張れよ。世間は冷たくなんかないからな……負けるなよ。おじさん、こんなことくらいしかしてやれないけど、助けてくれる人はきっといるからな』
いいひとだな、オイ。
ひとまずは僕のケータイ番号を教えて、電話を切る。
「どうだったの? ヨッシー」
電話中、おとなしく見守ってくれてたすいが僕に訊く。
「とりあえず、ハズレかどうかは保留かな……」
「そっか。繋がってる、繋がってるね!」
詩織がパァンッと背中を叩いてくる。
詩織の勘ではハズレだと思っているんだろう。顔に出てる。励ましてるつもりらしい。
「返事待ちなんでしょ。次も行っとこうよ!」
あらためて思うけど、詩織のドンドン行く性格、ホント頼りになるよ。
「え~その前にお腹を満たそうよ~。お腹ぺこりんだよ、こちとらよぉ」
「そうね。せっかくだからショッピングもしたいわ」
コイツらはこうだもの。まあ、でもいい時間だな。
「はぁ~……じゃ、ご飯にしよっか」
「ぎゅうたん!」
「いぇす! 牛タン!」
ソフィーも楽しみにしてたんじゃん。
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「おぉ~」
それぞれの目の前に並ぶ、牛タン炭火焼き、麦めし、テールスープ。
「ひゃ~……。ジュルリ」
すい、よだれ出てんぞ。
「いただきまーす」
「……んん! こりゃあうまい!」
「うっふっふっ……。吠え面かいたな、すいちゃんよぉ……」
「わお、わおーん! 犬が吠えては牛を食う、ベロが上手いと牛を食う……。下剋上じゃぁ!」
「私は、このスープ好きだわ。兄さんに骨、持って帰ってあげよっと」
骨て。お土産、骨て。
ソフィー兄の悲惨な家庭環境が推し量れるよ……。
「ごちそうさまでした~。余は満足じゃ!」
「……結局、ごはんの間は連絡なかったね」
「そうだな。しばらく食休めしたら二軒目、行こう」
「え~ショッピングは? いきたいです~」
腕をダルンダルンと振りながら駄々をこねるソフィー。
すいだけでもアレなのに、ソフィーまで……本気でやめてほしい。
「ゴメン。たぶん今日はムリ。二軒目の場所、電車でもそれなりにかかるらしいから……」
「え~……」
「今度、地元で行こう、な?」
「二人きりならいいですよ。私にも服、選んでくださいよ」
「え~……。みんなでならオーケー!」
口を突き出して不満を露わにするソフィー。
ソフィーの厄介さにどんどん磨きがかかる……。ホント、怖ろしい子。
さて、僕たちはお店を出て一路、和泉行きの地下鉄に乗った。
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