相合い傘から始まる果てしない恋の道!? 3
「で……もう一度言うけど、遅れるから早く行ったほうがいいよ?」
私が促すように言うと、大宮くんは首を横に振る。
それはつまり、いやだ、って意味だ。
「伊従先輩、何言ってるんですか。転んで痛いんですよね?」
「うん、痛いけど……」
すると、大宮くんはなぜか厳しい顔をした。
「伊従先輩を置いて先に行くわけないじゃないですか!」
「……い、いいから、早く!」
こうしている間にも、時間はどんどん過ぎていく。
もう、チャイムがなる時間か……。
完全に遅刻だ。
「ほら、ここに乗って下さい」
「え……?」
大宮くんが指差した先には、自転車の後ろ部分だった。
つまり、二人乗り……。
恋愛小説ではよくある、あれだ。
運転している彼にしがみついて、ドキドキして、胸がキュンとするあれでしょ!
「……む、無理に決まってるでしょ!」
私と大宮くんが二人で自転車に乗っているシーンを想像してみる。
……似合わない!
……驚くほどに似合わないと思う!
私が叫んで断ると、大宮くんは私の制服の袖を引っ張ってくる。
「これから歩いていったら遅くなりますよ!僕が飛ばしますから、乗って!」
「大宮くん……!」
「なんですか?」
「無理に決まってるでしょおおおおおっ!」
通行人がギョッとしてこちらを振り返るくらいの大声で私は叫ぶ。
そして、そのまま大宮くんを置いて走り出した。
「伊従先輩っ!」
大宮くんがそう叫ぶが、無視だ。
今はもう何も考えずに走る!
こんなに風が気持ちいいと感じたのは、初めてかもしれない。
今の私は多分、後先考えずに夢中で走っている。
だけど、一つだけ思っている。
私が大宮くんと一緒に自転車に乗って、走ったら……心臓が破裂すると。
それくらい、恥ずかしいんだよー!
そんな風に、叫びたいけど、今は走れ!
「伊従先輩、今のあなた、なんかよく分からないけど、かっこいいですよ!」
「そうでしょう、そうでしょう!」
すると、大宮くんが乗った自転車が私の横を通り過ぎていった。
速い、とても速い。
あっという間に置いて行かれてしまった。
「はぁ……っ、はぁ……っ!!」
あー、もう力尽きた。
学校まであともう少しと言うところで、私は体力の限界に達した。
そりゃあ、全力で走ったんだから当然だ。
もう、大宮くんの姿は見えない。
私は全身が痛むのを感じながら、必死に歩く。
……なんであんな馬鹿なことしたんだか。
自分でも、さっぱり意味が分からない。
かっこつけたかったから、だったりしてね。
なんじゃそりゃ、なんで今……。
多分、大宮くんとの噂が流れることを恐れたから、だな。
「伊従先輩」
「……っ、大宮くん!?」
学校の入り口の、門の前には……自転車を降りた大宮くんがいた。
先に校舎に入ったんだな、って思ったら、そこにいたんだ……。
「行きましょう」
「……んん、んー……!」
もう私は、反論することもできなかった。
仕方なく、大宮くんと一緒に歩き出す。
これで、大宮くんファンたちにあれこれ言われるのが確定した。
「ほんと、疲れた……」
「伊従先輩が突然走り出すからですよ」
「それは分かってる、だけど……」
私は最後の力を振り絞って大宮くんの顔を見る。
そして、ちょっと睨んだような顔をする。
「なんで先に行かなかったのよっ……!なんで私を待ってたの……」
大宮くんの足が止まる。
「言ったじゃないですか。僕は伊従先輩を守るって、言いました」
「……っ!」
その言葉が、私の胸に突き刺さる。
「だから、見捨てて教室へ行くことなんてできませんよ」
「……だったら、なんで自転車で先行ったんだか。待っててくれてもいいのに、置いて行ったよね?」
「伊従先輩が走り出したんじゃないですか。僕はつられて、ですよ」
「ふーん……」
そして、しばらく歩くと、階段が見えた。
大宮くんは二階、私は三階に教室があるので、ここで別れることになる。
「伊従先輩、また今度」
「じゃあね……」
大宮くんと別れると、ある一つの問題が浮上してくる。
もうチャイムはとっくに鳴っている。
つまり私は、確実に遅刻する。
遅刻した人がノコノコと教室に入っていいのだろうか。
それに、今気がついたが、私は宿題を終わらせていない。
先生から怒られるだろう。
しかも、遅刻までした。
だと言って、教室の前でずっと立ち止まるわけにはいかない。
私は恐る恐る、扉を開ける。
ガラガラーーッ。
その音に気がついた生徒たちが一斉に私の方を振り返る。
「伊従、遅いぞ。早く座りなさい」
「……はい」
先生にそう言われ、トコトコと歩いて自分の席に座る。
そして、授業は再開した。
一限目は嫌いな数学だ。
教科書とノートとペンケースを出し、ノートに計算式を書いていると、気づいた。
……そう、何かがおかしい。
いつもの、クラスじゃない。
異様に私を見ているのだ、皆が……。
地味な私が注目を浴びることなんて、今までには一度もなかった。
だが今は、じろじろと見られている。
そして、また気がついた。
クラスの一部の女子の目がとても鋭く、私を睨むような目をしていたのだ。
……理解した。
その一部の女子は、大宮くんファンなんだ。
ってことは、バレたんだ……。
昨日、相合い傘で帰ったところか、今日、二人で話しているところか。
どちらにせよ、一限目が終わったら追及してくるだろう。
もちろん、恋愛がなんだとか、そんなものは何一つないが、端から見たらそう勘違いされてもおかしくない。
一限目は、睨むような目線が私に突き刺さり、とても居心地が悪かった……。
★
意外にも、一限目が終わった後には話しかけてこなかった。
二限目以降も、何もしてこない。
案外恨んでるとかないんじゃないか、と思ったが、違うようだ。
休み時間に、私の悪口を言っているのを見つけた。
詳しくは聞いてないが、いつもの「伊従さん今日も一人だよね……」よりも激しいものだと思われる。
ともあれ、何もしてこないなら普通に家に帰るか。
椅子から立ち上がった瞬間、女子の一部が私に詰め寄ってきた。
……やっぱり、来たんだ。
どうやら、何もしてこないわけじゃないらしい。
「ちょっと伊従さん」
一番最初に声をかけた女子の顔と声には、明らかに怒りがあった。
「……何?」
知っているが、あえてそう答えておく。
「はぁ?」
「それはあんたが一番分かってるんじゃないの?」
女子の一人が、私にビシッと人差し指を向けた。
「あたしは見たわ。昨日の放課後、晴斗と伊従さんが仲良さそうに二人で傘に入っているところをね!」
それを、見られたんだ……。
「あんた、晴斗と付き合ってんの?」
「違う」
即答する。
それは、誤解をとかないといけない。
私も、大宮くんも、互いに恋愛感情はない。
「嘘だ」
「……嘘じゃないから」
これでは嘘だ、嘘じゃないの言い合いになる。
確実に誤解をとく方法を考えないと。
「じゃあ、付き合ってもいないのに、なんで二人で一緒に、相合い傘で帰ったわけ?」
「そうそう。それを教えてよ」
なんと答えればいいのだろう。
……嘘をつくより、全部正直に言った方がいいか。
「それは……」
私は昨日あったことを全て正直に話した。
私の話を黙って聞いていた女子は、私の話が終わると、一斉に言った。