ネオ・ジャパン
思い付きでざっくり書いてみました。
全くの初心者で短編です。
単純な読み物としてよければどうぞ。
「おいっ、また仕様変更だ! これで何度目だよ!」
目の前でプロジェクトリーダーが仕様書を握りしめ、怒りのあまり吐き捨てている。私も同感だ。これで何度目の仕様変更だろう。変更に次ぐ変更でもう2徹くらいしている。それにここ最近まともに家に帰った記憶が無い。
大学を卒業して手に職を付けなきゃと思い、プログラミングの会社に就職したがこれがまずかった。就職して24歳になり、何とか仕事はできるようになったけど、プログラマーはあまりにもブラックで入社して1年目で既に月200時間に迫る勢いで残業もしている。
あれっ、私なんでこんなに働いているんだろ・・・ただ、食べていければそれでいいと思っていて、でも手に職が無いと不安だから安易にプログラマー志望しちゃったのがいけないのかな・・・
でもお父さんとお母さんが就職決まって喜んでくれたし、自分を頑張って育ててくれた両親の為に、頑張ろうとここまで来たんだけど、なんかもう限界。
そして視界がチカチカする感覚を覚えながら妄想にふけっていたら、急に妙な浮遊感を覚えた。
あれっ、なにこれ・・・急に体が重く・・・
「葉月っ!? 葉月どうしたの!!! 大変です先輩っ! 葉月が!」
同期入社の美雪が顔を青ざめながら何か叫んでいる。でも私にはもう聴こえない。もう聴きたくもない。なんか・・・もう疲れちゃった。少し眠ろう。そしたらまた頑張ろう。
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「素体No.1907439覚醒反応あり! 120秒後に強化ポッドを開放します」
遠くから機械的な女性、それでいて感情がない声に私は少しずつ目を開ける。目を開けるとそこは知らない場所で、私の視界は緑色の液体で満たされ全身には、まるで私を拘束するかのように螺旋状に機械的なコードが絡まっていた。そしてなぜか裸。
状況が飲み込めず暫く待つと、目の前の視界が開けてきて、同時に緑色の液体が排出されていく。ようやく周りを覆っていた液体が無くなると、私は少しずつ体に力を入れて、少しずつ体を起こしていった。
周囲を恐る恐る見渡すと球体上の機械に、私と同じように緑色の液体に満たされた人間が男女問わず収納されていて、その数は数えきれないほどだった。
やっとのことで起ちあがる。腰まで掛かる長い髪が体にへばり付いて気持ち悪い。そういえば切りに行く暇なんてなくてずっと伸ばしっぱなしだったんだ。それによく見たら、黒髪に交じって青い光沢の掛かった髪の束がいくつも見えていた。なにこれっ。
そのまま状況が飲めず立ち尽くしていると、背後から足跡が複数聞こえてくる。振り返ると青と黒の配色がされた軍服?の様な服をきっちりと来た私と同年齢っぽい銀髪の女と、白衣を着た妙齢の研究員風の女が私の方に向かってきていた。
二人が目の前に来て銀髪の女が私に声を掛ける。
「おはよう。素体No.1907439。いえ、あっちの世界では一ノ瀬葉月でしたね。目覚めはいかが?」
感情の無い、それでいて機械的な声で女が声を掛けてきたので、私は慌てて返事を返した。
「えーと・・・正直なんとも言えないんだけど、というかここはどこですか? たしか私は仕事中でそこで倒れたところまでは覚えているんですけど・・・まさか病院!? と、いう雰囲気でもないですよね?」
「ええ、これから説明するわ。とりあえず服を着ましょうか。そうそう、私はイリスよ。イリスでいいわ。よろしくね。じゃ、服を着たら私について来て、疑問になるべく答えるわ」
イリスと名乗った女はそう答え、私は頷きながら、研究員の女から貫頭衣の様な物を濡れているのに被せられ、体を拭かせてよと言おうとしたら、貫頭衣から何か力を感じ驚いた時には全身乾いてた。なにこれっ、すご。
研究員の女は用事が住むと仕事に戻っていったようだ。私はビビりながらもイリスについていく。長い通路を歩き、時間としては20分くらいだろうか。
イリスに導かれ室内に入ると、そこは外の状況など分からないほど、周囲一面、私が見たことがないようなモニターが埋め尽くしていた。
「そこに座って」
イリスがそう言うと、床から見たこともないデザインの椅子が2つ感覚を開けてせり上がってきた。私はビビりながらも片方に座り、イリスはもう片方に座る。
「さて、何から応えましょうか?」
「えと、それで早速なんですけど、私、倒れてからどうなったんですか? やっぱり死んじゃったんですか?」
震える声でイリスに尋ねる。
「ええ、ご想像の通り、あなたは仕事中に過労死したようね。ログにそう記録があるわ」
「そうですか・・・」
涙が出てくる。お父さん、お母さんに親孝行なんて何もしてあげられなかった。それにもまして、あんな奴隷のような働き方であっけなく死んでしまった自分の不幸を嘆いた。
「悲しんでいるところ悪いけど、なぜあなたが生き返ったのかと、この世界のこと、理解が及ばないと思うから併せて説明するわ」
そうだ! それを聞かなきゃ。およそ日本とは思えないこの空間や私が見た一部の物々しい光景、そしてなんで私が生き返ったのかを。
「まずあなたが今まで現実だと思って生きていた現実は、全て仮想現実、つまり嘘だったわけ。短い人生だったみたいだけど、なかなかハードだったでしょ?」
さらっと悪魔の様な笑みを浮かべてイリスは語る。当然私は理解が追い付かない。コイツハナニヲイッテルンダ? 私の戸惑いをよそにイリスは続ける。
「あのポッドの数の人数を見た? 驚いたでしょ? あれはこの国の少子化問題を解決する為に産み出された、AIに管理された人口子宮マザーの子供達よ。そしてあなたも私もあのポッドで虚構の世界に送り込まれて、マザーにより性能を測られていたの」
「性能?」
「そう、このネオ・ジャパンに住むに値するかどうか、そして才能、適正、能力、そして人間としてのランクまでも虚構の世界のデータにより全てマザーが決めるの」
「そんな、じゃあ、あれが全部嘘だったんですか!? でも何でそんなことを・・・」
ここで気づいてはいけない、脳内激しく警鐘を鳴らしていた事実を、私は震える声で尋ねた。
「いっ、今っ、西暦何年ですか?」
イリスが答える。
「今は西暦5981年よ。さらに言ってしまうと、虚構の世界は真の世界をベースに作られているから、世界各国の国名は同じ。でも今はネオ・ジャパンとアメリカ、中国の3か国しかないけどね」
「えっ!?5981年! 嘘でしょ・・・」
イリスは私の動揺をよそに続ける。私は心拍数が上昇していくのを感じる。体全身から嫌な汗が止まらない。
「我がネオ・ジャパンとアメリカ、中国は不倶戴天の敵。ここ3000年くらい永遠に殺し合っているわ。どっちも軍備の拡張に余念が無くて、一時期滅ぼされそうになったんだけど、人口子宮であるマザーのおかげで兵力は腐るほど湧いてくるし、軍が秘密裏に開発したパワードスーツで今は有利に戦えている。」
「ネオ・ジャパンは戦士を求めているわ。それも国家に対して逆らわない絶対的な奴隷を。マザーがそれを求めているの。だから日本人の最大の特徴である隷属性を強化しようと、虚構現実を作りマザーは子供達に試練を与えるわ。戦闘要員としての適性があれば覚醒後に戦闘要員として、最前線で戦って死ぬ名誉を!。そうでなければ上級国民・中級国民・下級国民と明確に分断され下級市民はそれこそ死ぬまで国家の為に働くの! ねっ? 素敵じゃない!!! 国家の為に! 国家の養分に!! 何よりマザーの一部になれるのよ!!! こんな素敵なことが我らネオ・ジャパンの民には与えられている!!!!!!」
そういっきにまくしたてるイリスの顔は紅潮し、時々何か得たいの知れない恍惚に身を任せているようにだった。私は衝撃のあまり呆然と見ていることしかできない。
そんな私の動揺を知ってか知らぬか、イリスはおもむろに起ちあがり、開けた場所にゆっくりと歩いていく。そしてこちらを振り返り右手を挙げた瞬間、一気に空間が広がり、イリスの起点として背後に何か特殊な兵装に身を包んだおびただしい数の兵士が現れた。
「ようこそっ! ネオ・ジャパンへ!! 国家の為に存分に殺しましょう!!!」
読んでいただいた方ありがとうございました。