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酒の匂いは現世の香り  作者: チェーン荘
2/2

彼女の感傷

「別れてほしい」


ある日、彼は前触れもなくそう言った。


「なんで急に」


「ずっと前から言おうと思ってたんだ。その、もっと早く言うべきだった」


ずっととはいつくらい前なのだろう。


私たちは物心つくころには一緒だった。


幼馴染は私たち2人だけ。


誰に言われるでもなく、私たちは2人で1組だった。


兄弟みたいな関係が恋人と名を変えたのは、自然の成り行きだったと思う。


気心を知りすぎていたから、余計な気を回さずにすむのはありがたかった。


自慢じゃないけれど、告白されたことはあった。


でも、何も知らない赤の他人と隣り合う自分が想像できなかった。


正直、彼以外からのアプローチは鬱陶しくもあって、私は彼に受け入れてもらえたことが嬉しかったのと同時に、他人から言い寄られなくなることに安堵していた。


その安寧も、今日で終わりを告げられた。


「どうして?」


「だってお前、俺のこと好きじゃないだろ」


「そんなこと……」


「あと、お前といても楽しくないんだ」


「…………」


それはそうかも、と納得してしまう。


私は彼が隣にいてくれさえすればよかった。


会話なんかなくたって通じ合える、唯一の存在だったから。


でもそれは私の思い違いだったみたい。


高校が別々になったせいで、私と彼の時間は減っていた。


中学までは同じ時間を共有していたけれど、離れてしまえば見る世界は別々になる。


彼はきっと〝楽しいこと〟を見つけたのだろう。


なら、ここで彼を引き止めるのは、ただのワガママになってしまう。


飽きられたのは悲しいけれど、嫌われたくはない。


「……わかった」


「やっぱ、引き止めないんだな」


「引き止めてほしくないんでしょ?」


「そうだけど……そういうとこが、やっぱいい」


なんとなく、彼が飲み込んだ言葉が想像できた。


彼も、私が何を言われそうになったかを悟ったと、わかった顔をしている。


「悪い。そういうことだから」


「うん」


「彼氏彼女は終わりだけど、相談とかなら乗るから」


「うん、私も」


「……じゃあな。皐月」


「うん、元気でね」


そうして彼は私の隣からいなくなった。


心にぽっかりと穴が空いた気分、にはならない。


私が彼を知るように、彼も私のことを見透かしていた。


彼の言うとおりだ。


私は彼に恋をしていなかった。


愛なんてまだ知りもしない。


だから喪失感なんて生まれるはずもない。


とても未熟な恋人ごっこは、2年ともたずに終幕したのだ。

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