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日々、言葉に埋もれて。

作者: 高坂真白

僕は、高校3年生の高槻春樹。小説家。

僕は、小さい頃から人と関わることが上手くない。だから、いつも一人だった。

今もそう。

今も、学校では、いつも本を読んでいる。そして、誰とも話さない。

話す人は先生くらいで、話す内容は、業務連絡と勉強を聞くくらいだ。

そんな僕が小説と出会い、小説家となった ––––


1.それは、僕が中学3年生の時、学校の図書室で、出会った一冊の本がきっかけだった。

僕は、小さい頃から本が好きだった。

だから、いつも、図書室に行って、本を読んでいた。

放課後、誰もいない図書室に一人で行き、読みたい本を選び、読んでいた。

今日も同じように読みたい本を選ぼうと、図書室中に並べられた本棚を見て回る。

図書室には、フィクション物から、伝記などの様々なジャンルの本が種類ごとに並べてある。

僕は、フィクション物が好きだったので、フィクション物が集められた本棚を見て回る。

すると、背表紙に何も書いていない一冊の本があった。

僕は、その本を手にとってパラパラとページをめくってみる。

本を開くと、1ページ目に【君は君の物語】と書かれていた。

なんとその文字は手書きで書かれていた。

僕は、つい、次のページをめくってみる。

すると、2ページ目には、「君は、や“生きてる”って感じたことはありますか?」と疑問文から始まっていた。

そして、2行目には、「君は今、何をしていますか?」

と、また疑問文が書かれていた。

そして3行目にも、「何を求めてますか?」

「人生って何だと思いますか?」とまた疑問文が書かれていた。

僕は、「不思議な本だな。」と思いながら、次のページをめくる。

次のページには、「何が何だか分からない日々、そんな日々を私達は生きてる。」と、かなり意味深な言葉が書いてあった。

僕は、何かに取り憑かれたように、また次のページをめくって書かれていた文字を読む。

どのページにも物語は書かれてなく、ただ、「君は、今、何を思っていますか?」や、「人生とは、答えのない道をただ歩いていく事だ。」

とか、そんな事ばかり書かれていた。

僕は、「この作者は何が言いたいんだろう?」と思いながら、一番最後のページをめくってみる。

そこには、手書きで、【高坂真白】とだけ書かれていた。

高坂真白。この本を書いた作者だろう。そして、この作者は、名前からして女だ。

僕は、最後のページの前のページを開いてみる。

そこには、ただ、「ありがとう。」とだけ書かれていた。

僕は、この本が気になった。

だから、この本を借りようと思い、表紙を見る。

だが、表紙にも、裏表紙にも、背表紙にも、ブックナンバーは書いてなかった。

図書室の本には、必ずブックナンバーというものが書いてあり、本を借りるとき、貸し出しカードにその本のブックナンバーを書くのだが、この本にはなかった。

僕は、どうしたらいいのか分からなかった。

この本を図書室から持ち出していいのかどうか必死で考えた。

で、考えたあげく僕はこの本を持って帰ることにした。

パラパラとめくって見た限り、この本はもう完成していた。だから、誰かが、書き足すこともなければ、持ち出すこともないだろう。

僕と、作者以外の誰かがこの本を見つけない限り。

僕は、鞄の中に、手書きの文庫本を入れて、図書室を出た。

家に帰り、真っ先に、あの手書きの文庫本を開いた。

そして、続きのページから読み始めた。

続きのページには、こんな事が書かれていた。

「君は今、楽しいと感じていますか?」

「君なりの“生きる”とは何ですか?」

僕には、意味が分からなかった。

この作者が何を求めて、何を伝えたかったのか。僕には、さっぱり分からなかった。

でも、この本は他の本より限りなく素晴らしい物だと感じた。

どんなエッセイよりも、どんなフィクション物でも、この本は、素晴らしい。そう感じた。

理由もそう感じた根拠も分からない。

だけど、僕は、何となくだけど、いい作品だと思った。

僕は、続けて、この本を読み進めていった。

この本のどのページにも疑問文が書かれており、中には、高坂真白自身の想いや、考えも書いてあった。

この本を読んでいくうちに、僕自身が何か変わったような気がした。

そしていつしか僕も、小説家を目指すようになった。


2.高3の僕は、今年受験生だ。

僕は、小説家だ。だから、大学は、文学部を目指している。

今のところ、3校から推薦が来ており、僕は3校とも受けることにした。

今の僕がいるのは、あの時出会った一冊の本のおかげだ。

あの本が無ければ、今僕は、ここには居なかったかもしれない。

それくらい僕には大切な本だ。

あの、疑問文だらけで、何が言いたいのかイマイチ分からない本に僕は惹かれていた。

惹かれた理由としては、疑問文だけで、人の心を動かす事が出来るからだ。

僕もその一人だった。

僕もそんな存在になりたかった。

だから、小説家を目指した。


中3の夏、ネットサーフィンをしていると、【君も小説家になるチャンス!】と書かれた記事があった。

僕は、迷わずその記事を見た。

そこには、新人小説家を募集していた。

年齢制限はなく、誰でも応募可能。との事だった。

僕は、応募しようと思い、自分なりに、小説を書いてみた。

小説は、土日で仕上げて、募集サイトに書いてあったメールアドレスを入力し、宛名と題名を書き、原稿を送った。

高坂真白は、僕と同じ高校生小説家。

僕があの本と出会った時、既に高坂真白は小説家として活動していた。

これは後から知った話だが、あの本は、高坂真白が一番最初に書いた作品だという。

だが、その作品未だには売り出されていない。

だから、高坂真白のデビュー作は僕しか持ってない。

高坂真白のデビュー作が売り出されない理由としては、原作を僕が持っているからだ。

と、言うのも、僕が初めて高坂真白に会った時、そうしてくれと頼まれた。

高坂真白と僕は、同じ中学に通っていた。

だから、高坂真白が卒業する時、あの図書室に自分のデビュー作を置いていったという。

何故、自分の本を置いていったのか気になったので、聞いてみたら、「何でだろう?なんか置いていこうかなって思ったんだよね。特に理由は無いんだよね。」と言って、自分で自分を呆れたように笑った。


高坂真白と僕が初めて会ったのは、僕が、中学3の時だった。

高坂真白とは、新人小説家の授賞式で会った。

僕は、高坂真白に憧れて、小説家を目指し、新人小説家コンテストに応募した。

そのコンテストに高坂真白も応募していた。

高坂真白は、見事に最優秀賞を受賞した。

僕は、特別賞だった。

特別賞の報酬は、小説家としてのデビューと、賞金50万円だった。

ちなみに、最優秀賞の報酬は、小説家としてのデビューと、賞金100万円が、贈呈された。

そのコンテストの授賞式の時、僕は、高坂真白に話しかけた。

高坂真白は、思ったより優しく、とても、「生きる意味は。」とか、「人生とは。」とか、書いた人とは思わなかった。

僕は、高坂真白にあの本の事について話した。

すると、高坂真白は、「君が見つけてくれたんだね。ありがとう。」と控えめに笑って言った。

高坂真白は、今高校3年生で、僕より、3つ年上だ。

高坂真白は親の仕事で、中学3年生の時に、今僕が通っている学校に転校して来たらしい。

「それにしても見つけるの遅過ぎるよね。いや、君を責めてるんじゃ無いよ。ただ、私が中学を卒業してもう3年も経ってるのに、誰も見つけないなんて、本当、誰も図書室に来ないんだなぁって思ってさ。なんか、本が可哀想だなって思って。」と、高坂真白は呆れたように、そして悲しそうに怒ったように言った。

僕は、何も言えなかった。

確かに僕は本が好きだ。高坂真白もそうだろう。

でも、そんな人ばっかりとか限らない。

僕達のような人ばっかりではない。

「私は好きなんだけどな。本。」

「何でだろうね?」と、少し笑いながら、今にも泣き出しそうな声で言った。

僕はまた沈黙した。

何も言えなかった。

僕だって本は好きだ。だから、小説家になった。

「本だって生きてるんだよ。読まれる為にあるんだよ。それを読まないなんて可哀想。小説家さんだって可哀想。

見殺しにしてるのと同じだよ。そんなの。」

と高坂真白は、きつい口調で言った。

そして僕は、「あの、高坂さんって何で小説家になろうと思ったんですか?」と高坂真白に聞いてみた。

すると高坂真白は、「本が好きだからだよ。それと、本を見殺しにしている人達に読んで欲しかった。」

と答えた。

「だから、疑問文で書いたんですか?」と僕は聞いた。

「うん。」「読んでくれたんだ。ありがとう。」と、高坂真白は、少し嬉しそうに言った。

「今回の作品はね、本好きの女の子の話。今私が言った事を文章にしてみたんだ。」と高坂真白は言った。

僕は、「そうなんですか。」と呟くように言った。

すると、高坂真白は、「あ、ごめん。もう行かなきゃ。」と言って立ち上がった。

「ごめん。この続きはまた今度ね。」と慌て言いながら走って行った。

しかし、しばらく走った所で、立ち止まった。

すると、「そういえば君、名前なんて言うの?」と聞いて来た。

「高槻です。高槻春樹。」

そう答えると、「そう!宜しく高槻君!」と言って走って行った。

僕にとってこの時間は、かけがえのないものだった。

まさか、自分が憧れていた人物と小説について話せるなんて思ってもいなかったからだ。

僕は、嬉しかった。

また、話したいと思った。

それに、高坂真白も「また今度。」と言っていた。

僕は、また会える日を楽しみにしていた。


3.あの授賞式から1ヶ月が経った。

僕は、学校に通いながら小説家として活動している。

僕は、あの日からずっと、小説を書き続けた。

また、高坂真白に会う為に。

学校生活は、小説家になる前とほとんど変わらなく、いつも通り平凡な学校生活を送っている。

小説家としては、この間一冊目を出版し、今次回作を書いている。

そして今でも、小説を書いてる合間に、高坂真白の小説を読んでいる。

高坂真白も今、三冊くらい出版しており、僕は、全部買って読んでいる。

高坂真白が一番最初に書いた小説も未だに読み続けている。

高坂真白が、「この本は、君に初めて読まれた本。運命だから。」と、言っていた。

確かにこれは、運命だ。僕を小説家にならせてくれた、大切な本。

だから、高坂真白が僕にこの本をくれて正直嬉しかった。

だから、今でも、大切に読み続けている。

僕も、そんな作品を書こうと思い、毎日小説を書き続けている。


僕が高坂真白に初めて会ったあの日、高坂真白はこんな事を言っていた。

「小説でさ、人の人生って変わるのかな?もし変わるなら、私もそんな作品書いてみたいな。」

「“人の人生を変える小説を。”」

僕はとっさに、「変わります!僕はそう思います。僕がそうだから。」と言っていた。そして続けて、「僕は、高坂さんが書いたあの手書きの小説がきっかけで、小説家を目指しました。だから、変わります!高坂さんは既に書いています!だから大丈夫だと思います。」と励ますように言った。

すると、高坂真白は笑って、「そっか。良かった。」と言って僕に一冊のノートを渡してきた。

「これ、最新作。」と言って僕に一冊のノートを差し出した。

「君に読んで欲しい。発売する予定のないこの小説を君に読んで欲しい。」と高坂真白は命のかけらを手渡すように言った。

僕はそのノートを受け取って、パラパラとページをめくってみる。

あの日見つけたあの本と同じように。

そのノートの中には、ぎっしりと文字が書かれていた。勿論手書きで。

僕は、高坂真白の隣でそのノートに書かれた文章を読んでいく。

そこには、ある小説家の話が書かれていた。

僕はペースを落とさず、ページをめくっていく。

驚いた。

その小説家が僕と凄く似ていたからだ。

小説家を目指すきっかけ、年齢、性別全て僕と似ていた。

そして、文中自分の事を“僕”と称し、物語が進められていた。

僕は、ノートいっぱいに書かれている文章をただひたすら読み進めていく。

そして読み終えると、僕は、高坂真白の方を見た。

高坂真白は、僕が読み終わるのをじっと待ってくれたようだ。

僕が高坂真白の方を見ると、高坂真白も下を向いていた顔を上げて僕の方を向いた。

そして、「どうだった?」と、少し不安そうに言った。

「驚きました。まるで僕をモデルにしたみたいで。」と僕が言うと、高坂真白は、「そう。私も驚いている。君の話を聞いてびっくりした。」と冷静な表情で言った。

「これ君にあげる。」と高坂真白は言い、笑った。

僕は、「いや、そんな訳には。高坂さんの作品を僕なんかが貰って。しかも、未発表の作品を僕なんかが持ってて良いんですか?」と聞くと、高坂真白は、「良いよ。むしろそっちの方がありがたい。それに、私が初めて書いたあの本も持ってるんでしょ?それなら君に貰って欲しい。」

と言いながら、僕の手を握った。

僕は、「あ、ありがとうございます。」と言い、ノートを受け取った。

そのノートは今でも僕の書籍にあり、他の文庫本と同じように並んでいる。

そして、僕はたまにその物語を読む。

そして僕は小説を書く。

こうして、僕は生きてる。

“日々、言葉に埋もれながら。”


4.季節は移り変わって秋になった。

僕の夏休みは、小説と受験で終わった。

僕は、3校から推薦をもらって、推薦枠で僕は受験した。

結果は全て合格。

僕はその中から、一番の進学校に行く事にした。

小説家としては相変わらず、毎日毎日原稿を書き続けている。

そして、ついこの間待望の二冊目が出版された。

そして高坂真白も、四冊目、五冊目と、新作を出版している。

僕が憧れていた高坂真白とは今となったらライバル関係という立場になり、なんだか自分でも複雑な気持ちがあった。

憧れの小説家。そしてライバル。

僕は、そんな気持ちに押し潰されそうになった。

でも、僕は小説を書き続けた。

そんな複雑な気持ちを押し潰して、ひたすら文字を打ち込んでいく。

ご飯も食べず、自分を忘れそうなほどパソコンに文字をただひたすら打ち込んでいった。

そのうち、出来上がった原稿は全部で、三冊分の原稿が出来上がった。

僕は出版社に、出来上がった原稿全てを送った。

そして、また新作を書き始めた。

授業の合間、たまには学校を休んで書いた。

なにせ、僕はもう進学が決まっていた。単位もあった。だから学校を休んでも、あまり影響はなかった。

だから、僕はずっと小説を書き続けた。

複雑な気持ちを忘れるために、高坂真白に会うために。ただひたすら。

僕は正直、やりたい事をやっているだけだ。ライバルとか正直どうでもいい。一人でも僕の小説を読んでくれる人がいれば、僕はその人の為に小説を書き続ける。

それを高坂真白は何て言うだろう?何と思うだろう?

共感してくれるだろうか、否定されるだろうか、僕はすごく気になった。

今すぐ高坂真白に会って聞きたいと思った。

が、あいにく僕達は、連絡先を交換していなかった為、僕は、「また会える」という言葉に期待するしかなかった。

「高坂真白に会いたい。」

僕は高坂真白に会う為に小説を書いているのかもしれない。


5.小説をひたすら書き続けたおかげで、僕は、新人小説家として脚光を浴びた。そして、僕の作品も着々と売れていき、今では、品薄状態までになった。

一方、高坂真白はというと、この間出版した最新作で、芥川賞を受賞した。

それがきっかけで、高坂真白はテレビのニュースでよく見るようになった。

ネットの検索ワードでは、1位に輝き、高坂真白の小説も沢山売れていた。

僕は、これはチャンスだと思った。

僕と高坂真白は今、すごく脚光を浴びている。

そのおかげで、僕達はテレビやネットニュースに出る事が多くなった。

僕は、「もしかしたらテレビの収録で一緒になれるかも!」と希望を持ち始めた。

《今話題と新人若手小説家!》とかの記事で一緒になれるかもしれない。

そんな事を思っていた。

そんな奇跡滅多にない事は分かっている。だけど、奇跡を信じてみたかった。

ひたすら小説を書いた甲斐があった。

高坂真白に会う為にただひたすら小説を書き続けた。

そのおかげで、チャンスが来た。

夢に一歩進んだ気がした。

だから、僕はもっと小説を書いた。

ひたすら文字をパソコンに打ち込んで、沢山の物語を書いていった。

そして気付けば、沢山の作品が出来上がっていた。

でも僕は限界まで小説を書き続けた。

朝も昼も夜もずっと小説を書き続けた。

そんなある日、出版社から一通のメールが届いた。

メールの内容は、「新人小説家として君にインタビューしたいと言ってきているんだけど、いい?」という事だった。

僕はすぐ、「はい!大丈夫です。」と返信した。

「チャンスだ。」そう思った。

そして収録の日、僕は、出版社に向かった。

会社に着くとそこには、カメラマンや、スタッフさんらしき人が沢山いた。

僕は椅子に座り、聞かれた事に答える。

聞かれた内容は、小説家になったきっかけや、物語をどうやって作っているのかなど、思ってた通り、普通の事を聞かれた。

インタビューが終わると、僕は会社から出て駅に向かおうとした。

すると、会社の廊下で、あの、高坂真白とすれ違った。

高坂真白も僕と同じくインタビューを受けるのだろう。

僕は驚いた。驚きのあまり、廊下で立ち尽くしていた。

そして、嬉しかった。

「やっと会えた。」そう思った。

僕は、高坂真白がインタビューが終わるのを待った。

すると、高坂真白が、僕が待ってる廊下を歩いてきた。

そして、僕に気づいたのか、今度は向こうから話しかけて来た。

「高槻君?」

「高槻君だよね!久しぶり!元気だった?どう、小説順調?」と聞いて来た。

僕は、「あ、はい!元気です。ご無沙汰しております!小説順調です!」と、いかにも緊張しているように言った。

「そう。それなら良いんだけど。」と高坂真白が言うと、続けて、「この後空いてる?お茶でもしようよ。」

と、高坂真白が言って来たので、僕は、「は、はい!是非!」と答えた。


そして高坂真白と僕は少しお洒落なカフェに行った。

僕はコーヒーを飲みながら高坂真白と話していた。

僕と高坂真白は、小説の事しか話さなかった。

好きな小説とか、小説に対する思いとか色々話した。

「君はどんな本が好き?」と高坂真白が僕に聞いてきた。

僕は、「なんでも好きです。恋愛小説以外なら。」と答える。

「へぇー。意外。恋愛小説読まないんだ。」と高坂真白は少し驚いていた。

「私は、何でも読むよ。恋愛小説も。一応。って言っても勉強のためだけどね。実は私、恋愛小説正直あまり興味はないんだよね。どちらかというと、ミステリー小説とかが好きかな。」

「僕もです。」と僕が言うと、「一緒だね。」と嬉しそうに言った。

それと他には、こんな話もした。

「私、本には必ずブックカバーつけるんだけど、読んでくうちに手汗で破けちゃうんだよね。」

「熱くなってるんじゃないんですか?手汗が出るほど。」と僕は言う。

「涼しい顔して読めないよ。小説なんて。」と、高坂真白は言った。

「えっ、君は読めるの?」

「まぁ、基本冷たい人柄なんで。」と僕は言い、コーヒーを一口飲んだ。

「あの、一つ聞いてもいいですか?」と僕はずっと気になっていた事を聞こうとした。

「何?」と高坂真白も少し興味があるように言った。

そして僕は、「あの、この本には題名はないんですか?」と言いながら、高坂真白が初めて書いた本を差し出す。

「うん。無いよ。」

「決められなかった。私には、この本の題名をつけられない。

情けないよね。自分で書いといてさ。」高坂真白は声を震わせながらどこか寂しげに、情けないように言った。

そして続けてこう言った。

「だから、君が名前つけてよ。君なら、この本を私より愛した君なら、つけられる気がするんだ。だからお願い。この本に名前をつけてあげて。」

僕は一瞬戸惑った。まさか高坂真白からそのような言葉が出るなんて思ってなかった。

そして僕は、「じゃあ、『名前のない物語』でどうでしょう?」とこの本に名前をつけてみた。

すると高坂真白は、「いいね。『名前のない物語』。本当になかったからね。」と笑いながら言った。

僕は、驚いた。僕が適当につけてみた名前を高坂真白は絶賛してくれた。

まさか、と思った。

僕は絶対鼻で笑われると思っていたので、「いいね」と言ってくれた時には正直嬉しかった。

「じゃあ、決定ね。」と高坂真白は嬉しそうに言った。

この本の名前が決まったところで、僕がもう一つ気になっていた事を話す。

「この物語にはエピローグがないんですか?」

「うん。エピローグがない物語もあって良いでしょ?」

と高坂真白は言った。

確かに最近はエピローグが無い小説もある。

それをあえて作らないのが高坂真白流だという。

高坂真白の書き方は独特で他の小説家とは全然違う。

それが僕は好きだった。

そして僕は気になった。

高坂真白が小説を書いている時に何を思っているのか、何を考えているのか。

そして聞いてみた。

すると答えは、「何だろう?何も思ってないし、考えてもないかも。無意識ってやつかな。」という意外な答えだった。

僕とは全然真逆だった。

僕は、ある程度物語と文章構成を考えてから書く。

ただ高坂真白は違った。

僕は、高坂真白は僕は以上に考えてから小説を書いていると思っていた。

「君は?何を感じる?小説を書いている時、何を感じる?」と高坂真白はあの小説に書いてあった事と似たような事を聞いてきた。

僕は、「分かりません。何を感じているかなんて自分には。ただ書きたいから書いているんです。たった一人でもいいから僕の書いた小説を読んでほしい。だから僕は毎日小説を書き続けているんです。」と自分の思いを正直に話した。

すると高坂真白は、「そっか。そうだよね。小説なんて売れ行きの問題じゃないよね。私はね、おかげさまで、芥川賞を取った。その効果で私の書いた本は次々と売れていく。

でも、大切なのは売り上げだけじゃない。君が言う通りだよ。

小説で一番大事なのは、読者の心に何か残す事。

私が書いた小説で、一人でも多くの人の生きる支えになれたらそれでいいと思うんだ。

なのに、周りが気にするのは売れ行きとかそんな事ばっかり。

うんざりするよね。ほんと。」と、どこか悲しげな、悔しげな口調で言った。

そして、僕は高坂真白にこう聞いた。

「あの、高坂さんは本好きですか?」

そんなん聞かなくても分かる事を僕は聞いていた。

「好きだよ。好きじゃなかったら書けないよ。君だってそうでしょ?私、小説が好き!大好きだよ!」と胸を張って言った。

「そうですか。そうですよね。」僕はそれしか言えなかった。

だって当たり前の事だったからだ。

もし、高坂真白が嫌いと答えていたら僕はどんな反応をしただろう?

きっと、頭が真っ白になったに違いない。

それくらい予想していた答えだった。

「君は?小説、好き?」

高坂真白は聞いてきた。

「はい。好きです。」

と僕は答えた。

「小説ってさ、夢を与えてくれるよね。辛い時も、嬉しい時も悲しい時も。生きる糧というか。」

「そうですね。僕も同じです。僕はあまり人と関わるのが得意じゃなくて、いつも物語に頼ってるんです。嫌な事があっても嬉しい事があっても。」

と僕は答える。

「なるほど。コミュ障ってわけか。ふふっ同じ。」と高坂真白は小さく笑いながら言った。

「え、高坂さんもですか?全然そのようには見えませんけど。」

「そう?私もね、最初は人と関わるのが苦手で、いっつも本読んでた。

そしていつしか書いてみたくなって、それで書いたのがきっかけ。」

「そうなんですか。」

高坂真白は僕と同じだった。

人と関わるのが苦手で、いつも本を読んでいる。

そして、僕と同じ高坂真白は僕より素晴らしい小説家。

とても同じとは言えなかった。

「だからね、私、本だけが友達なの。一応友達は居るけど、その人を友達と呼んでいいのか分からなくて。『何が基準?』とか考えたりして。

でもね、本だけは不思議と思わないの。友達って何故か言えるの。」

高坂真白はニコッと控えめに笑いながらそう言った。

「その友達を作ってく。それが私の仕事。勿論君もね。」と言い、高坂真白は今度ははっきりと口角をあげて笑った。

「君にとって本とは?」

僕にとって本とは何だろう?

今まで一度も考えてこなかった。

だが、本を読み続ける理由としては、僕の心の支えだからだ。

辛い時も、何でもない日も、どんな時も、物語というものは僕の身体の一部だった。

だから僕は、「僕にとって本とは、生きる糧です。命のカケラです。」そう答えた。

「じゃあ君は今、君の命を作ってるんだ。」

高坂真白は頷きながら言った。

「はい。」

「そっか。人それぞれだね。なかなか面白いかも。」と、はにかむように笑いながら言った。

ふと気付けば時刻は、夕方の5時だった。

カフェに来たのは、午後の1時くらいだったので、かれこれ5時間くらい居たらしい。

僕達は会計を済ませ、店を出た。

「今日はありがとうございました。」僕は丁寧に挨拶をすると、高坂真白は、「うん!こちらこそありがとう。」と明るく返してきた。

そして僕は、「あの、もし良ければ、連絡先交換してくれませんか?」と、ずっと言いたかった事を言った。

すると、高坂真白は、「いいよ。」とあっさりOKしてくれた。

そして僕達は、アドレス帳にお互いの連絡先を登録した。

「高坂真白」

「この連絡先を登録いたししますか?」

「はい」

僕は「高坂真白」という文字を何度も見返した。

僕がずっと憧れていた人と連絡先を交換したのが夢みたいだった。

僕は少し画面を見て笑ってしまった。

嬉しかった。


6.あの日から早一週間。

僕は、学校と仕事の合間を縫って、高坂真白にメールを送っていた。

メールの内容は、「こういう時、高坂さんは何て表現します?」とか、「小説順調ですか?」とか、小説に関する事が多い。

たまにある世間話では、「学校疲れた。」とか、「小説書きたい。」とか、「最近どう?」とか他愛ない事ばかり話している。

それに対し、高坂真白は丁寧に返して来た。

「お疲れ様。最近私は、学校で本を読んでます。って、最近じゃないか!笑

あ、そうだ、小説の方は順調だよ。君も頑張れ!」と、たまにこういうメールも来る。

僕は高坂真白とのメールが楽しかった。

だから学校生活も、小説かとしても、頑張れた。

高坂真白とのメールは僕にとって心の支えだった。生きる希望だった。

「はい。ありがとうございます。」と僕は返信し、パソコンの前に座った。

そしてまた小説を書き始める。

僕の小説を楽しみにしてくれている人達の為に。


ある日、僕の元に一通のメールが届いた。

見た事ないアドレスだったので、多分、読者の方からだろう。

僕は、そのメールを開く。

「高槻さんにとって、小説家というお仕事はどのようなものですか?

また、どのような仕事だとお考えですか?」

そこには、これだけ書かれていた。

題名も付けず、ただこの文だけを送ってきた。

僕は何も書けなかった。

これが読者からのメッセージ。この読者は何を感じたのだろう、と僕は考えた。

それでも答えは分からなかった。

あの日、高坂真白と小説家という仕事について話し合った。

その時僕が言った事、感じた事、思った事をそのまま書けばいいのだろうけど、僕の指は動かなかった。

果たしてそれが正解なのか間違っているのか、それすらも分からなかった。

“僕にとって小説家とは”

それだけをただひたすら考えた。

そして僕は、高坂真白にメールした。

「高坂真白だったら何て言うのだろう?」

すごく気になった。

「高坂さんにとって小説家とはどのような仕事だとお考えですか?」

そして答えはすぐ返ってきた。

「人それぞれだけど、私にとって小説家とは、サンタさんのようなもの。かな。

ほら、サンタさんってさ、プレゼントを渡して人を幸せにするでしょ?小説家も同じ。

小説を書いて、人を幸せにする。これが私なりの小説家という仕事についての考え。」

なんとも高坂真白らしい答えだろう。僕には、想像もつかない。

“小説家とはサンタさんのようなもの”

そういう考えを他にできる人が居るだろうか?

いや、多分居ないだろう。

そして僕は、「自分にとって小説家とは?」という疑問についての答えを自分なりに探してみた。

ひたすら小説を書いて、僕なりの答えを見つけようとした。

でも、答えは出なかった。

そもそも僕は、高坂真白という小説家が好きだから小説家になった。

小説家になってからも高坂真白に追いつきたくて毎日小説を書いていた。

だから、そんな事今まで一度も考えた事なかった。

本や、小説に対する思いや考えなら沢山言える。

だが、“小説家”という職業については、考えても考えても答えはなかなか出てこなかった。

だから僕は、小説を書き続ける事にした。答えが出るまでずっと。

そのうち、僕が書いた作品は遂に、十作にまでなった。

それには流石に出版社側も、驚いて、「大丈夫?少し休んだ方がいいんじゃない?」と心配してきた。

だが、僕は、「大丈夫です。お気遣いありがとうございます。」と返した。

まだ答えが出てないのに、休むわけにはいかない。

だから僕は、まだまだ小説を書き続ける。

小説家として働き続ける。

今日も明日も明後日もずっと。


7.季節は冬となった。

僕は、相変わらず小説を書き続けている。

そして高坂真白は、大学受験に合格し、春から大学生となる。

僕達は小説家であり、まだ学生だ。

だから学校の合間を縫って小説を書いていた。

だが、高坂真白も僕も、締め切りが近い時には、学校を休んで小説を書いていた。

でも今は、たまに学校に行く程度でほとんど家で小説を書いている。

勿論、勉強もしっかりしていた。

だが、高坂真白は、学校をあまり休まなかったという。

小説家と学生の両立を彼女はしていたのだ。

僕は、基本的に一度書き始めたら、終わるまで、ずっとパソコンに向かっている。

だから、そんな高坂真白を尊敬している。


ある日、高坂真白からメールが来た。

「今から会える?」

僕は、「はい。大丈夫です。」と送る。

高坂真白と会うのは、あの日以来なので、随分と久々だった。

僕は、待ち合わせの場所に行った。

「久しぶり。」

高坂真白は僕に向かい、控えめに笑ってそう言った。

そして僕は、「お久しぶりです。」と返す。

「急に呼び出してごめんね。」

「大丈夫です。それより、大学合格おめでとうございます。」と僕は、高坂真白に言った。

「ありがとう。君も、結構遅くなったけど、高校合格おめでとう。推薦って君、凄いね!」と、高坂真白も僕に言った。

そして続けて、「小説順調?」と聞いて来た。

「はい。おかげさまで。」と僕は言う。

「そう。それなら良いんだけど。」と高坂真白は、心配しているかのように言った。

「聞いたよ。君、休まずずっと小説書いてるんだって?」

「はい。」僕は、俯いたまま返事をする。

すると、高坂真白は、「駄目だよ。休まないと。」

と、母親みたいに言った。

僕は、「はい。すみません。」と何故か謝った。

「謝らなくて良いよ!ただ、心配で。何かあったの?」

と聞いて来たので、僕は、

「いえ。何も。」と答えた。

「嘘。何かあったでしょ。分かるんだよ。私には。」と、言って来た。

僕は、「実は、」と言い、読者から届いたあのメールを見せた。

すると、高坂真白は、「だからあの時『高坂さんにとって小説家とは?』って聞いて来たんだ。」と、謎が解けたように言った。

「はい。」

「何だ〜。もっと早く言ってくれれば良かったのに。」と、口を尖らせて言った。

「すみません。」僕は、また謝った。

「いやいや、謝らなくて良いって。で、君はどう思うの?」

「分かりません。本の事だったらいくらでも言えるのに。こればっかりは分からないんです。」

「じゃあ、君は何で小説を書いてるの?何の為?誰のために書いてるの?」

「それは、、、」

僕は、何も言えなかった。

「あの日、君が私に言った言葉。覚えてる?」高坂真白が聞いてきた。

「その言葉が答えなんじゃないかな。」と高坂真白は言った。

あの日、僕が言った言葉。

「だった一人でも僕の小説を楽しみにしている人が居れば、僕は、小説を書き続ける。」

「でも、それが正しいのか分からなくて。」

「この問題に答えなんてないよ。だから、正しいも、間違いもない。」

「でも、」

「他に正しいと思う答えがあると思うなら、それを探してみたら?全ては君次第だよ。」と高坂真白は言った。

“全ては僕次第”

それがどういう事なのか僕には分からなかった。


家に帰ると、仕事から両親が帰宅していた。

僕は、手洗いうがいを済ませ、自分の部屋に向かった。

部屋に入ると僕は、パソコンを開いた。

そして、書きかけの小説の続きを書き始めた。

何の為に小説を書くのか。

「何の為に…」

僕は、ひたすら考えた。

「僕次第?何が。」僕は、更に混乱した。

そして僕は、高坂真白に、「君次第ってどういう意味ですか?」

すると返事はすぐ返ってきた。

「自分を信じるか、ただひたすらゴールのない答えを追うか。決めるのは君。

だから君次第で、全てが変わる。って意味かな。」

「『自分を信じるか、ただひたすらゴールのない答えを追うか。』か。」

僕は、改めて考える。

自分を信じる…

「はぁ…」

僕は、思わず溜息をついた。

すると、僕の携帯が震えた。

僕は、携帯を開いた。

『新着メール 1」

僕は、新着メールを開く。

「一回読んでみなよ。本。書くんじゃなくて読んでみたら?そうしたら何か分かるかもよ。」

高坂真白からだった。

「書くんじゃなくて読む。」

僕は、本棚にあったあの高坂真白の「名前のない物語」をとって読んだ。

あの疑問文だけの本を僕は、ただひたすら読んだ。

僕は、何も分からなかった。

答えなんて分からなかった。

「こんなの高坂真白しか書けない。」

そう思っただけだった。

そして僕は、違う本を読んでみる事にした。

次は、僕が初めて書いた小説を手にとって読んだ。

すると、不思議と答えがわかった気がした。

何となく心が震えた気がした。

「何故、僕は小説を書くのか。何で今、僕は小説家なのか。」全て分かった気がした。

僕は急いでパソコンを開いた。

そして僕は、あのアドレスにメールを送る。

「大変お待たせ致しましてすみません。」という題名をつけて、

あの質問に対する自分なりの答えを書いた。

「小説家とは、」

すると、すぐに返事が来た。

「ありがとうございます。高槻さんなりの答えが聞けて良かったです。」

僕は、「それなら良かったです。また質問がありましたら、気軽にメールしてくださいね。」と送り、パソコンを閉じた。


小説家とは、

人々に、感動、希望、怒り、悲しみ、笑顔と、様々な感情を読者に小説を通じて伝える仕事。

たとえ、たった一人でも僕の書いた小説を楽しみにしてくれる人が居れば、僕はその人の為に小説を書き続ける。

小説家とは、そういう職業ではないだろうか。


そして僕は今日も明日も明後日も、誰かの為に小説を書き続ける。


for end.

作.高坂真白

こんにちは、“この作品の作者の”高坂真白です。

この作品では、物語の中に作者が登場する今までにない新しい書き方で書いてみました。

この物語には、私の様々な考えや思いが沢山詰まっています。

小説家という職業に焦点を当て、物語を書く。自分が普段やっている事を物語にするという事は私にとって初の挑みでした。

そして、いつしか「私だったら、」と考えている自分がいました。

例えば、文中の「高槻さんにとって、小説家とは?」という質問について、

私が高槻春樹だったとして、なんて答えていただろう?と考えていました。

なり気ない日常について聞かれた事を答えるってなかなか出来ないですよね。

私も、多分、高槻春樹のように、時間がかかることでしょう。


小説とは何か、また、小説家とは何なのか、私も物語を書きながら考えされられた作品でした。

この物語で、一人でも多くの方の心に何か一つ残ってもらったら、私は、幸せです。

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