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さらわれお姫様はオトされる前にオトしました

作者: 名もない鳥

ちらっと設定をば。


キール・エブァンス

海賊船の船長。イケメンだし本人も自覚がある。チャラい。

エラと過ごすうちだんだん性癖が広がってきて変態になる。(予定)

エラを妻にするためミラノーザ王国から攫った。


エラ・ジゼル・ノアストリーシャ

傍若無人で好奇心旺盛なお姫様。

ミラノーザ王国の姫。

世界でも指折りの美姫で、その美しさに魅了されたものは後を絶たない。

キールと過ごすうち色々なことを覚える。(家事等)



さらわれた美しい姫は、海賊船の船室にいた。

波の音が、ゆっくりと嘆くように鼓膜に響いている。

海賊船の船室と王国の姫は、今、対時する。




「…仕方がないですわ。でも、窮屈な服は嫌いですから別の服を下さい」

「だめだ。女は黙ってドレスでも着てコルセットを巻いておけ」

キールの冷たい声に眉根を寄せて語調を強めたエラは言う。

「窮屈な服は嫌いなの。だいたいドレスだけじゃ生活できないわ。ネグリジェやキャミソールは?」

「だからお「キャミソールは?」

少し強い声にペースを奪われかけている。

あれー…おかしいな。そこは脅しに屈辱を感じながら裸になるシーンでは?

俺は凶悪な海賊の船長だぞ?とキールは顔には出さずに思う。

イライラとした顔についに折れたキールがクローゼットを指差す。

「…中にある」

「ありがと」

当然と言う顔でクローゼットを開け、中を物色し「へんな服ばっかり」と呟いて、美しい純白のキャミソールを見つけて振り返った。

「着替えるから出ていて貰える?」

偉そうだなとキールは思ってからまた冷たい顔に戻った。

「出ていて貰える?…はっ…お前の夫になる男だぞ?妻の裸を見れない夫がどこにいる?」

「じゃあ第一号になって貰うわさっさっと出て行って」

あれ?おかしいな…キールは傍若無人なエラの態度に驚きながら焦りに腕を宙に振り回した。

「いや、だから」

「覗いたら許しませんわよ」

言葉をなくし仕方なくくるりと踵を返すと、「あ、ちょっと待って」と止められてまた振り向く。

「コルセットだけ外して貰える?一人じゃ出来ないの」

後ろを向いたままのエラがコルセットを動かした。

どうしようか迷っていると、「早く」と急かされた。

「こうでいいのか?」

硬い結び目を解くと、「あと背中のチャックも」

不機嫌に鼻を鳴らすと少し間が空いて「お願い」と声が聞こえた。

ジーッと下ろす。

V字型に背中が開いて、白い肩甲骨が露わになる。

美しい肌に少し指先が触れて熱を感じとってから、妙な気分になった。

「ありがとう」

「……」

返事がないのにエラが振り向こうとしたその瞬間、キールはエラの腰を掴んで机に押し付けると、はだけた背中の肩甲骨の下に強く口付けた。

「?!…い」

吸い取った跡は赤く染まり、痣のようになった。

キールがぱっと手を離すと、エラが焦りを感じてかすぐさまキールに向き直った。

「何を…」

「盗られたら困るからな。俺のものだという印だ」

ははっと笑いながら、エラの動揺ぶりを見て楽しむ。

なんだ…動揺するじゃないか。そりゃこんなイケメンにあんなことされたらな。

恥ずかしがるのは当然だ。フフンと得意になったキールは、「いいから出て行きなさい」と言う声に気づかず、気がつくと船長室の外に閉め出されていた。


くそっ…なんでこうなる…


予定外の状況に不服を感じながらむしゃくしゃして窓ガラスの隙間から覗くと、すでに着替え終わったエラが、キャミソールの裾を摘んで、太ももが見えるまで上げていた。


白く、長く、美しいしなやかな足が伸びて、慎ましやかなレースが肌の上で踊っている。


綺麗だ…


思わず惚けたように見惚れるキール。


エラはそのままくるりと一回転して、くすくすと微笑んでいた。

まるでレースと遊ぶようにくるくる回って楽しんでいるようで、流れるような銀髪がポニーテールに結ばれて流麗に揺れていた。


裸足がたんたんとステップを踏んでいる。


するとエラの瞳がこちらを向いて、目があった。

表情が変わり、怒ったように向かってくる。

ヤバい。バレた。

ガチャリと音がしてまとめた髪を振り乱して怒ってくる。

「覗きましたわね!もう!」

許さないと言ったでしょう!と指を指してくるが、目の前の彼女がとてつもなく可愛く、色香に満ちていて心臓の音が鳴り止まない。

適当に謝って一緒に船室に戻る。


エラは勝手気ままに裸足で歩き回っていた。


ヤバい。

ヤバいヤバいヤバいヤバい。


なにこれ。なんだこれ。


息が苦しい。胸が痛い。顔が熱い。


キールの心象とは裏腹に、エラは船室に置いてある豪華なベットを呼び指して言った。

「あれ貴方のベット?」

「え…?あ、ああ」

それは休憩用だが…と説明している間に、エラは走って行って乱雑に積まれたクッションの山を眺める。

「座ってもいい?」

上目遣いなのでひゃっくりのように頷いて答えてしまった。

ぼふぅっと沈み込むように倒れこむ。

それ座るじゃなくて寝転ぶじゃないか?

でも可愛いので許す。


「ふはぁ…」


やわらか〜いと顔を綻ばせて勝手にクッションを抱えている。

ヤバいなんだこれ。

顔が赤くなるのを感じて少し隠しながら隣に座る。


「おい…」

話しかけようと顔を見ると、スヤスヤと寝息をたてている。

おいおい…無防備すぎる姿に半端呆れながら喉で笑う。

俺…男なんだけどなぁ…そしてお前を妻にするとかのたまいてる海賊なんだけどなぁ…

もう諦めたキールは、そっと、ドキドキしながらその顔をよく見つめてみた。


整った顔、透けるような肌の白さに少し赤みが差して体温があるのがわかる。

ゆっくりと上下する胸は大きすぎず小さすぎず、しかし確かな膨らみがあり、柔らかそうだ。細い腕にぱつっとした太ももが見え隠れしてなんとも…なんとも。

手の形、唇の形、眉の形、長い睫毛、可愛らしい耳、全てが完璧すぎるほど整い、その姿はまるで女神のようで…


ごくり、と喉を鳴らした。


形容している場合じゃない。自分の指が無意識に動いて、その髪に触れた。

さらりと髪が落ちた。


「んぅ…」


声に反応してびくりと震える。

…起きてはいないようだ。


その唇にキスしたくなって目を細める。

今なら確実に体を奪えるだろう。でも。


それはきっと、いや確実に彼女を傷つける。


キールはそっとその額にキスして、エラの隣に横になった。

ふっと夢の中に落ちるように目を閉じると、望み通り夢はキールを向かい入れた。


。♥。・゜♡゜・。♥。・゜♡゜・。♥。・゜♡゜


朝、ぼんやりと窓から流れ出る陽の光に目がさめる。

「………」

あったかいわ…寝ぼけ眼で身動きするとふと、自分以外の人間の肌の感触がした。

あれ…?と思い、エラがその方向を見ると、すでに起きていたキールがこちらを見ていた。

「おや…?起きたかなねぼすけさん…」

至近距離、低い声で耳元に囁かれてぞわりと背筋が震えるが、エラは二度瞬きしただけだった。

無反応かよっ

少しダメージを受けながらキールが引きつった笑顔のままでいると、エラがぼや…と寝ぼけながら「どぉりであったかいわけらわ…」と舌の回らぬ喋り方で呟いた後、意味もなくはだけているキールの胸元にくっついてスヤスヤと眠り出した。

「あったかぃ…」

ぎゅっとくっつかれて逆に射抜かれ身悶えながら、ぎこちなく背中に腕を這わせる。

久しぶりによく眠った気がするのは気のせいだろうか…うたた寝はやがて夢の中へ入り込み、そのまま戻ってこなかった。


。♥。・゜♡゜・。♥。・゜♡゜・。♥。・゜♡

もう一度起きたのはすでに昼過ぎだった。

「んぁ…はっ!」

二度寝からハッと目が覚めると、エラはキールに抱きしめられたまま横になっていた。

状況を確認して改めて赤くなると、「きゃあ!」と悲鳴をあげてキールを突き飛ばそうと弱々しく胸を叩く。

「ん…?」

その衝撃に半分起きたキールが寝ぼけて「んん…なんだよ…眠いんだから動くなよ…」

とエラの肩を反射的に抱きしめた。

「ひゃ…ぅ…」

胸板に押し付けられる感触がして真っ赤になりながらなんとか腕から逃れようとする。

「ち、ちょっと!起きなさい!こら、ちょっ…」

動こうとすると「んぅー…」唸って背中を弄られる。

「んひゃぁ…!」

ななななっ…エラは動揺しきって固まる。

「んん?…あれ…寝ちゃったのか…」

薄く瞼を開けて起きたキールがふぁ、と欠伸した。

「寝ちゃったのかじゃないわよ!離しなさいよ!とにかく!」

ぐぐぐと離れようとするが流石に男の人の力には敵わない。

「うるさいな…」

んーっと伸びをして起きたキールが赤くなっているエラを見て調子を取り戻し、急に起き上がってエラの上に四つん這いになり顎をくい、とあげた。

「なんだ…?お目覚めのキスをして欲しいのか…?」


ぱちんっという軽い音がした。


「いたい…」

「当然」

張り倒された。


「ところで何をしようとしてるんだ?」

胸元がはだけたままの状態で頭を掻きながらキールは聞いた。

「朝ごはんを作るのよ」

ぐいっと袖はないが捲る仕草をしてみせた。

「……!俺の妻が朝ごはんを作ってくれるのか!」

「誰が妻よ」


ぱちんっという2回目の音が響いた。


「何も叩かなくったって…」

「うるさい」


涙目のキールは頬を抑えながらいそいそと準備をするエラを眺めている。

今日も可愛い。


「ここ、簡単に調理できる器具を置いてるのね」

「ハイテクだろ?…なぁ…何作るんだ…?」


背後に立ってエラの背中にぴったりとくっつくと、耳元で囁きながら耳の裏にキスした。

「っん」

びく、と震えると、楽しそうにキールはエラの腰に腕を回した。

ぎゅぅ…と優しく抱きしめる。

「ち…ちょっと…邪魔なんだけど…」

不機嫌な声でエラは準備の手を止めた。

「いい匂いだな…お前…」

すんすんとエラの香りを嗅ぐ。

「ちょっと!…」

変態じゃない!と振りほどこうとすればするほどきつく抱きしめられる。

「なぁチューしていい?」

「は?!絶対だめー」

その時にはすでに首筋に口付けられており、リップ音が甘く響いている。

「んっ…ふぅっ……っあ」

ちゅ、ちゅ、と音を立てて跡は足跡のようにつけられた。

「やめてって言ってるでしょ!」

突き飛ばされてようやく、自分の行動の意味に気がつくキール。

やべぇ…ちょっと調子乗りすぎたか。

腰が抜けたように座り込むエラは、震えながら赤面している。

ムラッとしてもっといじめたくなったが、流石にそうはいかない。

「悪かった…」

「………いいわよ」

フンとそっぽを向かれた。


しかしまだ料理を作る気はあるようで、また準備し始めた。

「おい」

「…なによ」

こちらを見ないでエラはぶっきらぼうに返事した。

「これ、着けろ」

エプロンを差し出す。

「………ありがと」

受け取ったものの、付け方がよくわからない様子のエラ。

「貸せ」

キールはエプロンを奪ってエラに着させた。

リボンをとめる。

「……気おつけろよ」

「うん…」


「頑張るわ…」

まな板の前の玉ねぎを前にプルプルと包丁を真上に上げ、両手で持つとそのまま切りかかった。


「ちょっ!おい待て!」

焦ってやめさせるとエラはきょとんとした。

「お前…料理の経験は?」

「ないわ。一度も」

当然でしょ?と何故か自信げにエラは息を吐いた。

「あちゃー…」

そういえばこいつお姫様だった…。

頭を抱えてしばらく沈黙すると、キールはエラの背後にたって料理の仕方を指導し始めた。

「いいか、左手は猫の手。…指を丸めるんだ。そして包丁をこう持って…こう切る」

「……(シャク)…!…切れた!切れたわ!」

嬉しそうに振り返って顔を綻ばせるエラの様子にまたクラッとくるキール。

「大袈裟だな…それにしても綺麗な手だ…指切ったことあんのか?」

手を重ねて教えていたのをいいことに、握ったり開いたりして触っている。

「ないわ。17年間一度も」

「一度も?!」

その言葉に驚愕して唖然とするキール。

「ここまでくると逆に切ってみたいわ」

痛いのかしら?とエラは首を傾げている。

そりゃ痛いだろ。

キールは包丁をちらりと見た。

「仕方ないでしょ?できなかったのよ。メイドや使用人が、『お手を一ミリでも切られたら首を刎ねられますぅ』って懇願するから…」

どんな掟があるっていうんだミラノーザ王国は。

「ま、確かに。切られたら俺でも自分の首を刎ねるな」

真っ白な手をにぎにぎして言う。こんな綺麗なのに勿体無い。

冗談だったが、エラに真面目な顔をされる。

「あら。死ぬのはダメよ。死んじゃダメ」

そっと白い両手で頬を包み込まれた。

真剣そのものと言う顔でじっと見つめられると、つい悪戯したくなる。

ちゅっ

「…!!」

両手首を掴んで頬に手を添えていた位置に空中で固定してから、顔だけ動かして唇に触れるようなキスをした。

「ん…」

びっくりしたまま固まるエラの腰に手を回して抱きしめたまま深く口付けた。

抵抗する力もないのか、ずるずると足の力をなくし、ついにはぺたんと床に座る。

恥じらいにか離された唇の感触を誤魔化すように手の甲で唇を塞いでいる。

目はこっちを見ない。

「……好きだ」

告白の言葉につい顔を上げてしまうエラ。

少し恥ずかしそうに笑ってキールはエラの左手をとって薬指にキスした。

「あなたを一生守ると誓います」

姫を守る騎士のように、鮮やかにキールは笑った。

「結婚してください」

♥。・゜♡゜・。♥。・゜♡゜・。♥。・゜♡゜・。

「いや」

「え」


せっかくかっこよく決めたのにキールはあっさりと振られる。

「えー!!おい!そこはYESだろ!!」

「なんで確定なのよ」

まだ熱の引かない顔でプイッとそっぽを向かれてしまう。

この…今すぐお姫様抱っこで攫ってベットに押し倒してやろうか…!

「……お腹空いたわ」

もう疲れたというように腕を投げ出してだらりとする。

む、無防備だー

逆に心配になってきたキール。

「…はぁ…わかったよ。なんか作るから座ってろ」

「…わかったわ」

むぅと膨れた後諦めて椅子を引いて座る。

足をぶらぶらさせているのがなんとも可愛らしい。


玉ねぎを細かく切って、飴色になるまで炒めてからベーコンを焼く。

何種類かチーズを出してきて削る。

卵をふわりと別のフライパンに流すと、玉ねぎと一緒に軽く混ぜてからもう一度引いた卵に挟む。チーズをのせてそれが溶けた後ベーコンをのせ、卵を閉じた。


しばらくそのまま。


「できたぞ」


慣れた手つきでキールは皿にそれを乗せた。


「…!……いい匂い」

身を乗りだして香りを嗅ぐエラ。

「冷めないうちに食べろよ」

フライパンを置いて向かいに座ると、頬杖をついてエラの顔を眺める。

ごくり、と喉を鳴らす音が聞こえた。

「いただきます」

ふっくらとした卵にナイフを入れると、銀色に光るナイフはいとも簡単に飲み込まれていった。切り口からとろりとチーズが流れ出て、食欲をそそる。

刃に当たる微かな感触は、きっと自分が少し切った玉ねぎだろう。

じゅわぁと流れ出る卵とチーズの香りが鼻腔をくすぐる。

「…美味しそう」

ベーコンの香りがハーモニーを奏でて、早く口に入れてと急かされているようだ。

「はむ…ん」

ぱくんとその切れ端を口に運ぶと、口の中に充満する濃厚なチーズとベーコンが刺激的に口内に絡みつき、ふわっふわの卵が優しく歯に沈んで、玉ねぎがしゃきしゃきと音をたてる。

「んふぅ…」

ほふっと熱々の卵を口に入れてほんのり頬に熱が集まり、額に汗が滲む。

ごくりと飲み込んだ。

「……!!……美味しい!!」

思わず満面の笑みを浮かべてキールを見る。

「ははっ…だろ?」

キールは笑ったエラの顔を眺めながら嬉しそうに微笑んだ。

「なんていうの?これ」

ぱくぱくと口に運びながらエラは聞いた。

「知らないのか?…オムレツだよ」

「オムレツ?」

ごくりと飲み込む音が聞こえた時にはすでに皿の上のオムレツはなくなっていた。

はやっ

キールが思った時には、エラは口を拭いてワインを飲み干していた。

「ばっ!!」

馬鹿と言おうとした時にはもう遅く、無意識に出したワインを間違って飲んで、エラは机に突っ伏した。

「あー!あー…しまったつい癖で…」

飲み干されたグラスを虚しく掴んで頭を抱えるキール。

エラは17歳。

「未成年が酒飲むなよ…」

はぁ、とため息をついて酔っ払ったエラを起こそうとキールが肩に触れると、「きぃーる…」と寝言のように名前を口にした。

どきっと心臓が飛び上がる。

なんだよ…急に…

どきどきと高鳴る音が胸を締め付ける。

「ほ、ほら…起きろよ。エラ…」

立ち上がって本格的に起こそうと肩を掴むと、エラはキールの胸に飛び込んできた。

「わっ…!」

どさりと床に尻餅をつく。

「きぃーるぅ…」

ぎゅうっとエラから抱きしめられて更にヒートアップする心臓の鼓動。

理性よ…!もってくれ!

なんとか冷静な頭を保ちながらお姫様抱っこでベットに運ぶ。

無意識にエラはキールの首にしがみついている。

「ん…」

呻くたびどきりとしながらベットにたどり着き、そっと乗せる。

「んぅ…」

眠りについたお姫様の髪を撫でて、キールは切なそうに呻いた。

「エラ…」

こう見ると眠れる森の美女のようだ。

助けに来た王子様の手によってお姫様は助けられ、王子様はお姫様と結婚する。

子供の頃に読んだおとぎ話はそう、いつもハッピーエンドだった。

なのに幸せにしたいお姫様は俺が攫った。

それにどちらかというと自分は悪役側にいる。

しっかし17か…俺が21だから4歳差…

「なんでこうなんだろうなぁ…」

ぼんやりと不平を漏らすとエラが目を開けた。

「ん…?」

「!…起きたか」

じと、と睨まれ、疑いをかけられている。

「おいおい俺は何もしてないぞ。お前が勝手に酒飲んで酔っ払ったんだろうが」

しかしエラはどうだか?と信じない様子。

「っ…じゃあ今からしてやるよ…!」

どさっと乱暴に押し倒して手首を押さえつける。

「いた…何…?どうしたの?」

少し怯えた目でキールを見上げた。

「黙ってろ」

いつになく不機嫌な声で言うと、エラの耳にキスした。

「んっ…」

二、三度キスしたかと思うと、ふぅーっと耳に息が吹きかけられた。

「や…ん…」

ぞくぞくと背筋に這い上がる感触。

そのまま首筋に跡をつけて唇を這わせると、鎖骨に触れた後に唇にキスしようと迫ってくる。

「嫌っ…ね…どうしたの…?」

身をよじって逃げようとしたエラの手がキールの手をすり抜けて、キールの唇を抑えるように手の平で止めた。


しかしキールは止まらず、無理やりエラの唇を塞いだ。

「んぅ!…ん…!…!!」

力ずくでキスされて、抵抗するエラの手の平を押さえつけ指を絡ませる。

「…やめて!!」

驚くほどの力でキールを突き飛ばし、キールは後ろに吹っ飛んで床に投げ出された。

「やめて……」

震える声でベットの端に寄り添うように縮こまる。

それを見て、冷えた頭がキールをきりきりと責めだした。

やってしまった…傷つけてしまった。

虚しさにこうべを垂れる。

「……きっと…きっとこれは罰なのね。神様が私に与えた罰」

唐突に話しだしたエラにキールが顔を上げる。

「…始めの夜、貴方はこうすることができた。でもしなかった。するように仕向けたのに。

…私は貴方を試した。貴方がどういう人間なのか」

「……は?」

あれは本当に眠っていたんじゃないのか…

今更騙された事に気付いて笑いがこみ上げてくる。

「はは…違うよ。違う。酔った時その事について口走ったとでも思ったのか?」

はははと乾いた笑いがキールの肩を揺らした。

「……?」

そう思っていたらしき表情だ。

「もどかしいな…触れる事が制限されているのは…」

エラはよくわからないという顔をしている。

キールはベットのへりに近づいてきて足を乗せた。

「いいか?大人がベットの上ですることと言ったらな…こういうことだぞ…?」

キールはびくっと震えたエラの頬に手をやってからすぅーっと下に指を動かし、首筋を伝って鎖骨の間を通り、軽くキャミソールの胸元を引っ張った。

「っ!!…し、知ってるわ!…そのくらい…」

赤くなって目をそらすが「ちゃんと見ろ」とキールに言われて恐る恐るキールを見る。

「覚悟しろ。お前が18になった暁には…」

恐怖にエラが唾を飲み込んだ。

「喰うからな」

最後に耳元に低く囁いて、くっくっと喉を鳴らして笑った。

「ぁう…」

かぁっとなって固まるエラに、キールはいつもの悪戯な笑みをこぼして笑う。

「だーいじょうぶだって…優しくしてやるから」

わざとらしくにやにやしてエラの唇に触れてくる。

「うるさいわね!てか妻になるとは一言も言ってないわよ!」

ぐいぐいとキールを押してくる。

「な、もう一度キスさせて…?」

甘い声で懇願されて断りにくくなる。

「いいだろ…?もう一回だけ…」

今にも吸い付きそうなキールが迫ってくる。

「う……あ…」

呻いているうちにものすごく優しく、ゆっくりと唇を重ねられ長く長くキスされた。

「ん…」

ちぅ…とリップ音。

「んー…ん…!」

唇を舌でなぞられてピクンと体が跳ねる。

「口…開けろ…」

はぁ…と吐息の漏れる声で言われて少し抵抗したが、薄く開いた口の隙間から侵入してきた。

「んむ…んぅっ…ぁ…」

舌のうねる感触がなまめかしい。

ちぢゅぅ…

「…ぷは」

やっと離されてとろんとした目でキールを見つめるエラ。

「大人のキスはこうだ…一つ覚えたな」

ぺろりとキールは唇を舐めた。

「……」

赤面したままでエラは何も話さない。

「だんまりか?まだまた教えてやってもいいぞ…?」

「っ結構よ!」

近づいてくるキールをどかしてまたそっぽを向く。

「ま、今日はこれくらいにしてやる」

キールはにやりと笑った。

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