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第二章『青春の幕引き』 其の肆

 道中にて。

「よし、それじゃあ決戦といきますか!」

「うん! うちも久しぶりの剣やし血が騒ぐわ~」

「まさか、俺たちの剣道の腕がこんなところで役に立つとはな……」

「うちも家では真剣振るってたし慣れてるんよ」

「そういえば、俺も親父の日本刀を振り回してたっけ」

「『天下無双のツーマンセル』やっけ?」

「ああ。史上最強、最高の剣士だとか言われてたんだっけ」

「懐かしいな~。あの頃は剣道のことしか考えてへんかったわ」

「俺も授業中に色々考えてたな。こうしたら相手の意表を突きやすくなるとかさ。」

「あんたそんなこと考えてたん?」

「あの頃はお前に勝ちたいって本気で思ってたんだぜ?」

「うちもや」

 ふふふ、と彼女は笑う。

 俺も彼女に釣られて笑う。

 この時間がずっと続けばいいのに、とそう思ったが、しかし、時は刻一刻と迫っていた。

 さて、さっき「天下無双のツーマンセル」というなどという謎のキーワードが出現し、困惑している読者もいるであろうから、やはり説明しておかねばなるまい。

 俺と美紗は中学時代に剣道部に所属しており、しかし、強豪校なんかではなく、けれども俺と美紗だけは常に良い成績を収めていた。

 だけれども、俺と美紗は決してどちらかの方が優れていたなんていうことはなく、結局俺と彼女との決着がつくことはなく、月日は流れて俺たちは部活を引退したのであった。

 確かに悔いは残ったけれども、しかし、「天下無双のツーマンセル」という形で俺たちの戦いは収束したのであった。

 そして、今再び「天下無双のツーマンセル」は集い、己の目的のために共に戦おうとしているのだが――

 当時――当時というのは俺たちが中学生だった頃である――天下無双のツーマンセルと呼ばれていた俺たちでさえ、幾多もの猛者たちを蹴散らしてきた俺たちでさえ、やはり震えていた、恐れ戦いていた。武者震いなんかじゃなく、本当に震えていたのである。

 それも当然。だって――

「なあ、有紗。もし、この戦いで俺たちが敗れて死んでしまったらどうなると思う?」

「そりゃあ……あれ? どうなるんやろ? だってうちらもう――」

「そう、俺たちはもう死んでいるんだよ。死人が死んだら一体どうなるんだ?」

「それは――」

 その後、俺が彼女から答えが得られることはなかった。何故なら、そこにいたからである。彼らが、俺たちの敵が。


 彼らは確かにそこにいたが、しかし、たった二人しかいなかった。見た目も周りの鬼とはさほど違いも見受けられず、果たして本当に彼らがそうなのかという確証はなかった。

 しかし、質問してから切りかかるというのも些か下劣な考えだと思い、一か八か俺の直感に賭けることにした。

 さて、この戦いはあちら側には戦闘の意志はなく、こちらのタイミングで戦闘は開始する。つまりはこちらが確実に先手を取れるということである。

「行くぞっ!」

「うん!」

「な、なんだお前たちは――」

「問答無用!」

 しかし、俺たちの不意打ちは空を切り、けれども彼らの攻撃は俺の腕を掠ったのである。

「これが実力の差だというのか――」

「智也! まだ諦めたらあかん! 二手に分かれよ!」

「おう!」

「全く……一対一とはなめられたんものだ。そんな武器で我らに勝とうなど愚かでしかないぞ」

「ふっ、お前はこれが何なのかわかっていないようだな。ならば、こいつの攻撃を一度受けてみろ!」

「そんな挑発に乗るとでも思ったか。だが、いくらあがこうともお前たちでは儂らには勝てぬっ!」

 名刀「朱雀」をその手に構え、俺は赤い鬼と対峙していた。一般的に知られている赤鬼というのは棍棒を武器にして戦うものかもしれないが、しかし、彼は棍棒ではなく刀で戦っていた。俺と同じような刀である。

「この名刀『白虎』の一振りは虎のごとく重い一撃を喰らわすぞ!」

「この名刀『朱雀』も相当な力があるはずだけどな!」

「名刀『朱雀』だと? 成程、この一件にもあのお方が関わっていたのか……」

「ご明察。この刀は閻魔大王から譲り受けたものだ。果たしてお前にこの刀身が生み出す斬撃を防ぐ術はあるのか?」

「それはお前も同じことだろう!」

「ま、それもそうか」

「ならば、この戦い――どちらか隙を見せたものが死ぬ! それだけの事――」

「ああ! でも、もう死ぬのは御免だ!」

「ならば! その刀身を振り下ろし、儂を打倒して見せよ!」

「望むところだ!」

 互いの口上も終わり、俺たちはようやく、ウォーミングアップを終え、本気の戦闘に入ったのであった。刀と刀がぶつかり合い、快い金属音が地獄中に響き渡り、そして――互いに命を削り合う。そんな戦いが今、地獄の底で行われていた。

「どうした! 地獄の門番と言っても所詮そんなものか!」

 俺の持つ名刀「朱雀」は鳥のように速く、鳥のように宙を舞う、華麗な剣技を見せていたが、一方で彼の持つ名刀「白虎」はその一撃が重く、こちらは避けることを余儀なくされてしまった。

「何を――」

「しかしお前も儂の攻撃を避けるばかりで一向に攻撃できてないではないか」

「反撃のチャンスを窺っているだけだよ!」

「成程、『朱雀』の力か。厄介な敵を相手にしてしまったようだな――」

「ああ、持久戦で持ちこたえるつもりだよ」

「しかし、あの少女は大丈夫なのかな?」

「美紗――!」

「うちのことはええから智也は――」

「油断大敵! よそ見をしている暇なんてないぞ!」

「くっ――」

「これでとどめだ!」

「させるかよっ!」

 渾身の一撃を外し、赤鬼に一瞬の隙ができ――俺はそれを見逃さなかった。

「くっ――」

「隙ありっ!」

「な――!」


 決まった。なんともまあ、華麗な斬撃だったが、しかし――

「兄さん!」

「おお、助かった。今のを喰らっていればさすがの儂もただでは済まんかっただろう」

「ちっ――」

「あんたの相手はうちや! それとも二対二にするん?」

「望むところだ。地獄で最強のコンビに勝負を挑んだことを後悔するといい」

「生憎、うちらも日本一のコンビなんでね」

「それならばこちらも精が出るというもの。我が兄弟の織り成す剣技、とくと見よ!」

「うちらの百戦錬磨の剣技を受けてみい!」

 と言い終わり、互いの剣技が繰り出されたのはほぼ同時だったかもしれないけれど――俺たちが後れを取った。

「美紗!」

「と……智也は戦い! うちは大丈夫やから……」

「大丈夫なわけないだろ!」

「ちょっとミスっただけ……だから、智也は戦って!」

「俺だけが助かっても意味がないんだよ!」

「と、智也何言って――」

「俺は二人で生き返りたいんだ!」

「智也……」

「ほら、しばらくお前はそこで休んどけ」

「で、でもっ! 一人じゃ今度は智也が――」

「今は黙って言うことを聞いてくれ!」

 さすがに言い過ぎかもしれなかったけれど、だけど、俺はこれ以上大切な人が傷つくのを見たくなかった。

 だから、この戦いは俺の手で終わらせる。美紗に手を出させたりはしない!

「ふん……くだらん青春ごっこは終わりか?」

「くだらん、だと? 何も知らない鬼風情が!」

「全く、人間とは弱いものだな。守るべきものがあると余計に自分が傷つきやすくなるというのに、それでもなお守り続けようとするとは――」

 愚かだな、と彼は言う。

「愚か? 愚かなのはお前たちの方だろ、鬼。守るべきものがあれば人ってのは強くなるもんだぜ?」

「ふん……」

「何か最後に言っておくことは?」

「この戦いは俺が終わらせる!」

「小癪な……」

「美紗、この刀借りるぞ」

「えっ……あ、うん」

「二刀流か……。武器は多けりゃ強いってものではないぞ?」

「そんなこと分かってる。でも、この刀は俺に力をくれるんだ。かつての戦友の力をな」

「ほざけ……」

「「行くぞっ!」」


 先手必勝、電光石火のごとく斬りかかり、奴らに傷を負わせる。

 奴らの二人がかりの攻撃さえ一人で受け止める。

 火を見るより明らかなほど結果は明らかだったろうけれど、しかし――

「甘いわ!」

「な――」

 そうは問屋が卸してくれなかった。一瞬の隙をついて、俺が赤鬼の攻撃を弾いた瞬間を狙って青鬼が斬りかかって来たのである。

 さすがの俺もそこまでの攻撃はかわし切れなかった。

 でも、美紗が受けた傷に比べればこんなもの――

「ふん、さっきまで大口をたたいておったくせになんだ、そのざまは」

「ヒーローってのは逆境から這い上がるからヒーローなんじゃないのかよ」

「馬鹿馬鹿しい……」

「俺はまだ終わらねぇよ」

「お前を打ち倒すまで、絶対に負けねぇ」

「ならば! 我ら兄弟を打ち倒して見せよ!」

「望むところだ」

「しかし儂らとしても不平等な戦いをするのは気が引ける。そこで、あの少女の回復を待つというのはどうじゃ?」

「その必要はない。お前たちは俺一人で十分だ」

「愚かな……」

 途端、彼らは攻撃態勢に移り、同様に俺も構える。

 しかし、俺もただ単にやられていたわけではない。

 端的に言えば彼らの攻撃パターンや動きをじっくりと観察していたのである。ゆえに、ここからは攻撃態勢へと移る。

「な――」

 やはり。赤鬼の攻撃をかわしたところに青鬼が斬撃を打ち込む。彼らの戦闘方法はさっきから全く変わっていない。そして、それを読み切り、俺は両方の攻撃を一手に受けたのである。

「愚かなのはお前だったな」

「な、なぜ我らの連携攻撃を見切れたというのだ……」

「バーカ、そんなこと誰が教えるかよ」

「こ、小癪な! 若造がっ!」

「おっと、もうお前らに攻撃はさせないぜ」

「何を下らんことを……」

「いや、単に俺が攻撃態勢に移るってだけの話だけど」

「攻撃態勢? じゃあ今までのは――」

「ただの観察だよ。さっきはちょっとしくって傷を負ってしまったけどさ」

「そんなことはさせん!」

 しかし、彼らの攻撃より少し、ほんの少し先に俺の攻撃が炸裂した。それはつまり、俺は彼らを打倒したということである。

「美紗! 大丈夫か?」

「智也……」

「しっかりしろ!」

「そんなに騒がんでもほれ、この通りや!」

「よかった……」

「もう、男がそんな簡単に泣いたらあかんやろ?」

「で、でも……」

「ほら! 行くで!」

「う、うん……」

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