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第二章『青春の幕引き』 其の参

 そして、俺と美紗がそんな話をしている間に俺たちが審判を下される時が来た。

「桜咲美紗と神山智也だな?」

「はい」

「お前たちは知り合いの様だから二人とも一度で判決を言い渡そう。行先は同じだからな」

 ――俺は間違いなく天国行きだから彼女も同様に天国行きということだろうか。確かに彼女も俺と同様に善行しか行ってきていないようだから天国行きは間違いないのだろう。

「智也、一緒やって!」

「しっ! 判決が言い渡されるぞ」

「では、判決を言い渡す。お前たちは二人とも地獄行きだ」

 ――え?

「俺たちが地獄行きって……」

「理由を聞いてもいいですか?」

「ふむ、説明してほしいのか」

「もちろんです。俺たちは地獄に落とされるような行いはしてきませんでしたから、この判決にはそれなりの理由があるはずです」

「お前の言う通り、本来なら天国行き或いは転生の判決を下されるような行いしかお前たちは行ってこなかった。しかし、お前たちは二人とも生前に唯一過ちを犯している。その過ちとは、お前たちは自分に嘘をつき自分の想いを相手にきちんと伝えていなかったということだ。要は、好きな人に告っていないということである。」

「そんな――」

「告白ゆうてもタイミングちゅうもんがあるやないですか!」

「二人とも今言っても全く問題はないのだぞ?」

「「え⁉」」

「でなければこんな判決など出すものか」

「だから、お前たちは地獄に落とされるが、しかし、儂はお前たちの恋路を応援したいと思っている。地獄からうまく抜け出し、天界へ向かえ。天界にある『世界を繋ぎし神の石』を探せ。それを使えば現世との交信が可能となる」

 ――世界を繋ぎし神の石ってネーミングセンスなさすぎだろ。

「なるほど。俺たちは天界にあるその石を使えば俺たちの想いを伝えられるということですね」

「まあ、そういうことだ。そして、お前たちは地獄へ落ちた理由がなくなり、現世へ生還できるということだ。」

「では、俺たちを地獄へ送ってください」

「うむ、では」

「お前たちは地獄行きだ!」

 ――やっぱ決めときたかったの⁉

 彼は裁判長が使っているハンマーのようなもの(俺は正確な名前を知らない)で、まるで裁判長が判決を下すように俺たちに判決を下した。

 ――これじゃ彼が裁判長みたいではないか。というか、名前を聞いておいてもよかったな。


 俺と美紗は再びあの場所に戻るために地獄へ落ちた。

 自らの愛を伝えるために地獄に落ちたのである。

 それは確かに正しい選択で、しかし間違った判断だったのかもしれない。なぜなら、俺たちは元から地獄から抜け出すために地獄に落ちたからである。

 地獄に用がないのならば最初から地獄になんていかなければよかったのだけれど、俺たちは地獄に行くしか選択肢はなく、やはり必然的に地獄に行かなければならなかったのである。

 危険を冒してでも地獄から抜け出す理由が俺たちにはあったが、しかし、ひとまず俺たちは地獄の鬼たちの指示に従うことにした。

 地獄という割にはそこの案内人である鬼たちが非常に優しく誘導してくれる。早く俺たちの苦しむ姿を見たいのだろうか、はたまた、地獄の苦しみを味わう前まではできるだけ俺たちに優しくしておこうという彼らなりの配慮なのだろうか、そんなことは俺たちには検討の余地はなく、しかし、俺たちは地獄から抜け出すために地獄についての情報収集をしなければならないという厳然たる事実があり、結局俺たちは無知ゆえに、無知だからこそ、そうするより他に手段はないのであった。

 そして、俺たちの努力が功を奏し、地獄の情報収集を終えた俺たちは地獄の長である閻魔大王に会うために地獄を彷徨っていたのである。

 読者の中には閻魔大王は俺たちの敵なのではないかと首を傾げている人もいるだろうが、しかし、結論から言えば彼は敵ではなく、だけど味方でもなかった――敵でも味方でもない、中立の存在。彼はそんな立ち位置なのだった。

 何より、俺はこの世界に降り立つ前――地獄に落ちる直前、黄泉の世界から姿を消す寸前、名前も知らない彼は俺たちに告げたのである。

 ――地獄に落ちた後、閻魔を探せ! 閻魔大王だ! 地獄のどこかにいる奴の協力を取り付けることができればお前たちの地獄からの脱出も容易なものとなる。奴は中立だ。自らの価値観をもってその者に協力するか否かを決め、そして彼を味方をつけることは地獄からの逃亡においては大きな手助けになるだろう。閻魔を味方につけろ! 頼んだぞ!

 とまあ、このようなことを言われ、彼の言う通りに俺たちは一心に閻魔大王を探しているのであった。

「ともや~、閻魔さんってどこにいはるん?」

「そんなこと俺に聞かれても、地獄は日本の領土よりも広いぐらいらしいし、そう簡単には見つからないんじゃないのか?」

「えー、そんなに広いん?」

「そりゃ、世界中の死人がいるわけだし相当な人がいるんだろうな」

「大阪駅で迷ってたうちにこんなところで人探しせえって、いくらなんでもひどすぎひん?」

「え⁉ お前大阪行ったことあるの⁉」

「そりゃあ、てか、うち大阪生まれやし」

「マジか⁉ 初耳だぞおいっ!」

「そういえば確かに智也には言ってへんかったな」

「うんうん! ちょっと大阪の話聞かせて!」

「え? 智也ってもしかして――」

「あー! あー! あー! あー! あー!」

 我ながら無様で、滑稽で、愚かな姿であったが、しかしやはり俺は彼女に知られたくなかった、俺が大阪に行ったことがないということを。

 やはり俺は大都会にはかなり惹かれるものがあるけれど、大阪は魅力的な大都会だけれど、しかし――

 しかし、俺は生まれて15年間、一度たりとも、決して大阪には行ったことがないのである。

 大阪とは――大阪とはいったい何なのだ? たこ焼き? 通天閣? ヒョウ柄のおばちゃん? やはりさっぱり分からない。今度の有紗との旅行は大阪辺りにしてみようかとさえ思わせるほど大阪は俺にとって魅力的な都市であった。

「大阪はやっぱり死ぬまでに行っておきたい三大都市の一つに入るな!」

「あんたもう死んでるやん」

「そんなこと言わないで! 絶対生き返るから!」

「ふ~ん。ま、うちも生き返りたいから智也の助けにはなるつもりやけど」

「そういってもらえると助かるよ」

「二人で生き返ろな」

「もちろん!」


 それから暫くの時間が経過したが、しかし――やはりというべきだろうか――俺たちは閻魔大王の人物像の片鱗さえ掴めていないという状況に陥っていた。

「やっぱり近くにいる鬼に聞いた方がいいんちゃう?」

「このままじゃ何の成果も得られないまま死んでしまいそうだから、誰かに聞いた方がよさそうだな。いや、待てよ、この世界で餓死とかあるのか? というか、そもそも食べ物自体があるのかどうかわからないよな……」

「そんなこと考えてたらいつまでたっても閻魔さん見つけられへんで」

「そ、そうだな。ここは変なことを考えずに閻魔大王を探すことだけに集中した方がよさそうだな」

「あ! あそこに何人か鬼がいはるで」

「本当だ。じゃあ、閻魔大王の居場所を聞いてみるか」

 そして、俺たちは鬼たちに閻魔大王の場所を教えてもらうために、

「「すいませ~ん」」

 と言って話しかけた。

「なんだ?」

「ちょっと所用があって閻魔大王さんの所に行きたいのですけど、どこにおられるかご存知ですか?」

「ああ、閻魔様ならそっちの方にずっと歩いて行ったところにおられる」

「ありがとうございます」

「で、お前たちは何のために閻魔様に会いに行くのだ?」

「実は、黄泉からここに送られたときに地獄に行ったら閻魔大王さんに会うようにと言われていたんです」

「成程、お前たちは新入りか。道理で見ない顔なわけだ」

「はい、そうなんです」

「引き留めて悪かったな。さあ、閻魔様に会いに行くとよい」

「はい、色々とありがとうございました」

「閻魔様に会った時には粗相のないようにな」

「「はい!」」

 さて、閻魔大王の居場所を知った俺たちは鬼たちが指さした方向にひたすら歩いていたのだが、しかし、一向に閻魔大王の姿は見えてこなかった。

「一体どんだけ離れてるんだよ……」

「あ! あそこ!」

 何やら一軒家のようなものがあったけれど、まさか閻魔大王が一軒家に住んでいるはずもなかったので素通りしようとしたのだが、ここで閻魔大王のいる所までの距離を尋ねておくのも悪くないと思い、その一軒家にお邪魔したのであった。

 しかし――

 しかし、そこにいたのは――

「お邪魔します。少し尋ねたいことがあるのですが」

「うむ、なんでも話せ」

「閻魔大王という方を探しているのですが、どこにおられるか知っておられますでしょうか?」

「閻魔大王は儂だが?」

「はい、分かりま――え?」

「だから、閻魔大王は儂だと言っておろう」

「本当ですか⁉ 地獄に送られてからずっと探してました!」

「して、何用じゃ?」

「実は――」

「成程のぅ」

 事情を聞いた彼は大まかな事の事態を把握し、納得する。

 まあまあ、よくあることじゃ、と。

 やはり、恋人と悲運の別れをした哀れな人々がたくさんいるようだったが、しかし彼は――

 彼はこう続けた。

「しかし、うぬらのような輩は中々見んぞ」

「と、言いますと?」

「うぬらのような輩は大抵絶望的な心持ちで儂に会いに来るのじゃが、儂はそういう輩は嫌いでの。そういう輩が来たときは大抵追い返すのじゃよ。しかし――」

 うぬらはそういう輩とは違う、と、心にまだ希望が残っておる、と、彼は続ける。

「それじゃ――」

「うむ、お主らの力になろう」

「「やった!」」

「では、詳しい話を聞かせようかの」


「ここから東にしばらく行ったところに門があるのじゃが、そこには何匹かの鬼の衛兵がいるはずじゃ。彼らは中々鍛え上げられていて、まあ、大抵の人間は奴らを打ち負かすことは不可能じゃろう。そして、儂がこの件に一枚噛んでいることが他の連中にバレてしまえば自分も地獄から出たいという輩が儂やその門番の所に集まってくるじゃろうし、それだけは何としても避けたいところじゃ。

「ゆえに、うぬらに儂の力を貸すことはできぬが、そう落ち込むでない。そうとなれば、儂のありったけの知識でうぬらの手助けをしよう。

「まず、門番兵と戦わなければならないのじゃが、しかし、奴らに太刀打ちしようと思えば素手というわけにもいくまい。武器が必要じゃろう。

「ほれ、これを使うとよい。古来より受け継がれてきた名刀『朱雀』と『青龍』じゃ。これを使えばさすがのやつらにも対抗できよう。

「何? 斬ってもよいのか、じゃと? それについては構わん。どうやらうぬを助けないとえらくひどい目に遭うらしくての。奴らには悪いが、ここは思いっきりやってくれて構わん。心配せんでも奴らは頑丈じゃからその程度では死なん。

「それでは、達者での。これ以上儂も言えることはないわ。うぬらの武運を祈る」

 彼は、閻魔大王は俺たちにそう言って、俺たちは彼の言葉を心に刻み――そして、俺たちは決戦の地へと向かった。

 決戦の地とは、即ち――

 即ち彼の話の中にあった門のことだろう。

 きっと俺たちはそこでこの二つの名刀を振るって、死闘の果てに天界への道を掴み取るのだろう。

 そして、天界で神の石を見つけ、俺たちの贖罪を済ませ、現世へと還るのだろう。

 俺は必ず、必ずこの戦いに勝って有紗に告白すると、彼女も必ずこの戦いに勝って想い人に告白するのだと、二人は互いに約束しあったのである。

 最終決戦は今、始まろうとしている――


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