表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/21

お互い意外な道を進んでいた。


大抵イタリア料理なのだ、大鷺が本気を出す時は基本イタリア料理。

それも家庭的な中身で、しかし味は一般人が味わった事が無いほどレベルの違う美味。

その理由は単純であり、大鷺が師事した人の中に、イタリア料理の名人のマンマがいた、という事でしかない。

大鷺が持っていた非凡な才能を高く評価し、それがさらに成長できるように育て上げた人、それが大鷺の言うところのマンマである。

このマンマの味を守る大鷺は、たぶんイタリアで店を出しても潰れずに生活できるだろう。

簡単な物が多いのに、大鷺の塩一つまみや適量が、一般人以上に”適量”であり、食べた時に心地よいため、大鷺の料理は非凡な物に変身する。

今日もそうだった。

大皿料理になっているミートソースパスタ、たっぷりのベビーリーフに塩と胡椒とオリーブオイル、さらにいくつかの香辛料を振りかけたサラダ、飲みやすい冷たいスープ。口直しに甘くてミントの香りがするジュレ。

大鷺が本気を出す時や、人生で一番おいしい夕飯という時によく出るメニューがそこにあった。

絃はそれをずいぶん久しぶりに食べたのだが、隣の霧島の食器の進み具合が気になった。

丁寧に食べる人だ、とその食事の中何度も思う。

霧島はとても美しい食べ方をする。それも嫌味がない、見とれてしまう綺麗な食べ方だ、マナーがどうであれ、見惚れるもの。

食べ方がきれいな人は、印象がいい絃である。

そしてカウンターで一人ワインを開けている大鷺も、にこにこと笑った後、言い出した。

「あー、やっぱり味が濃いんだね」

「わかるの?」

「絃ちゃんのお弁当の時と進み具合が違う。そっか、この量じゃ連山くんの好きな味じゃないんだね、覚えておこう」

「おいしいのは間違いないんだがな、舌が偏屈なもので」

霧島の言葉に、大鷺が手を振って笑う。

そこに不愉快そうな気持はかけらもないのだ。

そしてここの三人はそれを、全員がよく分かっていた。

「味が濃いと不安になる時があるんだ」

「わかるわかる、味を濃くして腐った肉を誤魔化す屋台とかあるもんね!」

「あいにくそこまで極端なのは出会ってないが……」

「霧島さん、これはそれに過去十数回は出会っているんです。ちなみに外国で。よくこんなので外国で食中毒騒ぎに巻き込まれなかったなと、感心するほど」

「店構えを見れば大体わかるよ、あと肉の色と香りを見れば、揚げていたって舌に刺さる味とかでばれる」

「……晴さんはこれまたずいぶん、というかかなりというか、あれだな、世界が広すぎてついていけない系統なんだな」

晴さん。

絃はその、霧島が大鷺を呼ぶ呼び方で、大鷺がかなり霧島を気に入っている事実に気付いた。

大鷺は自分の事を、滅多な人間には下の名前で呼ばせないのだから。

絃は兄貴もしくは、やや他人行儀に大鷺と呼ぶパターンであるが。

大鷺晴美の、晴美を許す相手は、大鷺がかなり気に入っていて、相手を身内認識している時だ。

「霧島さん、ずいぶん兄貴に気に入られましたね」

「最初からかなり友好的だったが」

「だってこの前写真撮ってたでしょ、朝食キャンペーンの写真」

「何かに生かせないかと思ったんだが、気分を害したならば……」

「ううん、逆。季節の流行を探し回る人として、なかなかいい感じだと思っただけ。後で送られてきた写真も素敵だったし、撮影の人も礼儀正しかったから」

ああ、確かに複数の団体が来ていたな、と絃も思い出した。朝食キャンペーンをイマコレ、といった具合で流す予定で撮影しに来た人たちがいて、彼等は礼儀正しくなかったことを。

ダメだというのに、大鷺の顔の写真を撮ろうとしたり、絃を巻き込もうとしたりと散々な奴らで、さらに利用者に予定外のインタビューを始めたために大鷺がけりだしたのだ。

しかし一つか二つ、大鷺が全開の笑顔で対応している、いい団体もあった。

霧島はそこに勤めていたのだろう……

え。

絃はそこまで思って、彼を見て問いかけた。

「霧島さん、今のご職業は何ですか?」

「出版社のカメラマンだが」

これまた活動的で飛び回る仕事を、と絃は呆気に取られていた。

「普通に営業とかかと思っていました、前の履歴を生かすものだとばっかり」

「最初はそうだったんだが、パーティぶち壊しの案件は結構広まっていてな、なかなか雇ってもらえないでいた所、閉鎖したブログを覚えていた出版社の知り合いがいていな。まだカメラを持つ気があるなら専属で、という事で雇ってもらった」

「閉鎖したブログ?」

「絃ちゃんも実は知ってるんじゃないかな、僕のお気に入りだったし」

絃の問いかけに答えた大鷺が、あるブログのタイトルを口にする。

聞いた彼女は目を丸くした。

「あの、写真技術極めまくっちゃってる伝説のブログ!? 理由不明で数年前に閉鎖して、新しい物もなくて、惜しまれていたあの!?」

そこではっとした。

霧島は旅行が好きだった。そしてこの前行った彼の家には、カメラの機材がいくつもあった事を。

彼はあちこちに旅行して、写真を撮り、ブログであげていたのだろう。

変質者に狙われるようになってから、身の安全のために旅行を止めるまでは。

「うわ、ファンだったんですよ! すごく気持ちのいい写真がいっぱいあって、猫とか、犬とか、時々烏とかもあって面白くて」

彼女が思わず興奮すれば、霧島が笑った。

「なら今度、データが残っている物は送ろう。色々お世話になっているし、知らなかったとはいえ弁当をもらうのを続けていたわけだしな」

「ちなみにー。弁当はどういう仕組みで連山くんに回っていたのかというと―」

彼が嬉しそうに返してくれた時、酔っぱらってもいないくせに酔っ払いの言葉遣いで、大鷺が言い出した。

「弁当を受け取れる時間の連絡が来て―。ぎりぎりに待ち合わせ場所にいきー。その時渡しておしまい! 弁当箱は同じものをいくつか使ってたし、洗い物は僕がやってたから絃ちゃんはそれ、気付かなかっただろうけれどね」

「……いつ返却できるかわからないから?」

「そうそう。だから色気もくそもないようなありきたりな、ありふれた奴使ってたんだよね」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ