王子は自国の過失を認めたようでした
やっと王子様が出てきますよー
でもラブには入ってないかも
「…予想通りね。予想通り過ぎて笑えてくるわ」
「私が対処致しましょうか?」
「そうね、ただの雇われ盗賊のようだし。マトリカリアとの摩擦も起こらないでしょう」
王城を離れてから数時間、窓の外を見ると明らかにこちらに向かってくる賊の姿があった。
普通にマトリカリアに着くとは思わなかった。ただこうも予想通りだと呆れてものも言えなくなる。
「賊の数は約五十…。姫様三十秒で終わらせます」
瞳を赤くさせてなんでもないように主に言う。
高位魔族である吸血鬼の彼ならば人間がどれ程群がろうがどうってことなかった。
「いってら…、ちょっと待ちなさい」
魔法の気配。
ヒルダはもちろんオズもまだ魔法を発動していない。
今、いる場所はゼラニウムとマトリカリアの国境付近。盗賊達は目測を誤ったのか、まだギリギリマトリカリア国内にいる。
そしてその場所から眩い光が見えた。
「雷…ですね。あれは中級魔法ですか」
「そうね、でも油断しちゃダメよ。おそらく術者はかなりの使い手だわ。その証拠に周りの森はほとんど焼いてない」
オズの見解に頷きながらもヒルダは愛用の斧を持つ。
敵か味方か。
十中八九敵だろう。あれはマトリカリアから来たのだから。
するとじっと賊に雷を食らわせた者達を見ていたオズは何かに気づいて声をあげた。
「姫様!あの馬車の紋章は王家のものです!」
「っ!?マトリカリアの?どうしてここに」
王家の者が迎えならせいぜい王都に入る砦の門だろう。なぜこんな敵国との国境に。
相手が相手ゆえ下手に去ることができず、結局身動きが出来ない。
しばらくすると馬車が止まり、中から金色の美少年が姿を現した。
あちらの主が出てきたため、こちらも中にいる訳にもいかず、ヒルダは斧を置いて外へでる。
「お初にお目にかかります。私はマトリカリア王国第一王子、フィリップ=マトリカリアと申します。賊があなた方に危害を加える前に始末できて良かったです」
「…先程はありがとうございました。ゼラニウム王国第一王女、ヒルデガルト=ゼラニウムと申しますわ。こちらはわたくしの従者、オスヴァルト=オウシュウナウラ」
ヒルダの紹介に後ろに控えるオズは丁寧に一礼する。
敵国だろうと相手は王族。礼儀を忘れてはならない。
「礼には及びません。…むしろこちらの過失です。申し訳ありませんでした」
憂いのある瞳をふせ、彼は頭を下げる。それも本来は国の長である王にやるべきであろうほど深く。
敵国の王女に対して、第一王位継承者が頭を。
「で、殿下!?」
これは相手側も予想していなかったらしく、周りの護衛が驚きの声を上げる。
(これはこちらに恩を着せたいのか、本当に謝罪しているのか判断に困るわね)
頭を下げられるまで恩を着せたがって助けたのだと思っていたが、違うのかもしれない。
何せ今の彼の行動は十分、形勢逆転に使えるのだから。
冷戦状態の敵国の王女が賊に襲われた。まだマトリカリアへ入国していないため、表向き何かあっても自国の責任にはならない。さらにこちらが助けたため、圧倒的に有利。
それなのに目の前の少年は自国の非を認めた。
彼は曲がりなりにも一国の王子。その言葉は重い。
「頭をお上げくださいまし、フィリップ様。事情を聞かせて頂けますか?」
ヒルダはまだ許すとは言っていない。彼の言葉は重いからこそ使える。
フィリップもわかっているのだろう。頭は上げたが固い表情は崩れなかった。
「我が国の者は未だ貴殿の国を良く思っていないのです。詳しくは城でお話します」
(九割方、貴族だろうな)
王家側がまとまっていないのか、教会派が活発化しているのか。
何れにしてもあちらの過失だ。…ヒルダはその過失を徹底的に潰して、懐柔しようと思っているが。
「ええ、もちろんですわ。後ほどじっくりと」
ヒルダが予想以上に腹黒く…