姫様は執事の腹黒さに不安を抱きました
今回はちょっと短いです。
一ヶ月という短い期間、ヒルダは多忙に追われていた。
マトリカリアの最新情報に重鎮の暗記、あちらの国の礼儀作法から武術の訓練までヒルダはやり遂げた。
「長かったわ…。いえ、短かったと言うべきかしら」
「お疲れ様です、姫様」
いよいよ明日出発ということで既に準備は済んでいた。
これから約三年間、マトリカリアで我が国の貴族を害した犯人を見つけ国を懐柔する。
出来ればあちらの国での協力者も欲しいところだが、完全には信用しない。
なにせ敵国なのだから。
「そういえばオズはどちらで行くの?」
自分の従者としてか、公爵家の嫡男としてか。
オズは麗しい顔でニッコリと笑みを作った。
「もちろん、姫様の従者としてですよ。陛下がそのように通達なされておりますし。それに」
「それに?」
「あちらの国の貴族が私に対して無礼を働いた時、どうなるでしょう?」
ヒルダは呆れた。性格が悪いとも思った。
マトリカリアでは好意的に迎えてくれることなどないとわかっている。ヒルダに対してなにかしてくる可能性はあるが、王族であるため不味いことはわかるだろう。
そうなれば矛先が向くのは従者のオズである。
しかし従者とは言うなれば主人の所有物、道理がわかる上位貴族はおそらく手を出さない。
なら馬鹿なことをしてくるのはせいぜい上級で伯爵家の者。オズがゼラニウム国でも高位な貴族と知ればどうなるか。
「面白いことになりそうですよねぇ」
「オズってば…」
どうやら徹底的にやるらしい。使えないものは始めから切り捨てるということか。
「ご安心を。既に目星は付いております」
「優秀すぎるのも困ったものね…。わかったわ、任せなさい」
我が祖国の代表として恥にならない対応をしよう。
自分の母は社交界の華と呼ばれていたのだ。
ヒルダ自身もデビュタントはとっくに済ませている。たかが十数年しか生きていない小娘の嫌味や侮蔑など、どうってことない。
「さすがは姫様。私も全力でサポートさせていただきます」
妖しく微笑む従者にヒルダは本当に別の意味で大丈夫か心配になった。
次回はある国の王子視点です。
…まぁ、どの国がわかりますよね、すみません。