執事と魔王は愛らしい姫に想いを馳せました
今回はヒルダは出てきません。
「ノアベルト陛下、オスヴァルト=オウシュウナウラ。召喚に応じ参上いたしました」
跪き恭しく頭を垂れる。
「楽にしろ、敬語もいらない」
「では遠慮なく」
オズはあっさりと立ち上がり、魔王である友を見上げた。
はっきり言って無礼である。
普通は楽にしろと言われても、一度は断りを入れるのが礼儀だ。
無論、城に仕えて長いオズがそんなヘマも礼儀を知らないはずもないのだが
「さて不満があるのは、ヒルダのことか?」
「そうだ」
短く答え、鋭く睨む。
吸血鬼の証の赤い瞳が魔王を射抜いた。
ノアとオズは幼なじみで親友だ。そしてノアの可愛く愛くるしい妹、ヒルダとも旧知の仲である。
まだ生まれてまもなかったヒルダに「おすばうとにーたま?」なんて可愛く、そりゃあもう鼻血がでそうになるほど可愛く呼ばれたりしたのだ。(ちなみにその後、本当に鼻血がでた)
つまり何が言いたいのかというと
「俺の目に入れても実際に痛くなかったくらい、愛らしい主人になんて公務をさせるんだ」
「いや、ちょっと待って。実際に入れたの?えっいつ!?」
ドン引きしたように慌てふためくノアをいいから答えろと睨む。
「かと言って、オズだってわかっているだろ?ヒルダのおつかいの意味」
「当然だ。俺を誰だと思っている」
「そうだね、忠誠心の厚いオウシュウナウラ公爵家の嫡男なら私情でこの重要な公務を破棄させたりしないよな」
僅かに細められた瞳に、いつもはないどころかマイナスのはずの威厳を感じて少し怯む。
「ねぇ、ヒルダもオズもなんで私の評価が酷いんだ?」
「自分の胸に聞け」
先程まで魔王らしかったのにすぐこれだからだ。
「破棄させたりしない。国のことを考えればこれが最善なのはわかっている。
だが、感情は別だ」
「だからせめてお前を供にしたんだろ」
玉座に片方の肘を立て頬杖をついた。
まだなにかあるようだが、決して口を割らない。
相変わらずだと、オズは思う。飄々としているが油断ならない奴なのだ。
この姿を自国のバカ貴族共に見せたら、目を疑うに違いない。
まぁ、基本ヘタレなのだが。
「そろそろ私、泣きそう」
「言ってろ」
結局、異論はないのだ。オズも高位貴族の端くれ、十分わかっている。
しかし、国の大事な姫に同行する数が問題だった。
「俺一人だとあまりにも少ない。せめてダニエラを付けるべきだろ」
ダニエラはオズの同期であり、彼と同じく姫への忠誠心が凄まじい。
ノアは苦笑するように、しかしどこか冷たい瞳で答えた。
「あちらの要求だよ。姫に付けるのは一人だけだとね。教会か王家からかは、わからないけれど」
「ノア?」
「なんでもないよ。ともかく増やすことは無理だ。だから…どうかヒルダを護ってくれ」
先代である父は誠実な人だった。
妃は母一人で、子供はノアとヒルダだけだ。
王族にしてはあまりにも少ない。だがだからこそノアはヒルダを可愛がってきた。
そんな妹を自分のために敵国に向かわせるなど、絶対に嫌だった。
しかし彼は国王で、理性でそれを抑えなければならなかった。
ならせめてと幼い頃から一緒の親友、オズをヒルダに付けた。
彼なら愛しい妹を護ってくれると
「御意に」
彼ならため息を吐きながらも望みを叶えてくれると思っていたから。
オズが去った後、ノアは一人白ワインを飲んでいた。甘い赤ワインを飲む気分にはなれなかったのだ。
自分の想いが白ワインの辛さを増していく。
「あげないよマトリカリア。あの子は私の妹だ」
いつかは解放してあげないといけないけれど。
ノアの脳裏には輝かしい銀髪の姫君が浮かんでいた。
次回は前王妃様が出てきますね。
…いや、いつマトリカリアへ行くんだ自分よ。