優しいと思ってました
急にラブが入ってきます。
「そう思ってた時期もあったわよ!
どこが優しいのよ、ど・こ・が!
ヘタレのくせに鬼畜!お兄様の人でなし!」
「姫様、我々は人ではありません」
ボフボフとクッションでソファを叩いていると、冷静なツッコミが聞こえた。
「だってオズ!貴方は無理があるとは思わないの?例のおつかい、私とオズ二人で行かなくちゃいけないのよ!?」
そうなのだ。少人数だとは思っていたが、まさか二人だけで行けと命じられるとは。
おのれ。幼いころ森に迷い込んだ時、妹より先に泣いたこと城中に広めてやろうか。
「なんとなく陛下が可哀想な事になりそうなこと考えてる気がするので、止めておきますね。駄目ですよ姫様」
「あら、まだ何も言ってないじゃない。
そんなことよりオズ、ちょっとアルマを呼んできてくれないかしら」
「噂好きのメイドを呼んで、陛下の幼いころの醜態を広める気ですね。駄目と言ってるじゃないですか、呼びませんよ」
「ケチ」
「なんとでも」
ブーと上目遣いで見上げると目を逸らされた。
オスヴァルト=オウシュウナウラ。
ヒルダに長年仕えている執事で兄の親友。
確かにヒルダにとっても信頼の置ける相手ではあるが、遠出に出るならば侍女のダニエラがよかったというのが本音である。
「私じゃいけませんか?」
「えっ?」
兄を百五十七回殴っていたヒルダは反応が遅れた。
かなり本気でやっていたようで、羽毛が部屋中に舞っている。
「私が相手じゃいけませんか?」
「っ!」
切なそうな声と表情で言われ、カァと顔が赤くなった。
なんだ、それは。これじゃまるで。
「バカ!」
ボフンッと奴の顔面にクッションを投げつけた。
避けられるはずなのに彼は、わざと避けなかった。
それが尚更、本気に見えて。
「勘違いしないで、オズが嫌なわけじゃないわ。
ここまで少人数だとは思わなかっただけ。殿方の中ではオズが一番信用できるもの」
紅色に染まった顔をもう一つのクッションで隠しながら早口で言う。
あ、やばい。よけい本気っぽくなってる。
「そうですか、それなら安心です」
オズがころりと意地悪げな笑顔になったので、からかわれたのだとわかった。
「か、からかったわね!!やっぱりダニアにしてもらうわ!」
「おや、陛下はもうマトリカリア国に通告してしまいましたが」
こんなところだけ用意周到なのが兄の嫌なところだ。
まだ、あの国には行きません…
すみません!