7話 夢オチ 〜 神:……キス、以上でも……よかった、のに。 〜
主人公最強!
夢を……夢を見ていました……。
夢の中のオレは白い部屋にいて、どうしようもないことをしていました。
ん? そういえば起きているオレは仮死昏睡状態でむりやり動いているから、明晰夢遊病状態?
あはは、そんなバカな……。
いやでも起きているオレも白い部屋にいるし……。
今現在も起きている可能性が微粒子レベルで存在している……?
そんな夢の中のオレは、どうしようもない夢を抱いていました。そう! 中原 青……いや青 中原には夢があるッ! 分身がしたい。分裂がしたい。増殖でも構わないから。
オレがオレで満ちていて、オレが友達、オレが家族で、オレが兄弟で……。たくさんのオレがいる、そんな夢を……。
「はあぁ! 分身! 分身! くそう……」
夢の中ぐらい夢を見てもいいだろうに……。
オレは夢の中でさえ分身も、分裂もできなかった。
自分が夢を見ていると気づき、明晰夢だうひゃらひゃほーい!
と分身を試みて早5時間。床に大の字に倒れた。あ、この床かたい、柔軟剤使ってないなコレ。
まったく自分の飽きなさと諦めの悪さに呆れ返るばかりだよ。
韻を踏んでいい感じだね、と自画自賛。
「はぁ…」
ため息だって出る。生きてるってなんだろ。
「あーあ、平行世界からオレとかやってこないかなぁ……」
この際、分身は一旦諦めるとして、並列世界とかからのオレが溢れかえらないかな? ここオレの夢だよ? オレの夢くらい叶えたってバチが当たらないよね?
もう現実のオレときたら、巻き込まれ召喚で白い部屋で女神さまと他身内の巨乳美女とハーレム(笑)療養中ときたものだ……。
ダレだいまったく召喚とかしたヤツは、オレだって並列自分召喚してみたいってのにね……。
「それだ!」
ここは夢の中だ! 現実のだと多少無理があり無知なことで無謀でもわりかしなんとかなるだろう、というかする。
「どりゃー! なんかそれっぽい魔法陣描いてエロエロエッサイだよ!」
オレは立ち上がり、その白くかたい床に魔法陣描く。描くものがないから自分の血で代用する。いやオレを召喚するなら相性がいいはずだよ!
脳内でいろいろ言い訳しながらいい感じに描きあがる。これ絶対ヤバいだろ? ってぐらい血が出たけど、夢の中だしダイジョーブダイジョーブ! 夢追イノ達成ニ犠牲ハツキモノデース!
召喚するのに触媒とか生贄とか必要だよね。
そう思ったのて、こんなこともあろうかとのばしているオレの白い髪をバッサリ切る。切っても切ってもすぐにのびてしまうので放置していただけだけど、みんなにはナイショだよっ! あ、ハサミはエプロンのポッケに入ってました。
あとはちょっとのびてた爪も切って、髪と一緒に魔法陣の中心に置く。
いろいろ足りない気がするけど、夢だからなんとかなるなる!
あ、そうだ! 最近手に入れた残命パラメータとあと魔力パラメータを使えばいい感じにいけそう!
「おりゃー魔力全部と残命を1──いや10──ええい持ってけドロボー! 残命100だ!」
オレは複数ある直感スキルと心眼スキルの反応にしたがって使う残命の数を増やす。とても大きな力が減る感じがする。
「平行世界のオレよ、並列世界のオレよ、異世界のオレよ、別世界のオレよ、可能性世界のオレよ、とにかくパラレルなオレよおいでませ! こっちのみーずはあーまいぞっ!」
そんなとてもひどい詠唱をする。大丈夫。夢の中の召喚だよ。
さてどうせ失敗するだろうと思っているオレ諸君。すまない……召喚に成功してすまない……空気をよめない漢ですまない……。
魔法陣の中心から閃光がほとばしり風が吹きあれる、対閃光防御していたオレは足元がお留守だったので吹っ飛ばされてしまった。中心から100メートルの距離に落ちた。
風がやみ光がおさまるとそこには……。
長く白い髪に白い肌、金色の眼をした無地の白い浴衣を着た、オレと同じ背丈で、オレと同じのつり目でもタレ目でもなく普通の美貌の人がいた。目の色以外はだいたい合ってる。ようするに“オレ”だ。
その“オレ”はとても強い力を秘めているようだ、これは女神さまを超えるだろう。
「……なに。……ここどこ」
「勝ったぞはーくん。この勝負、我々の勝利だ……」
不思議そうに周りを見渡していた“オレ”がオレの声を聞いてこちらを向いた。
「……なに?……不敬」
オレに気づいた“オレ”はわずかに眉を動かし、胸の前で横に小さく手を振った。
それだけでオレのすべてが否定され無かった事にされた。
肉体が否定され消える、魂魄が否定され消える、存在が否定され消える、精神が否定され……消えない!
生命を失ったオレは自動的に残命を減らして復活する……だが蘇った端からその生命は消え残命を次々に減らし、残命を100減らしたところでオレはやっと復活した。
これはヤバい。強さや弱さは関係ない、不死とか不滅とか関係ない。ただ無かったことになる。ただ残命の効果がソレとうまく噛み合ったからオレは生きている。
「……あれ?……不発。……我、失敗?」
“オレ”はオレが生きていることに首をかしげ、もう一度手を振った。
またオレは否定され消されたが、やはり残命を消費して復活する。今度は二度目なので多少理解した復活の感覚の再現を試みる。残命が90減った。
「……おかしい。……なんで?」
さらに“オレ”が二度目手を振る。俺の残命が80、70と消費する。
現在の残命は560。
そこでやっと“オレ”はオレを視界に入れた。
「……おまえ。……なに」
“オレ”はすっ、とわずか目を細める、睨みかけたのだろうか、それだけで残命が60減り、残り500になってしまった。キリがいいと笑えばいいのか。ここまでやられると一周まわって笑えてくる。
「はじめまして“オレ”、オレだよ!」
「……我。 ……君、“我”?」
「そうだよ、“オレ”」
「……“我”、……“我”!」
“オレ”のその短い言葉にはどんな感情が込められているのか、おそらくオレと同じように、あるいはそれ以上に別のオレに会いたかったのだろう。
「……“我”!」
目をわずかに見開きなんとなく喜色を含んだ声を出す“オレ”だが。
「……“我”」
すぐにスッと目を細めて、感情を抑えたような感じで言う。
「……我、“我”……待ってた。……待たされた。……遅い。……遅すぎる。……我、すごい待った」
「うん、なんかごめん」
怒った風だが、目の端にすこしキラキラしているので、なんとなく罪悪感を覚える。
「……許さない。……罪。……我、待たせた。……すごい罪」
「……許す。……すごい罰。……“我”試練、達成!」
「わかった! 試練できたら友達だからね!」
「……信じる。……信じたい。……我、期待裏切るな」
なんだろうな、罰したいとか罪とかは建前な感じで、信じたいと言うのが本音かな。
“オレ”はオレだ。ネーちゃんに会わなかったオレ。母親たちに捨てられ父親に殺されかけた事、オレは耐えられたが傷つかないわけじゃなかった。“オレ”は他人が信じられなくなったのだろう、いや信じようとしても心の底から信じられないのか……オレと同じように。
オレもネーちゃんがあんなバカなことをしなければ今のようになっていないだろう。あれを見て思い悩んだのがバカらしくなったし、覚悟を決められた。好きになった人になら騙されても裏切られても構わない、こんな覚悟だ。そうやって人と付き合えるようになって、いまではそんなバカなネーちゃんは数少ない心底から信じられる人になったが、“オレ”には覚悟も信じられる人も、どちらもないのだろう。だから自分を求めた。他人はいなくなる、騙す、裏切る。だが自分はいなくならない、騙さない、裏切らないと……信じていたのだろう。しかし、待っていても探しても会えなかった。信じたかった自分に裏切られてしまった、裏切らせてしまった。だから試練を与えてそれで許したい。信じられると信じさせてほしい、そんな感じじゃないだろうか。
「それで、なにをすればいいの?」
「……我、ここにいる。……“我”、ここにくる。……我、抱きしめる」
「それだけ?」
「……無論。……我、すごい妨害」
「ああ、たった100メートルがこんなに遠いな」
ちょっと遠い目をしてオレがそういったら、“オレ”が両腕を広げた。
「……頑張れ。……友達、すごい信じてる」
「……頑張る!」
「……うん。……合図する」
“オレ”が目を閉じる。
「……走れ!」
そして目を開いて合図した。
オレは走り出した。
一歩踏み出す毎に残命が消し飛んでいく。残り460。
80メートル、復活の再現だけでは足りないと、この否定の力を感覚再現して相殺しようとする、失敗。残り300。
60メートル、どうやら出力が足りないらしいと気づく。残り200。
40メートル、残命を握りつぶして否定の再現をする、タイミングが微妙に合わない。しかし多少の軽減はできた。残り120。
20メートル、残命を握りつぶして否定の再現、タイミングよく使う。成功。残り50。
10メートル、相殺に成功しても減ることには変わらない。残り20。
「……あと、すこし。……頑張れ、頑張って」
5メートル。残り5。
「……我、"我”信じたい。……“我”、許させて」
残った残命と回復した魔力全てを使い一気に踏み込む、オレの命なんて知ったことか! "オレ”が泣いてるんだよ!
……ゴール。残り0。
「……ありがとう。……信じてた。」
飛びついて“オレ”を抱きしめる。踏み込みが強すぎて押し倒したのはご愛嬌。
「はぁ、はぁ……これで友達だからね!」
「……うん。……友達、嬉しい。……“我”、すごい暖かい」
「うん、あったかい」
抱き起こして、抱き合って一緒に座る。と、ここでようやく気がついたのだが、“オレ”は女の子だったらしい。おっぱいがな……必死すぎて気がつかなかった。というか1000死んだってどういうことだよ! 残命、残り1。
回復してるじゃないか! え? 女の子とのふれあいだってこと? 時間経過だよね? あれ、1日掛かるんじゃなかったっけ?
「……“我”……我、すごい準備万端」
“オレ”が目をつむって口を突き出していた。なるほど、友達から家族になりたいと…….よろしい、家族歓迎だ。そうださっき回復した残命を一緒に飲ませるのはどうだろう。自分の為に命を投げ出すバカがいると悩みが軽くなる。そして全てを過去にするようなキスだ。オレはあれのせいで吹っ切れたところあるからね。家族になるのなら悲しい過去なんてナイナイすればいいのだ! “オレ”はオレだから残命使えるんだよ? 使えなくても使うんだよ!
「……ん。……んふ。……んんん」
え、なにこの子めっちゃ手強いんですけど。
「……ふむ。……むむむ。……んっ!」
「……んんっ! ……ぷぁっ」
ながくくるしい戦いだった。辛勝。さすが“オレ”と褒めてやろう。ナデナデ。
「……えへへ」
「さて、これで家族だね」
「……えへへ、え? ……家族? ……すごい嬉しい!」
「そういえば名乗ってなかった、オレはハル。中原 青」
「……ん、“我” ハル!……ハル、ハル!」
「そうだよー、青ってかいてハルだよ」
「……んっ、ハル!……我、名前。……名前、つける」
「……名前ないの?」
「……知らない。……あったかもしれない。……いらない。……ハル、ほしい」
「うん、じゃあ白」
「……む。……適当?」
「え、不満? 頭文字と母音が一緒で、はーくんの短縮ですごくオレでいいと思ったのに」
「…….うん。……我 ハク、納得。……名前満足」
「あはは、よかった……あれ……?」
なんだろう、眠くなってきた。
「……む?……お別れ?」
「あはは、ごめん」
「……良い。……感謝」
チュッ、と額に温もりを感じた。
「ありがと?」
「……ん、ハル。……無くなったもの、有ったことにした」
「無くなった?」
確かめると残命が1000に回復している。
「すごい」
「……えへへ。……我、すごい」
うわ……本気で眠くなってきた。
「……じゃあね……ハク」
「……またね。……ハル」
とても……眠く……zzz。
「……次は、我から。……逢いにいく」
目を覚ました。
「あ、ハルさん。おはようございます……もう起きますか?」
オレに膝枕していたネーちゃん……いや女神さま話しかけてきた。
「……おはよう。……おやすみ」
出会いが夢オチだったことにはーくんはふかいかなしみにつつまれた。
……ぐう。
>『称号:神『ハク』の命名者』を取得しました。
>『称号:神『ハク』の分身』を取得しました。
>『加護:神『ハク』の寵愛』を取得しました。
「は、ハルさーん!?」
(平行世界の)主人公最強!




