表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ライジン  作者: てんの翔
38/66

覇刃の章 二

 華やかな式典がはじまりました。

 開会式と選手紹介をかねたものです。

 三日前にも式はありましたが、いまのように盛大ではありませでしたし、世界各国から招待した八名の闘者は、まだいませんでした。

 中央場は、満員に近い賑わいです。

 選手の入場順が、そのまま対戦表のかわりになるということで、関心が高くなったようです。

 当初は抽選で決められることになっていましたが、それでは戦力の偏りができてしまうという理由で、一回戦では招待選手の八名同士があたらないようにし、ダメルの選手と予選から勝ち上がった二人が、それを迎え撃つ形となりました。

「おおお!」

 轟きが、足先から伝わってきました。一人目の選手が入場してきたのです。

 メリルス代表の奴隷闘者、サーディ。剣を使わせたら世界最強ではないか、とお兄さまは評していました。

《剣神》――そう呼ばれているそうです。

 そして、その偉大なる戦士に対抗するのは……。

「頼むぜ、ガルグウッド!」

 姿をみせるなり、すごい声援が鳴り響きました。わたしも、何度か試合を観たことがあります。いま、このテメトゥースで、もっとも注目されているのではないでしょうか。

 王者ゾルザードを倒せるのは、彼しかいないと言う者も多いようです。

 でも、わたしはどこか好きになれません。

 きっと、人を見下したような眼が原因でしょう。

「なんだ、ありゃ!?」

 次の闘者が入場してきました。

 みなさん、どこか奇異なものでも見るようです。

 サンソル代表、ロド・ハーネル・エスダナル。まるで、お伽話に出てくる『騎士さま』のよう。髭が、とても印象的です。

 とても強そうとはいえないけれど、なんだか親しみがあります。《ヒゲの男爵》……やっぱり強そうじゃないあだ名です。

「よ、曲者!」

 おヒゲさんと闘うのは、階順ローガ一七位のストルガデラです。いろいろなことをやってくるので、彼との対戦は、みな嫌がるそうです。そのなかには、反則まがいのこともふくまれるとか……。

 五人目の選手の登場には、あまり反応はありませんでした。

 ギルチア代表、ブリニッチ・シゴク。

 お兄さまが呼び寄せたという、屈指の槍使い。

一角豹ピーネーゼ》――その一突きは、確実に相手を貫くという。

「おまえの剣さばき、みせてくれっ!」

 二二位のアネルドです。

 今回のダメル勢では、唯一の武器系選手といえるでしょう。もちろんガルグウッドをはじめとして、ほかの彼らも武器は使います。しかしアネルドのように、それだけで闘うわけではありません。

 元ナシャス剣術の闘者だったらしいのですが、ナシャスでは職業として格闘技が成立していませんから、このテメトゥースに流れ着いたそうです。

「あれが……」

 まわりから、畏怖するものを目の当たりにしたときのような、驚嘆のため息がもれていました。

 瀏斑リュウハン代表、四門将軍の一人――《翠虎スイコ》の渦響カキョウ。よくは知りませんが、とても恐ろしい力の持ち主だという噂です。

 まるで、緑の悪魔のような……。

 次いで、一一位――階順でいうならば、ダメル勢では最強の《白銀の軍馬》ウルメダが入場してきました。

 客席からの声援も、明るいものへと戻っています。

 やはり彼にたいする期待は大きいのでしょう。

「子供か……? おい、どうなってんだ!?」

 そんな驚きの声がおこったのも無理はありません。ウルメダのあとに姿を見せた戦士の姿は、わたしとかわらないぐらいの少年ではないですか。

 ファーレイ……あ、そういえば、お兄さまのご友人と同じ名……出場するという話は知っていましたが、まさかこんな少年?

 ちがう、子供のはずはない。たしか、留学時代のご学友だと聞いています。ということは、年齢は想像以上に高いはず。

 いったい、あんな小さな身体で闘えるのでしょうか!?

「手加減してやれよ!」

 どこか揶揄するような声が飛んだのは、次のヨシュが出てきたからです。

 じつは今回のダメル勢では、もっともお兄さまが期待している闘者なのです。しかし多くの観客は、そう思っていないでしょう。

 かつては《白鮫タニュロス》と呼ばれ、将来を期待された方でしたが、最近ではふるわず、人気もだいぶ落ちているようです。でも、ダメル予選で見せたあの常軌を逸した『武器砕き』。

 現在の《砕牙バスル》という異名そのままの滅茶苦茶な……しかし凄まじい闘いが、わたしの胸から離れません。

 きっと、それはわたしだけではないでしょう。彼にはみな、期待とそれに相反するあきらめの思いが同居しているはずです。

 闘いにムラがありすぎる。

 明日の闘いは、どちらに転ぶのか。

 でも対戦相手が、あの少年のような人だとすると……。

 できれば、もっと正統派の方と闘ってもらいたかった。それが本音です。

 一転して、緊張が場内を包みました。

 オルダーン代表、アーノス・ライドス。

炎鷲シャリークを継ぐもの》――蹴術で、いま一番注目されている若手だということです。なによりも、彼を育て上げた《炎鷲》ラオン・デイザー……闘う姿は知りませんが、その名前なら何度か耳にしています。

 伝説の蹴術王――。

「よっ! 舞姫!」

 その最高峰の技とぶつかるのは、予選ですっかり人気者になったミリカ・バラッドさん。まるで踊っているかのような剣さばき――お兄さまの剣よりも、軽やかに舞っているさまを見たのは初めてでした。

 彼女への好奇をふくんだ声援から、もっと硬い……そう、危険な凶器を前にしたようなざわめきへと、反応が変わっていました。

 ムマ代表、トーチャイ・ギャッソット。

《狂犬》と呼ばれる褐色の戦士。

 鋭利な眼光。けっして飼い馴らせない、反逆の象徴とでも表現しましょうか。

「ロワンダーダ! ダメルの凄さを見せつけてくれっ!」

 一九位のロワンダーダは『六殺』という特殊な武具を使う、ダメル一の変則的な闘者です。

《狂犬》といえど、苦戦をするでしょう。

 しかし……トーチャイ・ギャッソットは、お兄さま自らが呼び寄せたのだといいます。いったい、どんな試合に……。

 一五人目の戦士は、エンプス代表――《獅子殺し》グダルという男。そうです、あの人の最初の対戦者となるのです。

 大きな身体……でも、ボスクより大きくはない。でも確実に、こちらのほうが強いでしょう。獅子を素手で撲殺したことがあるという触れ込みは、真実かもしれません。

 その気迫に満ちた顔つきを見てしまうと、わたしの心に一抹の不安がよぎりました。

 信じてよいのでしょうか?

 あの人の力を……。

 最後の一人、シャイ・バラッドを――。

 一六人は闘場を何周かすると、中央に集結しました。

 わたしのすぐとなり……貴賓席の中央で、お父さまが立ち上がりました。

「一六の勇者よ、世界をその手に!」

 それが、開会の宣言です。

 その声に応える戦士たちのうちなる声が、わたしには聞こえたような気がしました。

『世界を、この手に――!』

 この一六人のなかに、わたしをここから……無限の鳥籠から飛び立たせてくれる人がいるのでしょうか。

 それは、あの人?

 それとも……。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ