砕牙の章 2
「開催は、予定通りでよいですな?」
その発言から、会議ははじまった。
参加人数は、七名。
いずれも、このテメトゥースにおける重要人物といってもいいだろう。
「栄華連」という言葉は、この都市をそのまま指すこともある。瀏斑では実際にそうだし、その他の国々においても、似たような意味で使われている。
本当の意味での『栄華連』とは、この街の富豪たちが結集し、街の細部にわたる決定事項を話し合う、寄り合い組織のことにほかならない。
テメトゥースの頭脳であり、法であり、神の見えざる手であるのだ。
「それに異論はないのですが、問題は出場選手です」
座っている位置からも、この会議の『長』とおぼしき最初の発言者の声をうけて、見るからに怪しげな貿易商――長い髭を持つ初老の男が口を開いた。
名前をトダレーンという。外見に反して、貿易商としての実績は「怪しく」ない。彼だけでなく、この会議に出られる人物の商才は、みな素晴らしい。
「うむ。たしかにそれが問題ですな」
そう続けたのは、ソーレスという小太りの男だった。
「これまでに、こちらからの招待を受諾した選手たちを整理しましょう」
「それがよいですな」
ソーレスの提案に、みながうなずいた。
「では、それはわたくしめから」
一人が椅子から立ち上がった。
眼鏡をかけた知的な老紳士だった。
チクザトールという。
どうやらこの男の進行で、会議が続いていくらしい。
「われわれ『栄華連』は世界の闘技を統一させるべく、日夜その実現に力をそそいでいるわけでありますが、きたるべき『世界大会』に向けて、各国それぞれから、その国最強の戦士たちを呼ぼうとしました」
チクザトールは、この部屋に入室を許されている者ならば、全員知っているであろうことから語りはじめた。神経質で几帳面そうな容貌は、そのまま性格をあらわしてるようだ。
「まずは、旺州諸国ですが……ナシャスは、辞退を申し出てきました。ご存じのとおり、ナシャスはラドムンクンの聖地。ぜひとも、今大会に出場してもらいたかったわけですが……残念です」
「やはり、闘規ですか?」
問いを投げかけたのは、この部屋唯一の西方民族の顔だちをした男だった。
明堺源という瀏斑から流れてきた商人だ。
「そうです、カイゲン殿。各国の懸念、とくに体術だけの競技では、闘規を気にして出場を見合わせる国が多かった。旺州ではありませんが、タトルもそうです」
「『リフステル』の選手も駄目ですか」
トダレーンが言った。
『リフステル』とは、投げを主体とした競技のことだ。相手の背中を地面につけたら点数が入り、最終的に多いほうが勝者となる。また、審判が三つ数えるあいだ、対戦者の肩をつけていられれば、点数は関係なしに一本勝ちとなる。関節技もあるが、相手を痛めつけることが目的でないだけに、それほど重要視はされていない。
「仕方ないですな。素手で剣と闘おうという発想は、まだ世界にはない。このテメトゥースが先端をいきすぎてるんだ」
まるで誇るような発言は、エンダという隻眼の男だった。
もとは、緑海の海賊だった荒くれ者だ。
「しかし、こころよく選手を派遣してくれるという国もありました」
「ほう! 体術系か?」
「そうです」
エンダは進行役のチクザトールに、一つだけの喜々とした瞳をむけた。
「オルダーンです」
「すると、蹴術の王者!?」
「王者なのですが、残念ながら蹴術ではありません。蹴投です」
室内の空気が、一瞬のうちに冷めたようだった。
拳と蹴りで闘う「打撃の華」とうたわれる蹴術は、拳術には劣るものの、やはり世界的に人気のある競技だ。その王者となると注目度がちがう。しかもこのテメトゥースにおいては、蹴術を神聖視する理由がある。
それが蹴投となると、話は異なってしまう。
蹴術に投げが加わるこの部門は、競技人口が少なく、知名度もない。ほぼ、オルダーンでしかおこなわれていないのだ。
「オルダーンも、逃げたわけですな」
明堺源が、あからさまに侮蔑を口にした。
「かりに、蹴術の王者が負けてしまったら、ことですからな。だが蹴投だったら、王者が負けようがそれほどの痛手ではない。オルダーンには、まだ蹴術がある──と開き直るでしょうからな」
トダレーンも、それに続いた。
「ですが、みなさん、蹴投ととはいえ、侮れませんよ」
「ほう。チグザトール殿にそこまで言わせるとは……」
ソーレスが興味を示した。小太りの身体を乗り出している。
「その選手とは、あの《炎鷲》の技を受け継ぐものだからです」
おお! という、どよめきがおこった。
「たしか噂では、引退後、彼は選手の育成に力を入れるわけでもなく、その日その日をだらだらと過ごしていたと聞く。その《炎鷲》がよみがえったというのか!?」
「その通りです、ソーレス殿」
さらに身を乗り出してきた。
「《炎鷲》の弟子にして蹴投王者! これは話題性充分ですよっ!」
「補足説明しておきますが、その選手は《炎鷲》の教えをうけ、蹴投の王者についてから、さらに蹴術のほうでも頭角をあらわしたようです。わずか数ヶ月のあいだに、階順七位まで上がってきました」
七位?
と、不満の声もあがったが、ソーレスがそれに反論した。
「なにを言うか! オルダーンでは、闘技場単位ではなく、国内統一で階順を決めているのだ! 七位とはいえ、凄いことなのだっ!」
どうやらソーレスは、《炎鷲》の根強い支持者らしい。
「まあまあ、ソーレス殿、そう興奮なさらずに――」
チクザトールは、たしなめの言葉を入れてから報告を再開した。
「では、そのほかの旺州諸国を続けましょうか。サンソルからは、最初ことわりの返事がきたのですが、その後、あらためて選手を一人送ると言ってきました」
「サンソルは、いま民主化運動とやらが盛んで、格闘技どころではないという話だったが」
「はい。いくつかある闘技場は、すべて王族が運営しているので、民主化運動鎮圧に財政をさかれ、どこも資金不足で休業状態となっているようです」
「で、どういう選手を送ってくると?」
「サンソル国内では有名な人物らしいですが……《ヒゲの男爵》と呼ばれる男だそうです」
「戦績は?」
「三五勝一二敗二九の引き分け。所属する闘技場の階順は一二位です」
「負け数も多いが、なによりも引き分けが多すぎる。たいした選手ではないな」
代表するトダレーンの声が、一同の思惑と符合しているようだった。
「続いては『南旺』の三国、ニフィーデン・スキュート・ノルディですが、いずれも選手の派遣は見送ると」
もはや残念な内容には慣れたのか、そのことにおもだった反応はなかった。
「地理的にも遠い場所だ……仕方なしか」
ただ一人、議長とみられる男が、そうつぶやいたにとどまった。
「打診した旺州の国ではあと二国、イシュテルとメリルスですが、イシュテルからの返答はまだありません。そして、メリルスですが……」
言葉を溜めた瞬間に、だれもが不本意な結論を脳裏に浮かべた。だがチクザトールは、ニッとゆるめた視線を向けていた。
「メリルスで、いま一番だろうといわれている男――《剣神》とあだ名されている剣術最強の戦士の参戦が決まりました」
「おお!」
「メリルスの闘者は奴隷ですから、こちらからの招待を断ることができなかったにしろ、これはおもしろいことになってきた!」
「ふふ、奴隷商人にとって、闘者とは金儲けの駒でしかないからな。かわりなど、いくらでもいるのだろう」
皮肉まじりに明堺源は、歓喜するソーレスの言葉につけたした。
「それがそうでもないようです。当然、こちらからは高額の金銭を提示しましたが、その大半が、奴隷商人ではなく、奴隷であるはずの闘者自身にいくよう契約を結びましたので」
「ん? なにかのまちがいでは?」
「いえ、確かです」
「詳しいことはわからんが……どうやら、メリルスも変わってきているようだな」
議長が、意味深げに言葉を投げかけた。
それにより一同の視線を集めたが、すぐにチクザトールの発言の再開で、それは散り散りとなていく。
「では、旺州以外の地域に移ります。旺州から北へ、庭中海を越えた熱砂の大陸……エンプス代表は《獅子殺し》の異名をとる男」
「獅子?」
「エンプスの闘技場は、人間対人間ではありません。人間対猛獣――もうおわかりのとおり、獅子と闘うのです」
「で、獅子殺しか」
明堺源は、納得したようにうなずくと、口許をゆるめた。
「ずいぶん、たいそうな名だが、つまりエンプスの戦士は、全員が《獅子殺し》というわけなのだな」
その言に、わずかの間もおかず、反論が返っていった。
「いいえ、わざわざそう呼ぶのには、理由があります。その戦士は武器で……剣で獅子を仕留めるのではありません」
「ん?」
「素手です。素手で獅子を殺すのです」
声なき唸りが、室内を覆った。
「まず剣で獅子の戦闘力を奪い、弱らせてからが、その戦士の見せ場です。そこからは剣を捨てます。素手で獅子を撲殺するのです。観客は、その光景のために闘技場へ足を運ぶ。もちろん、エンプスでもっとも勇猛をほこる闘者――」
だれかの、ゴクッ、という唾を飲み込む音が聞こえた。
「残るは、ムマとリュウハンですが……」
「おお、そうだ! ムマだ、ムサンマだ! 立ち技最強のムサンマがなくては、今度の大会も盛り上がりにかけるというものよ!」
ソーレスが、再び身を乗り出してきた。《炎鷲》にしろ、ムサンマにしろ、どうやらこの男は、蹴術がお好みのようだ。
「まことにもって無念です……《風の使い》と呼ばれる現ソンウッド級王者――生きたまま伝説の仲間入りをするのではないかと噂される、サワルディン・ミッソンチョークですが、今大会に出場の意志はないとのことです……」
「な、なんですと!? そんなことでは、観客は納得しませんぞ! 王者じゃなくてもいい……かわりの選手はいないんですか? 階順二〇までに入っていればいいんだ!」
「そこのところは現在調整中ですが……難しいかと」
ソーレスの落胆は、むしろ滑稽に見えるほどだった。
彼ほどでないにしても、失望は確実に部屋を侵食していた。
「続けさせていただきます。招待状をおくった最後の一国、リュウハンです」
「おお、そうだ! われら瀏斑がある」
叫ぶように声をあげたのは、やはり明堺源だった。そんな彼に、ソーレスが恨めしそうな視線をおくっていた。
「唯一、交流を結んでいるわがテメトゥース独立市のために、西の大国は、おそるべき屈強な戦士を用意してくれました。四門将の一人──」
その段階で、堺源の表情は驚愕に歪んでいた。
「な、なんだって!?」
「どうしたのだ、カイゲン殿?」
「どうしたもこうしたもないぞ、それがどういうことかわからんのか!?」
驚きの理由に戸惑うトダレーンに、堺源は逆に訊いていた。
「四門将とは、瀏斑の軍事をすべて取り仕切る最高の武術家のことなのだぞ! 数千年の歴史に裏打ちされた、数千万の兵力のなかのたった四人の英傑! まさしく瀏斑の『武』そのものなのだ」
帝都を囲むように外界を閉ざしている四門――北を守る翠虎門、南の緋鹿門、東の藍鳳門、西の紫獏門、そのそれぞれに霊獣の称号を得た将軍たちがひかえている。彼らは、めったに姿を現すことはなく、国の存亡をゆるがす戦争や、国家転覆を防ぐための密命にしか動かないという。
「ど、どれだ? どの門の将軍だ!?」
「いえ、じつは……そこまでは、まだ決定していないようでして……ただ、四門将の一人を必ず派遣するとのこと」
少し水をさされたようだが、それでもなお明堺源の興奮は消沈することはなかった。
「と、とにかく来るのだな!? 来るのなら、それでいい! だれが来ようと、とんでもないことだぞ」
ここまでで話題にのぼったのは、サンソルのヒゲの男爵、メリルスの剣神、オルダーンの炎鷲の弟子、エンプスの獅子殺し、リュウハンの四門将の一人。
「どうですかな、みなさん」
満を持して、議長が声を発した。
「今度の大会の目玉になりますかな?」
その問いには、うなずく者、渋い顔をする者、まちまちだった。
四門将軍の参戦に驚愕した明堺源、そしてトダレーンなどは納得したようだ。逆に、《炎鷲》の弟子では歓喜したものの、ムサンマの不参加で落胆したソーレスなどは、顔をいささかしかめている。
「やはり、立ち技体術最強がなければ……」
「ほほほ、まことに欲張りよのう。だが、それでこそ『栄華連』は今日の隆盛をきわめられたのだ」
そう発言すると、議長はある一方に眼を向けた。四角の大きな卓を囲むように座っている彼らだったが、その重鎮たちのいずれでもない。
「おい、ラリュース」
自身の左斜め後方――壁を背に立っていた若者にかけた言葉だった。
「はい、父上」
それまで無言で、彫刻細工のようにたたずんでいた美青年が、はじめて動きをみせた。
青年?
歳は、三〇に近いのかもしれない。しかしこのなかにあっては、やはり若さが際立ってしまう。
旺州人にも劣らない儚げな白い肌。線の細い流れるような体つき。風を連想させる、ゆるくうねった長い髪。著名な画家の描く絵の登場人物――しかも、主役の品格をかねそろえた美貌だった。
だがそれでいて、歳を重ねた貫祿もある。絵のなかの住人のようでありながら、そういう芸術を生み出すほうの威厳も感じさせる。まだ巨匠ではないが、それすらもおびえさせる新進気鋭の力。
描くほう?
描かれるほう?
そのどちらにしろ、名だたる商人があふれたこの部屋には、少し不釣り合いのような気がする。
「そちらのほうは、どうだ?」
「たしか、私の枠は三つくれるということでしたね?」
「そうだったな」
青年――ラリュースが、一歩前に出た。
「私は、父からの許しを得て、独自の道で参加選手をさがしました」
「なんと、坊ちゃんが」
ざわめきがおこった。
それを無視して、ラリュースは続けた。
「みなさまがたのご不満はわかります。このような若輩者が、大会出場者選考の一端を担うなど、分不相応ではないかと」
その台詞の途中で、ざわめきはやんでいた。
「いえ、坊ちゃんの格闘好きはだれもが知るところ。みなも文句はないでしょう」
言ったのは、さきほどまで進行役だったチクザトールだった。
「ありがとう。では、私のほうから推薦する選手を発表したい――。まずは、ギルチアの槍使い」
「ギルチア?」
と、一同からの疑問があがった。
「あ、ええと……それはわたくしのほうから」
チクザトールが説明の任を買って出た。
「たしか、数年前に南の帝国から独立した国家です。ホクルチア、ノウルチタンとともに……。激しい帝国との内戦で国民は疲弊しきっているとのことでしたが」
「帝国というと……山脈を挟んで、このサルジャークと隣国となるのか」
しみじみと堺源が言った。
それは無理もないことだった。南の帝国は、ただでさえ沈黙する氷原の巨国。その情報はあまり入ってこないのだ。ただ、サルジャークや旺州の人々が抱く帝国の姿とは、冷酷に国を統治し、残虐に隣国を侵攻する非人間的なものだ。得体の知れないぶんだけ、同じように侵略される危険性が高い瀏斑よりも、たちが悪い。
「独立を許すとは、どうやら帝国も、それほど強固というわけではないようですな」
トダレーンが、つぶやいた。
「しかし、どうやってギルチアの選手に接触できたのですかな? たしか坊ちゃんは、ついこのあいだまで旅に出ていたということでしたが、そのときのことですかな?」
ソーレスが、素朴な問いをぶつけた。
「いえ、じつはギルチア出身といっても、ギルチアで闘っていたわけではありません。メリルスです。メリルスに流れてきた闘者なのです。槍の一突きだけで勝負を決めるところから――《一角豹》と呼ばれる男です」
「一角豹?」
体陸南部の寒冷地域には雪豹が生息している。一角の豹とは、伝説上の雪豹で、その名のとおり額から角が生えているという。
「戦績は八勝をあげたばかりのまだ新参者だったのですが、いけますよ、彼は」
自信ありげに、ラリュースは語った。
「二枠目は、ソーレス殿ご期待のムサンマです」
「おお!」
それを聞いて、興奮がよみがえってきたようだ。
「《狂犬》と呼ばれるセドゥルディック級五位の選手です」
「セドゥルディック級というのには引っかかるが、階順五位は申し分ない! さすがは坊ちゃんだ!」
さすがなのはラリュースだけでなく、セドゥルディック級がムマでは「おざなり」にされている階級だと知り、ムサンマの五位がどれほど凄いかを理解しているソーレス自身もだろう。
「最後の一枠は、まだ本人の了承は取っていませんが……かつて《雷狼》の異名でナーダ聖技場の王者に君臨していた剣士です」
それには、だれからも反応はなかった。
「おや? 不満があるようですね」
というより、関心がない、というほうが正解だろうか。
「ナーダの人間を呼ぶなんて、坊ちゃんらしくもない」
それは、エンダの発言だった。もと海賊らしく、遠慮のない嘲りがふくまれている。
「ナーダとわれわれの実力差は、いまやだれもが知るところ……しかも《雷狼》とは、あのときの対戦者ではなかったですかな?」
ラリュースは、すぐに言葉を返さずに、ゆるやかな笑みをかわりに浮かべた。
「うむ……ギルチアの槍使いと、ムサンマの《狂犬》は文句のつけようがない。が、最後の一人に納得する者はいないでしょう」
冷静に発言したのは、トダレーンだった。
そこに、チクザトールが助け船を出した。
「どうですか、坊ちゃん。本人からの了承は得ていない、ということでしたので、その彼には、予選から出てもらうというのは?」
「予選?」
疑問の声はソーレスのものだったが、議長とラリュース、言いだしたチクザトール以外の人間は、同じように引っかかりをおぼえたらしい。
「ええと、みなさまにはまだお伝えしていなかったですかね……」
そう前置きをしてから、チクザトールは説明をはじめた。
「大会には、招待選手のほかにも、広く出場者を募ろうと考えているのですが……みなさま、どうですかな?」
「そういう重要なことは、もっとはやく言ってもらわなければ」
少し憤慨したように、トダレーンは不満をもらした。
「申し訳ありません」
「ほほほ、そうチクザトールを責めないでくれ。これは、わしが言いだしたことなのだ」
議長の言葉は、すべての者を黙らせた。
ゴルバ・ウィルド。
栄華連のなかでも……いや、おそらく世界のなかでも最大の財力を誇るであろう男。
《商帝》と異名をとる大富豪『ウィルド家』の長であり、栄華連の束ね役でもある有力者中の有力者。
チクザトールも一商人としては優れているが、そういう男を召使のように従えさせている。
「当然、招待選手はそのまま本戦に出場してもらうことになるが、そのほかにも自由に参戦の意志を呼びかけ、それに答えたる者には、ふさわしい舞台を用意してやることにしたのだよ。そこから勝ち上がりさえすれば、だれでも世界の強豪と闘うことができる」
「たしかに、それはおもしろいですな」
賛同したのは、明堺源だった。
続くように、エンダやソーレスも納得の意をあらわす。
「ラリュースよ、了承を得られなかったということは、その者がどこにいるのかわからないのではないか?」
「そのとおりです、父上。おそらく、この街にやって来たとは思うのですが……いまだ再会することはできません」
「では、その者には特例として、募集期間を過ぎても出場権をあたえるようにしようではないか。いつ会えるかわからんのなら、充分に意味のある特例だと思うぞ。大会当日に、ひょっこり現れるかもしれんからな」
「わかりました。それでかまいません」
ラリュースは、表面上は穏やかに、だが内面では渋々と了解していた。