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ライジン  作者: てんの翔
23/66

砕牙の章 2

「開催は、予定通りでよいですな?」

 その発言から、会議ははじまった。

 参加人数は、七名。

 いずれも、このテメトゥースにおける重要人物といってもいいだろう。

「栄華連」という言葉は、この都市をそのまま指すこともある。瀏斑リュウハンでは実際にそうだし、その他の国々においても、似たような意味で使われている。

 本当の意味での『栄華連』とは、この街の富豪たちが結集し、街の細部にわたる決定事項を話し合う、寄り合い組織のことにほかならない。

 テメトゥースの頭脳であり、法であり、神の見えざる手であるのだ。

「それに異論はないのですが、問題は出場選手です」

 座っている位置からも、この会議の『長』とおぼしき最初の発言者の声をうけて、見るからに怪しげな貿易商――長い髭を持つ初老の男が口を開いた。

 名前をトダレーンという。外見に反して、貿易商としての実績は「怪しく」ない。彼だけでなく、この会議に出られる人物の商才は、みな素晴らしい。

「うむ。たしかにそれが問題ですな」

 そう続けたのは、ソーレスという小太りの男だった。

「これまでに、こちらからの招待を受諾した選手たちを整理しましょう」

「それがよいですな」

 ソーレスの提案に、みながうなずいた。

「では、それはわたくしめから」

 一人が椅子から立ち上がった。

 眼鏡をかけた知的な老紳士だった。

 チクザトールという。

 どうやらこの男の進行で、会議が続いていくらしい。

「われわれ『栄華連』は世界の闘技を統一させるべく、日夜その実現に力をそそいでいるわけでありますが、きたるべき『世界大会』に向けて、各国それぞれから、その国最強の戦士たちを呼ぼうとしました」

 チクザトールは、この部屋に入室を許されている者ならば、全員知っているであろうことから語りはじめた。神経質で几帳面そうな容貌は、そのまま性格をあらわしてるようだ。

「まずは、旺州諸国ですが……ナシャスは、辞退を申し出てきました。ご存じのとおり、ナシャスはラドムンクンの聖地。ぜひとも、今大会に出場してもらいたかったわけですが……残念です」

「やはり、闘規マニュですか?」

 問いを投げかけたのは、この部屋唯一の西方民族の顔だちをした男だった。

 明堺源ミンカイゲンという瀏斑から流れてきた商人だ。

「そうです、カイゲン殿。各国の懸念、とくに体術だけの競技では、闘規を気にして出場を見合わせる国が多かった。旺州ではありませんが、タトルもそうです」

「『リフステル』の選手も駄目ですか」

 トダレーンが言った。

『リフステル』とは、投げを主体とした競技のことだ。相手の背中を地面につけたら点数が入り、最終的に多いほうが勝者となる。また、審判が三つ数えるあいだ、対戦者の肩をつけていられれば、点数は関係なしに一本勝ちとなる。関節技もあるが、相手を痛めつけることが目的でないだけに、それほど重要視はされていない。

「仕方ないですな。素手で剣と闘おうという発想は、まだ世界にはない。このテメトゥースが先端をいきすぎてるんだ」

 まるで誇るような発言は、エンダという隻眼の男だった。

 もとは、緑海の海賊だった荒くれ者だ。

「しかし、こころよく選手を派遣してくれるという国もありました」

「ほう! 体術系か?」

「そうです」

 エンダは進行役のチクザトールに、一つだけの喜々とした瞳をむけた。

「オルダーンです」

「すると、蹴術の王者!?」

「王者なのですが、残念ながら蹴術ではありません。蹴投シュウトウです」

 室内の空気が、一瞬のうちに冷めたようだった。

 拳と蹴りで闘う「打撃の華」とうたわれる蹴術は、拳術には劣るものの、やはり世界的に人気のある競技だ。その王者となると注目度がちがう。しかもこのテメトゥースにおいては、蹴術を神聖視する理由がある。

 それが蹴投となると、話は異なってしまう。

 蹴術に投げが加わるこの部門は、競技人口が少なく、知名度もない。ほぼ、オルダーンでしかおこなわれていないのだ。

「オルダーンも、逃げたわけですな」

 明堺源が、あからさまに侮蔑を口にした。

「かりに、蹴術の王者が負けてしまったら、ことですからな。だが蹴投だったら、王者が負けようがそれほどの痛手ではない。オルダーンには、まだ蹴術がある──と開き直るでしょうからな」

 トダレーンも、それに続いた。

「ですが、みなさん、蹴投ととはいえ、侮れませんよ」

「ほう。チグザトール殿にそこまで言わせるとは……」

 ソーレスが興味を示した。小太りの身体を乗り出している。

「その選手とは、あの《炎鷲シャリーク》の技を受け継ぐものだからです」

 おお! という、どよめきがおこった。

「たしか噂では、引退後、彼は選手の育成に力を入れるわけでもなく、その日その日をだらだらと過ごしていたと聞く。その《炎鷲》がよみがえったというのか!?」

「その通りです、ソーレス殿」

 さらに身を乗り出してきた。

「《炎鷲》の弟子にして蹴投王者! これは話題性充分ですよっ!」

「補足説明しておきますが、その選手は《炎鷲》の教えをうけ、蹴投の王者についてから、さらに蹴術のほうでも頭角をあらわしたようです。わずか数ヶ月のあいだに、階順ローガ七位まで上がってきました」

 七位?

 と、不満の声もあがったが、ソーレスがそれに反論した。

「なにを言うか! オルダーンでは、闘技場単位ではなく、国内統一で階順を決めているのだ! 七位とはいえ、凄いことなのだっ!」

 どうやらソーレスは、《炎鷲》の根強い支持者らしい。

「まあまあ、ソーレス殿、そう興奮なさらずに――」

 チクザトールは、たしなめの言葉を入れてから報告を再開した。

「では、そのほかの旺州諸国を続けましょうか。サンソルからは、最初ことわりの返事がきたのですが、その後、あらためて選手を一人送ると言ってきました」

「サンソルは、いま民主化運動とやらが盛んで、格闘技どころではないという話だったが」

「はい。いくつかある闘技場は、すべて王族が運営しているので、民主化運動鎮圧に財政をさかれ、どこも資金不足で休業状態となっているようです」

「で、どういう選手を送ってくると?」

「サンソル国内では有名な人物らしいですが……《ヒゲの男爵》と呼ばれる男だそうです」

「戦績は?」

「三五勝一二敗二九の引き分け。所属する闘技場の階順は一二位です」

「負け数も多いが、なによりも引き分けが多すぎる。たいした選手ではないな」

 代表するトダレーンの声が、一同の思惑と符合しているようだった。

「続いては『南旺』の三国、ニフィーデン・スキュート・ノルディですが、いずれも選手の派遣は見送ると」

 もはや残念な内容には慣れたのか、そのことにおもだった反応はなかった。

「地理的にも遠い場所だ……仕方なしか」

 ただ一人、議長とみられる男が、そうつぶやいたにとどまった。

「打診した旺州の国ではあと二国、イシュテルとメリルスですが、イシュテルからの返答はまだありません。そして、メリルスですが……」

 言葉を溜めた瞬間に、だれもが不本意な結論を脳裏に浮かべた。だがチクザトールは、ニッとゆるめた視線を向けていた。

「メリルスで、いま一番だろうといわれている男――《剣神》とあだ名されている剣術最強の戦士の参戦が決まりました」

「おお!」

「メリルスの闘者は奴隷ですから、こちらからの招待を断ることができなかったにしろ、これはおもしろいことになってきた!」

「ふふ、奴隷商人にとって、闘者とは金儲けの駒でしかないからな。かわりなど、いくらでもいるのだろう」

 皮肉まじりに明堺源ミンカイゲンは、歓喜するソーレスの言葉につけたした。

「それがそうでもないようです。当然、こちらからは高額の金銭を提示しましたが、その大半が、奴隷商人ではなく、奴隷であるはずの闘者自身にいくよう契約を結びましたので」

「ん? なにかのまちがいでは?」

「いえ、確かです」

「詳しいことはわからんが……どうやら、メリルスも変わってきているようだな」

 議長が、意味深げに言葉を投げかけた。

 それにより一同の視線を集めたが、すぐにチクザトールの発言の再開で、それは散り散りとなていく。

「では、旺州以外の地域に移ります。旺州から北へ、庭中海を越えた熱砂の大陸……エンプス代表は《獅子殺し》の異名をとる男」

「獅子?」

「エンプスの闘技場は、人間対人間ではありません。人間対猛獣――もうおわかりのとおり、獅子と闘うのです」

「で、獅子殺しか」

 明堺源は、納得したようにうなずくと、口許をゆるめた。

「ずいぶん、たいそうな名だが、つまりエンプスの戦士は、全員が《獅子殺し》というわけなのだな」

 その言に、わずかの間もおかず、反論が返っていった。

「いいえ、わざわざそう呼ぶのには、理由があります。その戦士は武器で……剣で獅子を仕留めるのではありません」

「ん?」

「素手です。素手で獅子を殺すのです」

 声なき唸りが、室内を覆った。

「まず剣で獅子の戦闘力を奪い、弱らせてからが、その戦士の見せ場です。そこからは剣を捨てます。素手で獅子を撲殺するのです。観客は、その光景のために闘技場へ足を運ぶ。もちろん、エンプスでもっとも勇猛をほこる闘者――」

 だれかの、ゴクッ、という唾を飲み込む音が聞こえた。

「残るは、ムマとリュウハンですが……」

「おお、そうだ! ムマだ、ムサンマだ! 立ち技最強のムサンマがなくては、今度の大会も盛り上がりにかけるというものよ!」

 ソーレスが、再び身を乗り出してきた。《炎鷲シャリーク》にしろ、ムサンマにしろ、どうやらこの男は、蹴術がお好みのようだ。

「まことにもって無念です……《風の使い》と呼ばれる現ソンウッド級王者――生きたまま伝説の仲間入りをするのではないかと噂される、サワルディン・ミッソンチョークですが、今大会に出場の意志はないとのことです……」

「な、なんですと!? そんなことでは、観客は納得しませんぞ! 王者じゃなくてもいい……かわりの選手はいないんですか? 階順ローガ二〇までに入っていればいいんだ!」

「そこのところは現在調整中ですが……難しいかと」

 ソーレスの落胆は、むしろ滑稽に見えるほどだった。

 彼ほどでないにしても、失望は確実に部屋を侵食していた。

「続けさせていただきます。招待状をおくった最後の一国、リュウハンです」

「おお、そうだ! われら瀏斑がある」

 叫ぶように声をあげたのは、やはり明堺源だった。そんな彼に、ソーレスが恨めしそうな視線をおくっていた。

「唯一、交流を結んでいるわがテメトゥース独立市のために、西の大国は、おそるべき屈強な戦士を用意してくれました。四門将の一人──」

 その段階で、堺源の表情は驚愕に歪んでいた。

「な、なんだって!?」

「どうしたのだ、カイゲン殿?」

「どうしたもこうしたもないぞ、それがどういうことかわからんのか!?」

 驚きの理由に戸惑うトダレーンに、堺源は逆に訊いていた。

「四門将とは、瀏斑の軍事をすべて取り仕切る最高の武術家のことなのだぞ! 数千年の歴史に裏打ちされた、数千万の兵力のなかのたった四人の英傑! まさしく瀏斑の『武』そのものなのだ」

 帝都を囲むように外界を閉ざしている四門――北を守る翠虎スイコ門、南の緋鹿ヒガ門、東の藍鳳ランホウ門、西の紫獏シバク門、そのそれぞれに霊獣の称号を得た将軍たちがひかえている。彼らは、めったに姿を現すことはなく、国の存亡をゆるがす戦争や、国家転覆を防ぐための密命にしか動かないという。

「ど、どれだ? どの門の将軍だ!?」

「いえ、じつは……そこまでは、まだ決定していないようでして……ただ、四門将の一人を必ず派遣するとのこと」

 少し水をさされたようだが、それでもなお明堺源の興奮は消沈することはなかった。

「と、とにかく来るのだな!? 来るのなら、それでいい! だれが来ようと、とんでもないことだぞ」

 ここまでで話題にのぼったのは、サンソルのヒゲの男爵、メリルスの剣神、オルダーンの炎鷲の弟子、エンプスの獅子殺し、リュウハンの四門将の一人。

「どうですかな、みなさん」

 満を持して、議長が声を発した。

「今度の大会の目玉になりますかな?」

 その問いには、うなずく者、渋い顔をする者、まちまちだった。

 四門将軍の参戦に驚愕した明堺源、そしてトダレーンなどは納得したようだ。逆に、《炎鷲シャリーク》の弟子では歓喜したものの、ムサンマの不参加で落胆したソーレスなどは、顔をいささかしかめている。

「やはり、立ち技体術最強がなければ……」

「ほほほ、まことに欲張りよのう。だが、それでこそ『栄華連』は今日の隆盛をきわめられたのだ」

 そう発言すると、議長はある一方に眼を向けた。四角の大きな卓を囲むように座っている彼らだったが、その重鎮たちのいずれでもない。

「おい、ラリュース」

 自身の左斜め後方――壁を背に立っていた若者にかけた言葉だった。

「はい、父上」

 それまで無言で、彫刻細工のようにたたずんでいた美青年が、はじめて動きをみせた。

 青年?

 歳は、三〇に近いのかもしれない。しかしこのなかにあっては、やはり若さが際立ってしまう。

 旺州人にも劣らない儚げな白い肌。線の細い流れるような体つき。風を連想させる、ゆるくうねった長い髪。著名な画家の描く絵の登場人物――しかも、主役の品格をかねそろえた美貌だった。

 だがそれでいて、歳を重ねた貫祿もある。絵のなかの住人のようでありながら、そういう芸術を生み出すほうの威厳も感じさせる。まだ巨匠ではないが、それすらもおびえさせる新進気鋭の力。

 描くほう?

 描かれるほう?

 そのどちらにしろ、名だたる商人があふれたこの部屋には、少し不釣り合いのような気がする。

「そちらのほうは、どうだ?」

「たしか、私の枠は三つくれるということでしたね?」

「そうだったな」

 青年――ラリュースが、一歩前に出た。

「私は、父からの許しを得て、独自の道で参加選手をさがしました」

「なんと、坊ちゃんが」

 ざわめきがおこった。

 それを無視して、ラリュースは続けた。

「みなさまがたのご不満はわかります。このような若輩者が、大会出場者選考の一端を担うなど、分不相応ではないかと」

 その台詞の途中で、ざわめきはやんでいた。

「いえ、坊ちゃんの格闘好きはだれもが知るところ。みなも文句はないでしょう」

 言ったのは、さきほどまで進行役だったチクザトールだった。

「ありがとう。では、私のほうから推薦する選手を発表したい――。まずは、ギルチアの槍使い」

「ギルチア?」

 と、一同からの疑問があがった。

「あ、ええと……それはわたくしのほうから」

 チクザトールが説明の任を買って出た。

「たしか、数年前に南の帝国から独立した国家です。ホクルチア、ノウルチタンとともに……。激しい帝国との内戦で国民は疲弊しきっているとのことでしたが」

「帝国というと……山脈を挟んで、このサルジャークと隣国となるのか」

 しみじみと堺源が言った。

 それは無理もないことだった。南の帝国は、ただでさえ沈黙する氷原の巨国。その情報はあまり入ってこないのだ。ただ、サルジャークや旺州の人々が抱く帝国の姿とは、冷酷に国を統治し、残虐に隣国を侵攻する非人間的なものだ。得体の知れないぶんだけ、同じように侵略される危険性が高い瀏斑よりも、たちが悪い。

「独立を許すとは、どうやら帝国も、それほど強固というわけではないようですな」

 トダレーンが、つぶやいた。

「しかし、どうやってギルチアの選手に接触できたのですかな? たしか坊ちゃんは、ついこのあいだまで旅に出ていたということでしたが、そのときのことですかな?」

 ソーレスが、素朴な問いをぶつけた。

「いえ、じつはギルチア出身といっても、ギルチアで闘っていたわけではありません。メリルスです。メリルスに流れてきた闘者なのです。槍の一突きだけで勝負を決めるところから――《一角豹ピーネーゼ》と呼ばれる男です」

「一角豹?」

 体陸南部の寒冷地域には雪豹が生息している。一角の豹とは、伝説上の雪豹で、その名のとおり額から角が生えているという。

「戦績は八勝をあげたばかりのまだ新参者だったのですが、いけますよ、彼は」

 自信ありげに、ラリュースは語った。

「二枠目は、ソーレス殿ご期待のムサンマです」

「おお!」

 それを聞いて、興奮がよみがえってきたようだ。

「《狂犬》と呼ばれるセドゥルディック級五位の選手です」

「セドゥルディック級というのには引っかかるが、階順ローガ五位は申し分ない! さすがは坊ちゃんだ!」

 さすがなのはラリュースだけでなく、セドゥルディック級がムマでは「おざなり」にされている階級だと知り、ムサンマの五位がどれほど凄いかを理解しているソーレス自身もだろう。

「最後の一枠は、まだ本人の了承は取っていませんが……かつて《雷狼リダジャーダ》の異名でナーダ聖技場の王者に君臨していた剣士です」

 それには、だれからも反応はなかった。

「おや? 不満があるようですね」

 というより、関心がない、というほうが正解だろうか。

「ナーダの人間を呼ぶなんて、坊ちゃんらしくもない」

 それは、エンダの発言だった。もと海賊らしく、遠慮のない嘲りがふくまれている。

「ナーダとわれわれの実力差は、いまやだれもが知るところ……しかも《雷狼》とは、あのときの対戦者ではなかったですかな?」

 ラリュースは、すぐに言葉を返さずに、ゆるやかな笑みをかわりに浮かべた。

「うむ……ギルチアの槍使いと、ムサンマの《狂犬》は文句のつけようがない。が、最後の一人に納得する者はいないでしょう」

 冷静に発言したのは、トダレーンだった。

 そこに、チクザトールが助け船を出した。

「どうですか、坊ちゃん。本人からの了承は得ていない、ということでしたので、その彼には、予選から出てもらうというのは?」

「予選?」

 疑問の声はソーレスのものだったが、議長とラリュース、言いだしたチクザトール以外の人間は、同じように引っかかりをおぼえたらしい。

「ええと、みなさまにはまだお伝えしていなかったですかね……」

 そう前置きをしてから、チクザトールは説明をはじめた。

「大会には、招待選手のほかにも、広く出場者を募ろうと考えているのですが……みなさま、どうですかな?」

「そういう重要なことは、もっとはやく言ってもらわなければ」

 少し憤慨したように、トダレーンは不満をもらした。

「申し訳ありません」

「ほほほ、そうチクザトールを責めないでくれ。これは、わしが言いだしたことなのだ」

 議長の言葉は、すべての者を黙らせた。

 ゴルバ・ウィルド。

 栄華連のなかでも……いや、おそらく世界のなかでも最大の財力を誇るであろう男。

《商帝》と異名をとる大富豪『ウィルド家』の長であり、栄華連の束ね役でもある有力者中の有力者。

 チクザトールも一商人としては優れているが、そういう男を召使のように従えさせている。

「当然、招待選手はそのまま本戦に出場してもらうことになるが、そのほかにも自由に参戦の意志を呼びかけ、それに答えたる者には、ふさわしい舞台を用意してやることにしたのだよ。そこから勝ち上がりさえすれば、だれでも世界の強豪と闘うことができる」

「たしかに、それはおもしろいですな」

 賛同したのは、明堺源だった。

 続くように、エンダやソーレスも納得の意をあらわす。

「ラリュースよ、了承を得られなかったということは、その者がどこにいるのかわからないのではないか?」

「そのとおりです、父上。おそらく、この街にやって来たとは思うのですが……いまだ再会することはできません」

「では、その者には特例として、募集期間を過ぎても出場権をあたえるようにしようではないか。いつ会えるかわからんのなら、充分に意味のある特例だと思うぞ。大会当日に、ひょっこり現れるかもしれんからな」

「わかりました。それでかまいません」

 ラリュースは、表面上は穏やかに、だが内面では渋々と了解していた。


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