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ヒカリ  作者: 悠香
第1章~夏果編~
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第2話

「…チャイム、鳴っちゃったね」

わたしはそう言って教室に戻るために立ち上がった。

「ねえ、もっとお話しようよ」

「授業始まるでしょ」

「今日くらいサボっても大丈夫だよ」

「何言ってるのよ。それに他のクラスがここ使うかもしれないし…」

「この時間は誰もこの教室を使わないよ」

「…どうしてそう断言できるの?」

「だってこの時間いつもここにいるから」

この子は一体何者なんだ?わたしは少し実希のことを恐ろしく思った。今まで誰もこんな風にわたしに話しかけてこなかった。だからわたしはどうすればいいか分からなかった。わたしは、おかしいから…。

「ね、だからもっと話そうよ」

実希に言われるがままわたしは授業をサボることになってしまった。

「で、さっきいじめられてるって言ってたよね」

わたしは椅子に座り直しながら言った。

「実はそのあざはいじめと何か関係があるんじゃないの?」

「それは…、うん。階段を上がってたら後ろから押されて…。携帯もその時に壊れちゃったの」

実希はずっと大事そうに壊れた携帯を握っている。そんなにその携帯が好きなのだろうか。

「携帯くらいすぐに直せるじゃない」

「出来ないよ」

「どうして?携帯会社に持っていけばあっという間に帰ってくるよ。それに新しいもの買ったほうがいいと思うし」

「お金無いし、お父さんもお母さんもいないから」

「他の人に頼むとか…」

「そんなこと出来ないの!」

実希が突然怒ったように叫んだ。顔を真っ赤にして涙目になっている。

「あ、えっと、ごめん」

わたしはどうしたらいいか分からず謝った。

「わたしの親はね、」

実希は涙を流しながら話し始めた。

「二人とも働いてて、いつも忙しくて、わたしはもう何ヶ月も二人を見たことがないの。わたしよりも早く家を出て、わたしよりも遅く家に帰ってくるの。いつもね、目を覚まして台所に行くと、メモ書きとお金が置いてあるの。これでご飯食べてねって書いてあるの。最初の頃はごめんねって謝ってくれたのに…、今はその生活が当たり前になってる。だから二人ともわたしがいじめられてるって知らないんだから。ずっとわたしをほったらかしにしてきたんだから当たり前だよね。助けを呼びたくても、親戚はみんな遠いところに住んでるから無理だし…」

実希はここで一呼吸置いた。先ほどよりは少し落ち着いたようだ。そして実希はじっと自分の携帯を見つめた。

「この携帯ね、中学生になった時にお父さんが買ってくれたの。ちょうど、二人の仕事が忙しくなってくる頃だったかな。わたしはその時からいじめられてたから、学校が終わったらすぐに帰って携帯に夢中になってた。それで、携帯が手放せなくなった。携帯の無い生活が想像できなくなったの。だって、ネットの世界では誰もわたしを否定しない。みんな優しいの。だからね、わたし、これからどうしていけばいいのか全く分からない。辛くなった時に励ましてくれる人がいないの。寂しい時に寄り添ってくれる人がもういないの。わたし、どうしたらいいの…」

実希はそう言って手の甲で涙を拭った。

「ごめんね、わたしおかしいよね」

こういう時、何と答えればいいのだろう。わたしはしばらくの間何も言えなかった。

「おかしくないよ」

そう言うのが精いっぱいだった。

「えっ?」

「実希ちゃんは、おかしくないと思う」

「本当に?」

「うん、実希ちゃんはおかしくなんてない」

この時、実希は初めて本当の笑顔を見せたような気がした。

「ありがとう」

この言葉を聞いて、わたしは胸の奥がざわつくのを感じた。

「…おかしいのはわたしだから」

わたしは無意識にそうつぶやいた。

「え?」

「何でもない」

「教えてよ」

「それよりさ、」

わたしは話題を変えた。

「わたしやっぱり納得できないの。実希ちゃんがわたしのところに来た理由」

実希はきょとんとした。

「さっき言ったじゃない。夏果ちゃんがいつも一人でいるから…」

「どうやってわたしを知ったの?わたしは特に目立ったことしてないし、友達とかもいない。実希ちゃんとは中学は違うだろうから高校から一緒でしょ?まだ高校生になって二ヶ月なのに…、なんか、なんというか…」

「わたしが夏果ちゃんを知ったきっかけを聞きたいってこと?」

「う、うん」

「そんなこと聞いてどうするの?」

実希が不思議そうに聞いた。

「どうもしないけど、なんとなく」

「そっか…」

実希は話すことを少しためらっているようだ。そして壊れた携帯をより一層強く握りしめた。

「信じてくれる?」

「内容によるけど頑張って信じるよ」

「ほんと?じゃあ話してみようかな」

そして実希はゆっくり話し始めた。




二週間ほど前のことらしい。実希はある夢を見た。実希は暗闇の中で一人、自分の人生に絶望していた。次第に親にも愛されず、友達もいない人生を自分の手で終わらせることを考え始めていた。こんな惨めな人生、終わらせてやる…。

その時だった。目の前に温かい光が現れ、そこからやって来た女性が孤独な実希を優しく包み込むように寄り添った。

一人で寂しいの?

うん。

死にたいの?

うん、死にたい。

どうして死にたいの?

こんなつまらない人生、意味ないから。

そう、辛かったのね。

うん。もういいよね。死んでいいよね。

それはどうかな。

え?

わたしが生きる理由を与えてあげる。

どういうこと?

今から見せる人を探して。その人があなたの生きる意味になる。



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