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ヒカリ  作者: 悠香
第1章~夏果編~
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第19話

結局ヒカルが目を覚ますことなく一日が経ってしまった。

「チナさん、ヒカルは本当に大丈夫なの?」

わたしたちの様子を見に来たチナに聞いてみた。

「うーん、ここまでずっと眠っているのは初めてかも」

「これまでにもこんな風に長い間寝てることがあったの?」

「そうね、ヒカルはいつも大怪我して帰ってくるからこんなことはよくあるんだけど…」

チナは少し心配そうな顔をしながらヒカルの額に手を当てた。

「色々抱え込んでるだろうから疲れてるのかな…」

「何を抱えてるの?」

「…それはわたしにも分からないの」

チナはそう言うと困ったように笑った。

「分かってあげられたらいいんだけど」

分かりきってはいたことだがヒカルには誰も知らない秘密があるようだ。

「そのおでこに手を当てるのって何か意味があるの?」

「ああ、これ?」

チナは手を離すと説明してくれた。

「こうやって手を当てるのはその人の体調を確認するという意味もあるし、祈りを送るという意味もあるのよ。こうすればヒカルが生きているのが分かるし、ヒカルが早く目を覚ましてくれますようにっていう祈りを聞いてくれるんじゃないかって思うの」

「そっか…」

「他にもね、こうしてれば…」

「おはよう」

そんな話をしているとアキラが部屋に入ってきた。

「夏果ちゃんはもう朝食済ませた?」

「あ、そういえばまだだった」

「一緒に食べない?」

わたしは一応チナに確認を取ることにした。

「チナさん…」

「ずっとここにいてもつまらないだろうから気分転換に行って来たら?」

「うん、分かった」

わたしはアキラについていった。

わたしたちはいくつか階段を下り、曲がり角を曲がると広い食堂にたどり着いた。

「今日もパンとスープか…」

アキラが様子を見ながらつぶやいた。

食堂にいる人たちは小さなテーブルで雑談をしながら食事を取っていた。瞳の色が人それぞれでみんなソルティアであることが分かった。

遠くのほうでユウがわたしたちに向かって手を振っているのが見えた。席を取っていてくれたようだ。

「夏果ちゃんの分ももらってくるから先に座ってて」

アキラがそう言うのでわたしはユウのところに行った。

「おはよう」

わたしは席につくとユウがほとんど食事を終えていることに気づいた。

「早いんだね、今日は忙しいの?」

「いや、訓練だけなんだけどその前にヒカルの様子を見に行こうと思ってたんだ。ヒカル、まだ起きてないよね?」

「うん…」

ユウはわたしに気を遣っているのか無理やり笑顔を作ったように見えた。

「ヒカルなら大丈夫。こんなことじゃ死なないから」

ユウもヒカルのことが心配なのだろう。笑顔のあとに一瞬見せた不安そうな顔を見てわたしは思った。

「じゃあ俺行くね」

ユウはそう言って去っていった。

「あれ、ユウは?」

しばらくするとアキラが食事を持ってやってきた。

「ヒカルの様子を見てくるって言ってた」

「ああ、そう」

アキラはそう言い放って席に座った。

「アキラはヒカルのことが嫌いなの?」

わたしはアキラに聞いてみた。

「どうして?」

「ヒカルのことになると少し冷たいかんじになるから」

「決して嫌いというわけじゃないんだ。ただ許せないだけだよ」

「許せないって…、何があったの?」

「悪いけどそれは話せない。話したくない」

アキラの表情が暗くなった。それからアキラは一言も話さずに食事を取った。

何か悪いことでもあったのだろうか。何も知らないわたしはどうすればいいか分からず無言でパンをかじった。アキラからヒカルのことを聞くことは出来そうになかった。

「夏果ちゃんはこれから何をする予定?」

「うーん、特に何もないけど…」

「よかったらラディウスでも案内しようか?今日は特に予定がないんだ」

「本当?お願い!」

ずっとあの部屋にいるより外の空気を吸いたい気分だった。わたしは急いでご飯を食べ終えた。

アキラと共に食器を片づけ食堂を出た。

「とりあえず外に出ようか。そのほうが説明しやすい」

ラディウスはどんな場所なのだろう。わたしはわくわくしていた。

長い階段を降り、わたしたちは玄関のような場所に来た。多くの人が忙しそうに走り回り、騒がしかった。前方には大きな扉が開かれており、緑豊かな広場が見えた。

「ここにいる人たちは全員ソルティアなの?」

わたしはアキラについていきながら聞いた。

「全員ではないよ。基本的に女性はチナのように怪我人を看護するリットだな。兵士のように鎧を着てる人達はソルティアの力は無いけどソルティアをサポートしてくれている。そして、瞳に色を持ち身軽な服装でこの世界を守るために奔走するのが俺達ソルティアだ」

わたしたちは外に出た。久しぶりに浴びる太陽の光にわたしは心が落ち着くのを感じた。

広場は石畳の道が前方の大きな門に向かって続いていた。周りを見渡すと芝生の上でソルティアと思われる人達が訓練をしていた。

「夏果ちゃん、後ろを見てごらん」

アキラに言われた通り後ろを見ると目の前には高い石造りの塔が三本建っていた。

真ん中の塔はあとの二つよりも飛びぬけて高く、天に届くのではないかと錯覚するほどだった。

「すごいきれい!」

「この三つの塔は初代のソルティアが建てたと言われているんだ。真ん中の塔はソルティアの住む部屋や太陽を祀る聖堂がある。左の二番目に高い塔がリットの居住塔、右の塔は基本的に倉庫みたいなものかな、俺はあまり入ったことがないからよく分からないけど」

「そっか…」

わたしはゆっくり歩きながら塔を眺めた。するとわたしたちが出てきた一番高い塔の門からユウが走ってこっちに向かってくるのが見えた。

「あれ、ユウまだ訓練に行ってないのか…?」

隣でアキラが不思議そうにつぶやくのが聞こえた。

「アキラ、夏果ちゃん!」

ユウはわたしたちの前でとまると一度深呼吸をして言った。

「ヒカルが目を覚ました」

「え、本当?」

わたしは一瞬耳を疑ったがユウが頷くと喜びがこみあげてきた。

「よかった、本当によかった…!」

「今チナがヒカルの体調を調べてるところだ。会いにいこう」

「うん、行く!」

「アキラはどうする?」

ユウの質問にアキラは少し迷っているようだった。

「俺は…いいよ」

「え、いいの?」

「夏果ちゃん時間が無いから急ごう」

ユウが急かすのでわたしはアキラを置いて急いでヒカルの部屋に向かった。

「どうしてこんなに急ぐの?」

わたしはユウのあとについて走りながら聞いた。

「ヒカルが目を覚ました時たまたま俺が居合わせたんだ。その時は真っ先にヨウスケ様に伝えなくちゃいけないんだけど、最初に夏果ちゃんに教えることにしたんだ」

「どうして?」

「今じゃないとゆっくりヒカルと話す時間が無いと思ったから」

「そう…、ところでヨウスケ様って?」

「ソルティアの中で一番偉い人」

ユウはそれだけ言うと階段をものすごい速さで上った。

「ヒカルの部屋は分かるよね?俺はこのままヨウスケ様のところに報告に行くから」

「分かった」

わたしは必死に階段を上り、ヒカルの部屋にたどり着いた。ヒカルの部屋に入ろうとすると話し声が聞こえた。

「…傷はもう治って大丈夫そうね」

「そうか」

ヒカルとチナの声だった。

「右腕の傷はあえて治さなかった。他の傷と全然違うし、なんか意味があるんだろうなって思って…」

「…」

「ユウがみんなに知らせに行ったからもう少しで来るんじゃないかな…」

二人の話を聞いている突然扉が開きチナが出てきた。

「夏果ちゃん!びっくりさせないでよ」

「ご、ごめんなさい」

「ヒカルが目を覚ましたの。ほら、入って」

わたしが部屋に入るとヒカルは上半身裸で扉に背を向けベッドに腰掛けていた。わたしはその姿を見て驚いてしまった。

ヒカルの体には無数の傷跡が残っていた。特に印象的だったのが背中の火傷の痕だ。あまりの痛々しさにわたしは目を背けそうになったが、ヒカルの体つきがあまりにも女性的でわたしの頭は混乱してしまった。

ヒカルは女…?

「どうした」

ヒカルがわたしに背を向けながら言った。

「あ、あのヒカルが目を覚ましたって聞いたから」

「そうか、オレはもう大丈夫だから安心しろ」

「う、うん」

「用はそれだけか?」

わたしは何か言おうとしたが言葉が出てこなかった。言わないといけないことがあるのに。ヒカルは何も言わずに服を着た。

「オレはヨウスケ様に話すことがある、用がないならオレは行くぞ」

「その必要はない」

後ろから聞き覚えのない声が聞こえた。わたしが振り返るとそこには背の高い赤い瞳の男が立っていた。

わたしはその人を見ただけでヨウスケ様だと気づいた。その人が放つオーラにわたしは少し怖くなった。

「ユウから知らせがあった。お前のことだからすぐにわたしのところに来てくれるだろうと思ったが、まだ体調は万全ではないだろうからな」

「お心遣い感謝します」

ヒカルはそう言って軽く頭を下げた。

「君が…、言い伝えの人間か」

「は、はい…。多分」

「悪いがヒカルと二人にさせてもらいたい。話すことがあるんだ」

「分かりました」

わたしはその場から逃げるように部屋を出た。するとユウがやってきた。

「夏果ちゃん、ごめん。まさかこんなことになるなんて」

「わたしは大丈夫」

「ヒカルと少しは話せた?」

今がチャンスかもしれない。ユウなら色々教えてくれるかもしれない。

「あまり話せなかったけど、ユウに聞きたいことがあるの」

「え、なに?」

「ヒカルって…、女だったの?」

わたしの質問にユウはきょとんとしたがにっこり微笑んで言った。

「ヒカルは女だよ。男だと思ってた?」

「声は女っぽいと思ってたけど、でも自分のこと”オレ”って言うし顔も振る舞いも男みたいだからつい…」

「そうだね、ヒカルはずっと男の中にいたから自然とそうなっちゃったのかも」

「ねえ、ユウ。ヒカルって一体何者なの?」

ユウの顔が一気に硬直した。目が動揺しているように揺れている。

「わたし、ヒカルのことが知りたいの。わたしずっとヒカルと一緒にいたのに何も知らなくて。何も知らないでいるのが嫌なの。ヒカルは何も言わないし、アキラは教えてくれそうにない。だからユウしかいないなって思って、お願い」

ユウは少し困ったような顔をしたがゆっくり頷いた。

「ここで話すのは良くないから場所を変えよう」


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