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ヒカリ  作者: 悠香
第1章~夏果編~
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第18話

誰かの話声が聞こえる。聞き覚えのある男性の声と知らない女性の声だ。わたしはゆっくり目を開けた。

わたしはふかふかのベッドの中で天井の高い広い部屋にいた。ここはどこだろう。

「夏果ちゃん?」

突然わたしの視界に茶髪で青い瞳を持った男性が入ってきた。

「よかった、目を覚ましたんだね」

頭がぼんやりしていてわたしは今の状況をあまり理解出来ていなかった。

「俺のこと覚えてる?ユウだよ」

「ユウ…?」

言葉を発した途端一気に記憶が蘇ってきた。

「ヒカルは?」

わたしが慌てて起き上がろうとするのをユウが止めた。

「落ち着いて」

「でも、ヒカルが…」

「ヒカルはそこにいるよ」

ユウが指差した方向を見るとヒカルがわたしの隣のベッドで寝ていた。

「ヒカルもちゃんと生きてるよ。まだ目が覚めていないけど」

「そっか…」

初めてヒカルの寝顔を見たような気がした。

「ヒカルは大丈夫なの?」

「ヒカルなら大丈夫よ」

突然見知らぬ女性が部屋に入って来て言った。その人は忙しそうにわたしの側に来て額に手を当てた。

「夏果ちゃんも、もう大丈夫そうね」

「あ、あなたは…?」

「わたしはチナ。ここで治療の看護や病人の世話をしてるの」

チナはそう言うとわたしの左腕に触れた。

「呪いは黒のソルティアのおかげできれいに消えたわ」

そういえば…。わたしは自分の左手が黒くないことに気づいた。

「でも、手首の傷だけはどうしても治せなかったの…。ごめんなさい」

「いえ、これでいいんです」

わたしはリスカの痕をじっと見つめた。まるで自分の弱みをいつでも思い出せるように残っているかのようだった。これは自分への戒めだ。

「じゃあわたしは他の怪我人の様子も見に行かなくちゃいけないから行くわね。ユウ、もし何かあったらまた呼んでくれる?」

「分かった」

チナはゆっくり頷くと部屋を出ていった。

「夏果ちゃんよく頑張ったね」

ユウはそう言うとにっこりと笑った。

「ユウ、わたし何だかよく分からなくて。ここがどこなのかとか、あれからどうなったのかとか…」

「ここはラディウス。俺とアキラで二人を連れてきたんだ」

ユウがゆっくり話し始めた。

「俺達は夏果ちゃんたちと別れた後、急いでラディウスに戻って報告した。それで何とか説得をして俺達以外にも黒のソルティアやチナを連れて二人を探しに出た。しばらく見つけられなかったから焦ったよ。俺の考えではそろそろ湖の町にいてもおかしくないと思っていたから。でもどうやら入れ違いになっていたらしい。町の人達の話を聞いて俺達は二人の後を追った。そうしたら大けがを負っているヒカルと夏果ちゃんを発見したんだ。夏果ちゃんは意識が無くて、ヒカルはまだ辛うじて意識があった。だから少しヒカルから話を聞いて、夏果ちゃんの呪いを解いた。そして、二人をここまで連れてきた。治療は完璧だったんだけど、二人ともなかなか目を覚まさないから心配してたんだ。今日でここに連れてきてから五日目になるかな」

「そうだったんだ…」

わたしは横目でヒカルを見た。五日経ってもまだ目を覚まさないなんて…。わたしは心配になった。

「わたしはヒカルに助けられてばっかりだった。だから、ヒカルを苦しめてたかもしれない…」

「それならここまで助けてくれたヒカルに感謝しなくちゃね」

確かに…。わたしは助けてもらったというのに一度もお礼を言ったことがなかった。

「うん。ヒカルが目を覚ましたらちゃんとお礼を言う」

ユウがわたしの言葉を聞いて嬉しそうに頷いた。

「夏果ちゃん!」

突然白髪で銀色の瞳を持った男性が入ってきた。この人には以前会ったことがある・

「アキラ!」

「よかった。目を覚ましたって聞いて急いで来たんだよ」

アキラはユウの隣に座った。

「大変だったみたいだね。何があったんだ?」

「えっと…」

色々なことが頭をよぎった。そしてあの女性の笑い声が頭の中で響いてわたしは少し怖くなった。

「アキラ、まだ目を覚ましたばかりだからそっとしておこう」

ユウがそんなわたしを気遣って言った。

「そ、そうだな、ごめん」

アキラはそう言ってまた立ち上がった。

「悪い、俺行かないと」

「どこ行くんだよ?」

「訓練の手伝いを頼まれてたこと忘れてたから準備をしないと。じゃあまた会いにくるよ」

ユウが何かを言う前にアキラは走って出ていってしまった。

「…何だか、変なかんじ」

「どうしたの?」

「わたしね、前の世界にいたときはずっと一人だったの。友達もいなくて、いつも孤独だった。だからこんな風にわたしのことを心配してくれる人がいることが不思議な感じがして」

「そうだったんだ。どうして一人だったの?」

「わたしはおかしい人間だから」

「へー、夏果ちゃんをそんな風に思ったことは一度もないけどな」

わたしはそっと手首の傷を見つめた。胸がいっぱいになった気分だった。

「…その手首の傷、自分でやったんでしょ?」

「え?」

どうしてわたしがリスカをしていることをユウが知っているのだろう。

「最初会った時無かった右手首の傷を見たら分かるよ。ヒカルが夏果ちゃんを傷つけるとは思えないし」

「うーん、なんて説明すればいいのかな…」

「話したくないのならいいよ。ただ、すごく痛そうだなって思っただけだから」

その言葉を聞いた瞬間わたしはとある女子高生のことを思い出した。

「夏果ちゃん、どうしたの?」

ぼんやりしているわたしにユウが心配そうに声をかけた。

「いや、あのね、この世界に来る前に実希っていう人と話したの。実希ちゃんは突然現れて…。わたしの存在が自分の生きる意味になるって言ってた。よく分からなかったし初対面でそんなこと話してきたからびっくりして。でも実希ちゃんもわたしの腕の傷を見て痛そうって言ってくれた。今思うと実希ちゃんはわたしのこと心配してくれてたんだよね。実希ちゃんもわたしのようにずっと一人でいるみたいだから大丈夫かなって思って」

「そうなんだ」

「でも、向こうはわたしのことなんて忘れちゃってたりしてね」

「その子はちゃんと覚えてるよ、大丈夫」

ユウが真剣な顔で言った。

「夏果ちゃんが覚えていれば向こうも必ず覚えてる。どんなに離れていてもね」

「そうかな…」

ユウはゆっくり頷くと立ち上がった。

「じゃあ俺もそろそろ行くよ。何かあったらすぐに呼んでね」

「うん、ありがとう」

わたしはユウが出ていくのを見届けるとベッドを出た。

「ヒカル…」

一向に目を覚ます気配がないヒカルを見るとわたしは胸が痛んだ。

そういえば、ヒカルと初めて会った時、ヒカルも一人だった。ヒカルもわたしと同じように孤独だったのではないだろうか。でも、わたしはヒカルのことを何も知らない。だから決めつけることは出来ない。わたしは今さらながらヒカルのことをもっと知りたいと思った。わたしはヒカルと数日間共に過ごしてきたのに何も知らない。全く知らないのだ。

ユウならヒカルのことをよく知っているかもしれない。またユウに会ったら聞いてみよう。

わたしはそう心に決めると近くにあった椅子をヒカルのベッドに寄せて座り、ヒカルがすぐに目を覚ましてくれることをただ祈った。



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