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ヒカリ  作者: 悠香
第1章~夏果編~
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第12話

わたしはヒカルの足取りがどんどん悪くなっていることに気づいた。もう目から血は出ていなかったが息切れは相変わらず激しかった。

「ヒカル、やっぱり休もうよ」

わたしは心配になって声をかけた。

「大丈夫だ」

「でも、ヒカル辛くないの?」

「オレは問題ない」

わたしたちはひたすら山を登っている。大きな岩がたくさん転がっていてよじ登るのにわたしは苦労した。辛い、疲れた。この二言がわたしの頭の中を支配していた。

「もう少しでこの山の頂上に着くはずだ」

ヒカルの声が全く頭に入ってこなかった。もうやだ、辛い。

ヒカルは足取りこそ悪いもののしっかりと歩き、岩をよじ登っていた。時々わたしの手を引いて登るのを手伝ってくれた。

岩を登り終えるときれいな景色が目に入った。花や緑の草が一面に広がり、その中心に透き通った湖があった。風が優しくわたしの疲れを癒してくれた。

「ここで今日は休もう」

ヒカルはそう言って湖に向かった。そして顔についた血を洗い流した。わたしも手で水をすくって飲んだ。すると心が少し晴れたような気がした。

空はオレンジ色になり、わたしはもう夕方であることに気づいた。わたしは一日中歩いたのか。

ヒカルはその場で仰向けに倒れた。

「え、ヒカルどうしたの?」

「ここは太陽に最も近い場所だ。だからベーゼも来ない、安心して休める」

ヒカルはそう言って目を閉じた。

「そ、そうなんだ…」

わたしもヒカルに倣って仰向けに倒れてみた。草と土の香りが少し気になったが目を閉じると疲れていたのかすぐにわたしは眠ってしまった。




わたしは何かの気配を感じて目を覚ました。ヒカルがわたしの側で何かやっているようだ。

目を開けると空は暗く、夜になっていた。どうやらわたしは長い時間寝てしまっていたらしい。

体を起こすとヒカルがわたしの隣で右腕に新しい包帯を巻いていた。右腕は相変わらず傷がひどかった。

「傷、治らないの?」

わたしが声をかけるとヒカルは手を止めてわたしをじっと見た。

「起こしたか」

「大丈夫、それより腕は?」

「問題ない」

そう言ってまたヒカルは手を動かし始めた。

「腹は減ってるか」

「大丈夫」

標高が高いところにいるせいか気温がとても低く感じた。わたしは寒さに耐えるためにヒカルのローブを体に巻いた。

「どうして自分で傷を治さないの?ヒカルならそのくらいの傷治せるってユウが言ってた気がするんだけど」

ヒカルはしばらく何も答えなかった。教えてくれないと諦めかけたときヒカルが口を開いた。

「…この痛みがオレを冷静でいさせてくれるからだ」

「どういうこと?」

ヒカルはわたしの問いを無視した。これ以上話すつもりはないようだ。ヒカルは無言でわたしに今日の夕食を渡した。やはりヒカルの分はない。

夕食のパンと干し肉をわたしが食べている間ヒカルはずっと空を眺めていた。満月が強く光を放ちわたしたちを照らしていた。

「そういえばさ、太陽が神なら月は何なの?」

「月は罪を犯した人を処罰して罪人を管理する裁きの光だ」

「罪ってどんな?」

「基本的には他人や自分を傷つける行為を意味している。人殺しはもちろん裏切りや妬みや憎しみといった負の感情もそうだ。そういう人達が死んで太陽の下に行った時、太陽が審判を下し月が処罰すると言われている。そしてその罪人のなれの果てがベーゼだ」

「そうなんだ…。ベーゼって罪を犯した人達だったんだね」

ヒカルはゆっくりうなずいた。

「谷の町で現れたベーゼも元々普通の人間だったものが何らかの負の感情でベーゼになってしまったんだろう」

わたしは谷の町で見た女性を思い出した。「みんなを憎んでいたの…?」と彼女は言っていた。

「何だか大変な世界だよね。少しでも悪い気持ちを持つとあんな姿になっちゃうなんて」

「それが人間の本質だ。一度罪を犯したら一生それは消えない」

「そうだね…」

わたしは左腕にそっと触れた。

「わたしも罪人になっちゃうのかな…」

「お前はならない」

「どうしてそんなにはっきり言えるの?」

「オレはお前を守る使命がある。オレはその使命を必ず果たす」

「そう…」

わたしはまたあの女性の言葉を思い出してしまった。ヒカルは本当にわたしを助けてくれるのか、この旅に意味はあるのか。

左腕がまた痛くなってきた。わたしは深呼吸をした。ふとある考えが頭をよぎったのだ。

わたしはある意味すでに罪人なのではないか。

わたしはリスカをしていた。それは自分を傷つける行為ということなのではないか。だとしたらわたしは裁かれる人間だ。つまりわたしはベーゼになるべき人間なんだ。なら、わたしはこの呪いを受けて当然なのではないか。

そんなわたしの気持ちに応えるように左腕の呪いの傷は痛みを増してきた。

「どうした」

わたしが痛みに耐えているとヒカルがわたしに声をかけた。

「大丈夫、何でもないよ」

「呪いが痛むのか」

「本当に大丈夫だから」

ヒカルは何も言わずにわたしの腕にそっと触れた。

「…呪いが進んでるな」

「わたしはベーゼになっちゃうんでしょ」

「ベーゼになりたくないなら心を強く持て。それが一番いい方法だ」

「どうやって?」

「それはお前が見つけろ」

心を強く持つ方法を自分で見つけろなんて無責任だ。肝心のことはいつも教えてくれない。そんなヒカルのことが嫌になった。

「…分からないよ。そんなの」


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