7 や ら か し た
三人称視点スタート。
「魔術を使う際、一番大切な事って、なんだと思う?」
コドクが、指を立てながらそう言うと、ユーナが、さも当然というように、胸を張って答えた。
「それは勿論、想像力よ。イメージがしっかりしてればしている程、魔術は強固なものとなるわ。」
「まあ、確かに想像力も大切だな。だけど、それ以上に、自分の中にある「力」…要は、魔力かな?それの、操る精度が大切って事、知ってた?」
コドクがそう言うと、ユーナは驚いたように目を開いた。
「ええっ!?そうなの?イメージすれば、その通りに魔力が動いて、魔術が発動するから、想像力が一番大切なんだと思っていたわ。」
「俺も、最初はそうだと思っていたんだけどね。やっぱり、イメージだけじゃ、魔術の細かい動作なんかができないし、ムラができて、無駄な魔力を使ってしまうんだよ。
だから、細かい魔力の操作ができると、無駄が無くなる分、低コストで強力な魔術が使えるって訳だ。
それに、魔力の精密な操作ができると、体の中にある、魔力が通る血管のような脈……俺は、これを霊脈って呼んでいるんだけど、これを整える事ができるんだ。この霊脈がしっかりとしているだけで、魔術もそうだけど、体の調子なんかにもいいしね。」
コドクはそう言うと、ユーナの隣で、真剣に話を聞いているカナンに目を向けた。
首を傾げるカナンに、コドクは「ちょっと失礼」と言うと、契約によってできた繋がりを通して、カナンの霊脈に干渉した。
「ひゃんっ!?」
「ううん……結構、霊脈が荒れているな。カナン、お前何度か無理をしているだろう?」
腰が抜けて倒れそうになるカナンを、コドクは尾羽で支えながら、自分の魔力でカナンの霊脈を整えていく。
全てが終わった時には、カナンは息も絶え絶えになっており、ぐったりとコドクに体を預けていた。
そこで、コドクはある事に気が付いた。
カナンが、妙に色っぽいのだ。
頬は桃色に染まり、肌にはうっすらと汗が浮かんでいる。
ユーナはユーナで、「わ、わ、わ……」と顔を真っ赤にしながら、意味のない言葉を繰り返し呟いていた。
コドクは、冷や汗を掻きながら、首を傾げた。
「もしかして、俺……やらかした?」
「な、ななな何しているのよコドク!?へ、変態!スケベ!ロリコン!」
「いや、ロリコンは関係無くないか?」
目をグルグルと回しながら、混乱して飛び回るユーナに、コドクは溜息を吐いた。
「そういうつもりは無かったんだけどな……他人の魔力だから、こうなったのかね?
おーい、カナン、大丈夫か?」
コドクが、カナンの顔を覗き込みながらそう言うと、カナンは瞼を半分持ち上げ、頬を赤く染めながら、そっぽを向いて言った。
「コドクの、えっち……。」
「……申し訳ございませんでした…。」
コドクは、素直に謝りながら、今度やる時は、ちゃんと許可を取ってからやろうと思ったのであった。
や ら か し た
親切心でやったつもりが、セクハラ行為になっていた件。
いや、本当に知らなかったのだ。まさか、こんな事になるとは……。
霊脈を修復するのに意識を割いていたせいで、カナンが快感に悶えていた事に気が付かなかった。
で、でもまぁ、これで魔術の精度は良くなる筈だ。霊脈は魔力の通り道でもあるから、これがしっかりしていないと、魔力が無駄に漏れるんだよね。
とにかく、何だか妙につやつやになったカナンが持ち直したようなので、授業再開である。
「ええっと、でだな。
大地に属するものを操る際に、二種類の方法があるんだけどね。
一つは、さっき俺がやったように、地面に魔力を流して、土そのものに干渉して操る魔術。
これの良い所は、元々ある物を操るから、魔力の消費が少なくて済むって所だな。
ただ、勿論地面がない所ではできないし、地質によって色々魔術の性質が変わるから、そこに気を付けないといけないけど。
もう一つは、大気中や鉱石なんかに含まれる、魔力を含む特殊な微粒子……俺はこれを魔素って呼んでいるんだけど、これに干渉して一から創り出す魔術。
これの良い所は、自由度が高く、魔素がある所ならどこでも使えるという所だな。
ただし、その分魔力の消費は大きいし、しっかりとしたイメージや、魔力の精密な操作が要求される。」
俺がそう言うと、カナンは頷いた。…俺の背に乗った状態で。
俺の毛並みの感触を楽しんでいるのか、撫でたり、抱きついてみたり、握ったりと、そんな感触が背から伝わってくる。ユーナも、ちゃっかり俺の頭に止まって休んでいるし。
まあ、俺が悪いんだけどね、うん…。
すると、カナンが首を傾げた。
「こう?」
俺の足元あたりに、魔素が集まって大きい岩が形成されていく。
おお、カナン、難しい方の魔術を使ったぞ。
「そうそう、それが、俺が言った二つ目の魔術イタッ!?」
空中で形成された岩が、重力に従い落下した。俺の足の指の上に。
しかも、その岩は下が尖っているという仕様。あれだ、足の小指に重いものを落としたような痛さ。地味に痛い。
抗議の意味も込めて、後ろの背に首を回して見ると、そこには、綺麗な満面の笑みを浮かべるカナンの姿が。
霊脈を整えたせいなのか、肌もつやつやしていて、余計に綺麗に見え、嬉しいというのが目に見えて良く分かる。ちくしょう。
ユーナは俺の頭の上で大笑いしているし、まったく、なんて奴らだ。
……まあ、二人共笑っているし、前に比べて空気が明るくなったから、これでいいか。
俺は、苦笑をこぼしながら肩をがっくりと落とし、深い溜息を吐いた。
来週も、2話連続投稿予定。