6 規格外な精霊
2話連続投稿です。
コドク視点スタート。
何だか悲しい雰囲気になったから、慰めようとしたら「似合わない」と笑われた。
むう、俺だって、これでも必死に考えたというのに。酷い奴らである。
……まあ、その分、俺達の間にあった緊張感のようなものが無くなったから、それでいいとするか。
そもそも、人を慰めた経験の無い俺が、誰かを慰めようとする事自体、無理な話だったのだ。ここは仕方ないと諦めよう。
俺がカナンの影の中に戻り、溜息を吐いていると、不意に、カナンが笑顔で俺に話しかけてきた。
「さっき、羽、ふわふわだった。抜いて、布団にしていい?」
『急に恐ろしい事を、笑顔でさらっと言うな、お前。いや、抜いたとしてもすぐに生えてくるけどさ。
で、何枚必要なんだ?』
「……とりあえず、10枚?」
俺達がそんなやり取りをしていると、ユーナが影の中にいる俺を、半眼になって見ながら、溜息を吐いた。
「……恐ろしいとか言っておきながら、結局あげるのね。痛くないの?」
『羽を抜くくらい、俺にとっては痛いの範疇には入らないよ。それに、できる事はしてやるって言った手前もあるしな。
まあ、さすがに、腕を切り飛ばされれば痛いけど。』
「当たり前よ、それは痛いに決まっているわ!」
ユーナが、呆れたように叫ぶが、俺にとっては、腹を抉られたり、腕に穴を空けられたりする事くらい日常茶飯事だったから、「羽根が欲しい」というかわいいお願いで羽を抜くなんて事、別に平気なのだ。
それにしても、カナンの口数が増えてくれたのは嬉しい。
なんでも、さっきまでは俺が怖くて、口数が少なくなっていたみたいなのだが、あの俺の不器用な慰めで、恐怖がどこかに行ってしまったらしい。おかげで、遠慮も無くなったが。
偽りの無い笑顔を向けられるのが、こんなに嬉しい気分になるとは、俺も知らなかった。
怠さと疲れで、自分を偽る気力すら湧かなかったのだが、それが良かったのだろうか?
どちらにせよ、前世のように、仮面を被るのはもうやめよう。面倒だし、疲れるし、何よりもう必要ないしな。
俺が、ユーナの言葉に苦笑していると、カナンが首を傾げながら言った。
「…翼は、いらないよ?」
「いくらコドクでも、自分の腕を切り飛ばしたりなんて、さすがにしないわよ!
……しないわよね?」
『しないよ。』
ユーナが心配そうに聞いてきたが、さすがにそれはしない。
俺が普通ではない事は自覚しているが、そこまで異常では無いと思うんだ。だから、何故聞いたのかな、ユーナ?そこまで俺って、普通では無いのか?
……うん、よくよく考えれば、腕に穴を空けられるのが日常茶飯事って時点で、普通では無いな。十分異常だった。
まあ、仕方がない。これは、あの殺し合いの日々のせいだ。だから、あれを仕組んだ奴を見つけたら、腹いせに殺すとしよう。うん。だって、俺がこうなったのもそいつのせいだしね、仕方がないよね。
と、そんな話をしている間に、魔物の気配が近寄ってきた。
「カナン、気を付けて。魔物の気配がするわ。」
「分かった、ユーナ。」
うむ、ちゃんと二人も分かっているようだ。にしても、この気配の持ち主の魔物、弱っ!
え、本当に何これ?「力」の質も量も無いし、何より遅いんだけど。
そんな事を考えていると、ユーナが俺に問いかけた。
「ねえ、コドク。あなたは、何の精霊なの?私は、火の精霊だけど……」
うん?なんだそれは。
あれか、小説なんかでよくある、魔法の属性みたいな?
『う~ん、どうだろう?
今、俺が魔術で操れるのは、大地や大気に属するものや、あとは闇に関するものって所か。』
「ええっ!?そ、それじゃあ、土に風、それに闇、あと、木?どれだけの種類の属性を操れるのよ?
普通の精霊だったら、一種類、良くて二種類よ!?
薄々察してはいたけど、コドクって本当に規格外ね……。」
疲れたように溜息を吐くユーナ。
俺が規格外なのは、あの蠱毒での殺し合いの日々のせいだからいいとして、なんでユーナがそんな事を聞いてきたのかが分からない。
『なあ、なんでそんな事を聞いてきたんだ?俺の使える魔術が、何か関係あるのか?』
「あるわよ。精霊と契約した人間は、精霊が使える魔術を使えるようになるのよ。
逆に、精霊と契約していない人間は、魔術を使う事ができないわ。できて、魔力を操って、身体能力を強化する程度ね。」
ほう。なら、カナンは俺の使う魔術を扱う事ができるようになっている訳だ。
『なら、俺がどんな魔術を扱えるか、見ておいた方がいいか。
どうする、カナン?』
「……ん。見る。」
カナンがそう言うと、丁度魔物がやって来たようだ。
影から顔を出して見てみると、その魔物は、狼のような魔物だった。目が一つしか無いのが狼と違う所だが、まあ同じようなものだ。
「闇…は、扱いづらいだろうから、まず土からいってみようか。」
俺はそう言うと、大地に少量の「力」を流し、土を固めて檻を作ってから、それを魔物の周りに飛び出すようにして地面から作り出した。
魔物の周りに、土でできた檻ができる。
魔物が吠えながら、檻に体当たりするが、土でできているとはいえ、俺の作った魔術を破るなど、そう簡単にはできない。
「さて、教材もできた事だしね。授業を始めようか。」
俺は影から体を出し、呆然として見ているユーナと、目をキラキラさせて見ているカナンを見ながら、そう言った。