4 契約と名付け
2話連続投稿です。
三人称視点スタート。
その精霊が、目に苦笑を浮かべながら頷くと、ユーナはほっと息を吐いた。
「その、ね。私、精霊の中でも、力が弱い、下位の精霊なの。
それでね、カナンの家では、強い精霊と契約するのが絶対の決まりみたいなのよ。」
その言葉で、だいたいの事情を察したのであろう。その精霊の目に、どこか納得したような色が浮かんだ。
ユーナは、不意に俯くと、顔を歪め、悔しげに言った。
「……カナンはね、本当に優しい子なの。
人間界に落とされて、力が無くて消えかけていた私を、契約する事で助けてくれたのよ。
なのに、なのに……!」
ユーナの目から、涙が零れ落ちた。
「私の、力が弱いせいで、カナンがっ」
涙をボロボロ零しながら言うユーナに、その精霊は、慌てたように声をかけた。
「分かった、分かったから、泣くな。これじゃあ、俺がお前を泣かせているみたいじゃないか。
契約に関しては、そっちのカナンって子がいいのならば、俺は問題ないよ。好きにしなさい。」
困ったように、その精霊がそう言うと、ユーナは顔を輝かせた。
「本当!?ありがとうっ!」
無邪気に喜ぶユーナを見て、その精霊はぼそりと呟いた。
「お前達、本当にいい奴らだなぁ。」
その精霊の言葉に、ユーナが首を傾げた。
「え、なんで?カナンの事なら分かるけど、私、あなたを騙そうとしたのよ?」
「まあ、確かにそうだけどね。だけど、それは友達を助けたい一心でやった事だろう?
それに、本当だったら、お前だって友達を助けるのに、自分の力でやりたかった筈だ。それを曲げてでも、俺に頼むんだから、お前もいい奴だよ。
ああ、そうそう。契約するにあたって、その子の意思もそうだけど、もう一つ、条件を付けさせてくれ。
俺は、お前も知っての通り、この世界の事をほとんど知らない。だから、契約するのなら、俺にこの世界に関する情報を教えて欲しいんだよ。」
「そ、そう。そのくらいだったら、なんの問題も無いから、いいわよ。」
ユーナは照れたようにそっぽを向くと、いそいそとカナンの方へと飛んでいった。
二人が話し合うのを見ながら、俺はある物思いにふけっていた。
さっきから、ちょいちょい悪役扱いされるのは、何故なのだろうか。
俺の見た目の問題か?ある程度予想できるとはいえ、自分で見た事すら無いけど。
鏡や、水面といったものが無かったから、今まで自分の姿というものを見た事がない。……あたり一帯を、海の中のように変える魔物はいたけどね。
と、そこで、俺はある事を思い出した。
「水は出せないけど、金属なら操れるじゃないか、俺!」
急に叫んだ俺に、二人がびっくりしたように見ているが、それどころでは無い。
俺は足から地面に「力」を流し込むと、頭の中で、金属の粒子を集め、金属板を作り出すというイメージを浮かべた。
すると、地面から俺の身長と同じくらいの大きさの金属板が、地面から飛び出した。
これも、あの殺し合いで、できるようになったものである。魔法みたいだから、俺は魔術と呼んでいる。
なんでもできる訳では無いけど、だいたいの事はできるから、結構重宝しているのだ。
そして、そこに映し出された俺の姿は、一言で言うなら、真っ黒な鳥、と言うものだった。
鳥というには、爪や牙があるし、この大きさで、真っ黒な姿だと、なるほど、恐ろしいかもしれない。地球の生き物で当てはめるのなら、始祖鳥が最も近いだろう。…もういないけどね。
それに、この体、全身凶器なんだよな。
長い尾羽は「力」を込めると白く変色して、硬いものでも、柔らかいバターを切るかの如くに斬ってしまうし、羽も同じく「力」を込めると、白く変色したうえで長くなり、飛ばす事ができるのだ。
…まあ、これくらいできるようにならないと、生き残る事ができなかったのだ。
俺が、そんな風に一人で納得、もとい現実逃避をしていると、ユーナが慄きながら俺に声をかけた。
「あ、あなた、本当に何者よ?そんな高精度の魔術なんて、見た事がないわよ!?」
「え?いや、このくらいできないと、生き残れなかったからさ。自然と身についたものなんだけど。
っていうか、これ、本当に魔術だったのな……。」
なんと、本当に魔術だったらしい。
にしても、この世界で生き残るには、もっと力が無いと生き残れないと思っていたのだが、違うのだろうか?
俺がそんな風に悩んでいると、ユーナとカナンが顔を見合わせ、カナンがきりっとした表情で、俺に手を差し出した。
握手でもするのか?分からないが、俺も指を差し出した。……爪で傷付けないよう、指を丸めながらだが。
俺の指と、カナンの小さな手が触れると、カナンから「力」が流れてきた。
その「力」と共に、声が聞こえてくる。
「あなたの名は、コドク。」
…。
そこで、言葉が途切れた。
「……えっ、それだけ?」
思わず、俺がそう呟くと、カナンはこくり、と頷いた。
「…うん。」
「……さいですか。」
こうして、俺とカナンの契約は、あっさりと終わった。あと、カナンは非常に無口であった。
なお、なぜコドクという名前なのかというと、ユーナから、俺は蠱毒によって生まれたという事を聞いたから、らしい。
だから、コドク。……無口なので、ここまで聞き出すのにかなり苦労した。
物凄く不吉で、安直な名前である。漢字を変換すれば、孤独とも取れる。
……俺、こんなので、この先大丈夫なのだろうか……?
何となく、いや、とても不安になった俺であった。
やっと決まった主人公の名前。
……ネーミングセンスについては……目をつむってください(笑)。