表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/141

16 化け物の業

3話目。

コドク視点スタート。

 あんな騒ぎがあったせいだろうか。人が集まってきた。

 すると、集まってきた人ごみの中から、こんな言葉が聞こえてきた。


「おい、あれ……カナンの奴、まだ弱い精霊と契約しているぜ。」

「うわ、本当だよ。あんなの、さっさと捨ててしまえばいいのに。」


 頭の中で、ぶちん!と何かが切れる音がした。

 ほうほう、言葉に気を付けろ、と言った傍からこれですか?

 冷静な部分の俺が、どうやらカナンだけでなく、ユーナの悪口も、俺は許せないらしい、と言っていた。

 だが、俺は二度も失敗しない男……男?いや、精霊か?まぁ、そういう奴である。今度は……


「ぎぃやぁぁああ!!」

「うぎゃぁ!?う、腕がぁぁああ!!」


 …………。

 うん。無理な話だったね!気が付いたら、魔術の真空刃でそいつらの腕を切り飛ばしていた。

 いや、だって仕方がないと思うんだ。こういう感情って、制御するのが難しいんだよ。

 ええっと。前世では、この感情をどうやって抑えていたんだっけな?

 ああ、駄目だ。思い出せない。

 なら、いいか。別に、殺さなければいいだけだし。


 殺す事、傷付ける事が日常化していたから、俺は、命を奪う事に、一切の躊躇いや、迷いを感じなくなってしまった。

 そんなものだから、見知らぬ相手の腕を切り飛ばすくらい、俺はなんとも思わない。

 でも、そうだな。カナンが悪く言われるのも不愉快だが、ユーナが弱いように言われるのも、なんか嫌だ。

 こう、まるで自分の事のように悔しいのは、何故なんだろうね?

 前世では、例え妹と比較されても、悔しいだなんて思った事、一度も無かったのにな。

 俺がそんな事を考えていると、カナンが満面の笑みを俺に向けた。


「コドク、よくやった。」


 清々しい程の、満面の笑みである。どうやら、カナンも頭にきていたらしい。

 俺が無言で頷くと、ユーナが戸惑ったような目を向けてきた。


「え、ええと。その、私の事でも、怒ってくれているのかしら…?」

「勿論。そりゃあ、当たり前だろう。」


 俺が即答すると、ユーナは俺から目を逸らした。


「その……ありがとう。私の為に怒ってくれて。

 ちょ、ちょっとよ?ちょっとだけ、嬉しいわ。」


 ちらちらとこちらを見ながら、照れたように言うユーナ。

 お、おお。ユーナがデレた。

 あれか、これが巷でいう、ツンデレという奴か。なるほど、確かにかわいいな。

 俺がそんな事を思っていると、ユーナは、キッと俺を睨んだ。


「ちょ、調子に乗らないでよね!嬉しいって言っても、ちょっとだけなんだから!」


 あ、ツンツンした。恥ずかしいのか、そっぽを向いている。

 ああ、かわいい。だけど。だからこそ……彼女を愛でることのできない自分の体が、悔やまれる。




 二人の人間が腕を切り飛ばされて泣き喚いているというのに、ほのぼのとした雰囲気を漂わせているカナン達。

 そんな異様な状況の中、ふと思い付いたように、カナンが門を見ながら呟いた。


「……むう。コドク、大きすぎ。」

「いや、仕方がないだろう。強くなっていく内に、自然と大きくなっていってしまったんだから。」


 カナンの呟きに、苦笑交じりに返すコドク。

 すると、カナンは、コドクに不満気な表情を向けた。


「もっと、小さくなって。」


 我儘であった。しかも、無理難題の類である。

 そんな、カナンの我儘に、コドクは困ったように笑った。


「おいおい、無理言うなよ。……まぁ、やってみるけどさ。」

「あ、やっぱり。無理と言っておきながら、結局やるのね……。」


 ユーナが呆れる中、コドクは目を閉じると、自分の内側へと、意識を集中させた。

 コドクは自分の魔力を操り、核となっている魔石に干渉し始めた。

 魔石の中に含まれる魔素の構成を組み換え、魔力を圧縮し、魔石の中にある身体の情報を変えぬまま、魔石を小さくしていく。


 コドクの額から、汗が滴り落ちた。

 普通の魔物であったら、魔石を食らった時点で、魔石の中にある身体の情報ごと自分の魔石と融合し、肉体を進化させる。

 それを、コドクは魔力の周波数や強さ、質や密度を、恐ろしく正確に、そして精密に操る事により、身体を自在に変えているのだ。

 しかし、いくら魔力の扱いに長けているコドクといえど、その難しさといったら、とんでもないものである。それを、カナンの我儘に付き合ってやっているのだから、本当に呆れた奴であった。


 コドクは、体の大きさと魔石の大きさが、だいたい比例している事を、経験から知っていた。そもそも、小さい身体に大きな魔石は入らないのだ。

 だが、ただ魔石を圧縮するだけならまだしも、魔石の中にある身体の情報をそのままにしながら圧縮する事は、簡単な事ではない。

 魔力を込めると硬化するなど、コドクの身体は様々な特性があり、それでいて複雑である。

 だからこそ、これを下手にいじってしまうと、身体が崩壊する危険性をはらんでいるのだ。


 コドクは魔石を圧縮し終えると、次は、魔石の中にある身体の情報の、身体の大きさを弄り始めた。


「ぐ、ぐぅぅ。」


 バキッ!ボキバキッ!という、嫌な音が、コドクの体から鳴り出し、コドクが苦しげな声をあげた。

 身体に仕組んでいる様々なギミックを調整し、体の大きさを小さくしていくコドク。

 みるみるうちにコドクの体が小さくなっていき、丁度、大人より少し大きいくらいに落ち着いた。

 コドクは脂汗を浮かべながら、疲れたように弱々しく息を吐いた。


「ふう、終わった。いやぁ、やってみれば、意外とできるものだな。」


 例え、どんなに魔力の扱いに長けた者でもできないような事を、なんでもない事のように言うコドク。

 それは、まさに……化け物にしかできぬ、異常で、恐ろしい程の神業であった。

自分の身体を、まるで物のように扱い、改造するのって、どんな気持ちなのでしょうか。

コドクはきっと、なんとも思っていないのでしょうね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ