表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/141

14 懲りない奴

本日は3話連続投稿。1話目。

三人称視点スタート。

 一方、カナンは、コドクのその様子を見て、半身を失ってしまったような、悲しい恐怖を感じていた。

 夢の中のコドクは、あやふやで、今にも死にそうだったのだ。

 もし、コドクが死んでしまったら。それを考えるだけで、カナンは身を切り裂かれるような痛みと、ぞっとするような恐怖を感じた。

 このとき、カナンも、コドクがカナン達に抱いた感情を、コドクに抱いていた。

 わがままを聞き入れてくれ、不器用ながらも、自分達を必死慰めようとしてくれた、兄のようなコドク。

 カナンは、自分でも気付かず、コドクに手を伸ばしていた。


「い、嫌。いかないで……!」


 伸ばした手は、するりとコドクをすり抜ける。

 どんどん、コドクの姿が遠ざかっていく。

 周りが暗くなっていき、カナンは闇に取り残された。


「待って、待ってよ!

 置いていかないで、お兄ちゃん……!」


 その時だった。

 カナンの頭を、柔らかい何かが撫でていった。

 カナンは、それが何かを知っていた。

 カナンの脳裏に、慰めようと不器用に撫でる、コドクの姿が浮かび上がった。


「コドクの、羽根……。」


 カナンがそう呟くと、闇に声が響いた。


『お、おお、大丈夫だ、大丈夫だから。何が悲しいのか、それとも怖いのかは分からんが、俺はここにいるぞ。

 だ、だから大丈夫だ。もう何が大丈夫なのか、俺自身分からんが、多分大丈夫だ。だから泣かないでくれ。』


 カナンの胸中を支配していた恐怖が、コドクのその一言で吹き飛んだ。

 いかにも、あわあわと慌てて混乱しながら言っているのが、その声からありありと分かってしまうのが、コドクらしかった。

 カナンの頭上から、光が差し込んでくる。カナンは、ためらいも、迷う事もせず、その光へと飛び込んでいった。





 カナンは、泣きじゃくるユーナを優しく抱きしめながら、ふと思った。

 コドクは何故、過去にあんな経験をしながらも、自分達に優しくする事ができるのだろう。何故、周りの人間が憎くないのだろう?

 カナンは、その思いを振りきれず、迷ったあげく、コドクに聞いてみた。


「ねえ、コドク。」

「ん?なんだ?」


 天に昇る朝日を、眩しそうに見つめながら、のんびりと返すコドク。


「あなたは……周りの人が、憎くないの?」


 カナンのその問いに、コドクは苦笑した。


「……どうなんだろうね。昔、幼い頃は、殺したい程、全てを憎んでいた筈だったんだけど。

 いつからか、そういった感情が、俺の中から消えてしまっていたんだ。多分、俺は壊れたんだろうね。生きる為には、その感情は邪魔でしかなかったから。」


 そう言いながら、コドクは振り返って、カナンを見つめた。その目には、怒りも憎しみも無かった。


「昔の、死んだような前世の俺と、今の精霊の俺の性格が違うから、不思議に思ったのか?」

「……うん。」


 カナンが素直に頷くと、コドクは、カナンから目線を外し、空を仰ぎ見た。


「そうだねぇ。きっと、あの殺し合いの日々が、俺の中に巣食っていた諦念や固定観念を、壊してしまったんだろうね。それどころじゃないという、生死を分けるやり取りでは、余計な事なんて考えていられないから。

 皮肉だけどもね、俺はこの姿になってからの方が、ある意味ちゃんと生きていたよ。楽しかった訳でも無いし、すぐ隣に、死が迫っていたというのにね。もしかしたら、こっちの俺の方が、素の自分なのかもしれないな。

 そしてな、俺は幸せにもなれた。―――お前達に、会った事でね。」


 再び、金色の瞳が、カナンに向けられた。その目には、あの夢で見たコドクのような、濁ったものでは無く、ちゃんと生きていると分かる、澄んだ瞳であった。

 そして、その目が、戸惑ったように、不意に逸れた。


「だ、だからさ。俺は、別に怒ってもいないし、お前達に理不尽を押し付けられたとも思っていないんだ。

 な?ユーナ、お前は別に悪くないんだよ。だから泣かないでくれ。」


 若干挙動不審になりながら、ユーナに必死に声をかけるコドク。

 結局、慰めるのが下手なコドクに、カナンは思わずクスクスと笑ってしまった。

 そんなコドクに、ユーナも毒気を抜かれたのか、溜息を吐くと、カナンの腕の中から飛び立った。

 そして、何かを言おうとして……首を傾げた。


「あれ?なんだか、体が軽いわね。何故かしら?」


 その言葉を聞いたコドクが、傍目にも分かるくらいに、ビクッと体を震わした。コドクの背に乗っていたカナンは、そのコドクの反応が余計に良く分かった。

 コドクが、目を泳がせながら言った。


「さ、さぁ?気のせいじゃないですかね?」


 コドクは、慰めるのも下手だが、隠し事をするのも下手であった。

 無論、分かりやすいそのコドクの反応を、見逃すユーナでは無い。

 ユーナは目を細め、コドクを訝しげに見つめた。


「ねぇ、コドク?あなた、私に何か隠し事をしていないかしら?」

「な、ななななんの事ですか?俺、何も隠していないですよ?」


 コドクの、焦りまくった様子のその言葉を聞いて、カナンは思った。


(コドクって、嘘を吐く時、丁寧語になるんだ。ふ~ん…。)


 そういえば、夢の中で見たコドクが喋っていた口調も、丁寧語であった事を思い出すカナン。

 すると、何をされたのかが分かったユーナが、目を見開いて叫んだ。


「ああ!!もしかして、あなた、私が寝ている間に、私の霊脈を調整したでしょう!?」


 ユーナのその言葉に、ぎくりとコドクが反応した。

 ユーナの、元々赤い体が、羞恥と怒りで真っ赤に染まる。

 コドクは、大慌てで言い訳を並べ始めた。


「い、いやさ、やっぱり心配だったんだよ。それに、安眠にも繋がるかな~って。だ、だから……

 ……ご、ごめんなさい。」


 大きな体を縮こませるコドク。

 そんな、物理的にもちょっと小さくなったコドクに、ユーナは震えながら呟いた。


「……ばか。」

「う、うん?」

「やるなら、せめて……私が起きている時にしなさいよ。

 あなたが、良心でやってくれている事くらい、私にも分かっているんだからっ!」


 恥ずかしそうに顔を真っ赤にし、目を逸らしながら、そう呟くユーナ。

 すると、コドクが首を伸ばしながら言った。


「じゃあ、今、調整しようか?」


 ただ心配しているだけで、コドク自身に悪気はないのだろうが……まったく懲りていないコドクであった。

 ユーナは、顔を伏せ、怒りに身を震わせた。


「こんの…!ちょっと優しくされたくらいで、調子に乗るな、この変態ロリコンコドクーーー!!!」


 本日最大の魔術の火炎放射(コドクが霊脈を調整した為、威力が増している)が、コドクの顔面に炸裂した瞬間であった。

因果応報とはこの事ですね(笑)

人の嫌がる事は、やめましょう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ