13 孤独の夢
三人称視点スタート。
カナンとユーナが見た夢は、コドクの前世の記憶であった。
それは、ちょうどコドクが、こっそりと霊脈を調整する為に二人に魔力を繋げており、尚且つコドクが自身の過去を振り返っていた為に、コドクの魂と同調して起きた現象だった。
コドクの、前世の頃の記憶。それは、二人にとって身近なものであり、それでいてとても悲しくなるものであった。
カナンは、家族に見捨てられた。
ユーナは、自分の力不足が故に、不幸になった。
そして、コドクは、その両方とも、二人に比べてもっと惨たらしい形で経験していたのだ。
それは、とある人間の記憶。
カナンとユーナは、ちょうどその人物を、上から見下ろす形で浮かんで見ていた。
その人物の顔は、不思議とピントが合わないみたいに、ぼやけている。それなのに、二人には、その人物がコドクなのだとはっきりと分かった。
最初の夢は、その人物が、皆から嘲笑されている場面であった。
様々な言葉で、その人物を貶している。
一番多かったのが、「妹と比べて、何もできない」という言葉。
その人物は、いつも妹と比べられていた。
その妹は、理不尽なくらいになんでもできた。勉強も、スポーツも、何もかも。
運も良く、彼女が成す事全てが成功していた。
それに比べ、その人物は、何もできなかった。
やること成す事全てが、まるで仕組まれたみたいに失敗し、おかしいくらいに運が悪い。
何もできないのでは無い、そう、何もさせてもらえない……そう思ってしまうほど、何もできなかった。
唯一の長所が、悪運が強い事であろうか。
例え、降りかかるどんな事故や事件でも、まるで分かっているかのようにひらりと躱すのだ。
いや、その人物は分かっていた。
この世の「悪」という「悪」が、その人物には、分かっていたのだ。
その人物は、様々な感覚が、普通の人より劣っていた。視力も、聴力も、味覚も、そして痛覚ですら、その人物は劣っていた。
その代わりといったように、その人物には、ありとあらゆる「悪」を感じ取る才能があったのだ。
だが、それは、その人物にとって、拷問でしかなかった。
その人物は、自分のいる世界が、自分に「悪意」を向けているのが、分かってしまった。世界が自分を嫌っているのが、ありありと分かってしまったのだ。
運が悪いのも、毎日のように事件や事故が降りかかってくるのも、両親から無視されるのも、ありとあらゆる人から悪意と敵意を向けられるのも、その人物が世界に嫌われているから。
自分の未来に、希望なんてものが無い事が、その人物には、痛い程理解できてしまったのだ。
だから、その人物は、何を言われても、何も言い返さないのだ。言った所で、何も変わらない事が分かっていたから。
全てを諦め、感情を押し込み、自分を殺す。
それしか、できなかったのだ……。
世界に嫌われたが故に、両親からもいない者扱いされ。
世界に抗う術も、力も無いが故に、不幸となった。
それが、コドクの前世であったのだ……。
その人物に、ユーナは思わず叫んでいた。
「なんで、なんでよ!?なんで、何も言い返さないのよ!!
なんで、誰もコドクの事を見ないの!?理不尽よ!!」
しかし、その言葉は、その人物には届かない。当たり前だ、これはただの記憶なのだから。
その人物の目は、死んだ魚のように、暗く、おぞましいほどに濁っていた。普通に生きている人間が、していい目では無かった。
そんな、その人物に、その人物の妹が笑顔で話しかけている。
カナンは、その妹に、頭の中が沸騰したと錯覚するくらいの怒りを覚えた。
この妹は、コドクの気持ちも知らず……いや、知ろうともせずに、笑顔で話しかけているのだ。
どれだけ、屈辱的だった事だろう。自分ができない事を、まるで奪っていくかのごとく目の前で簡単にやってのける人物が、人の気も知らず、笑顔で慰めを口にするのだ。
「なんなのよ、これ……」
怒りに震えるユーナの声。
その怒りは、何も言わないコドクにも向けられた。
「あなたも、何か言い返しなさいよ。なんで、あなたは平気なのよ。あなたは、悔しくないの…?
理不尽じゃない。あなただけ全部奪われて、不幸になるだなんて、そんなの無いわよ。
私だったら、」
そこまで言って、ユーナは気付いた。
ユーナには、カナンがいた。強くなる方法も、コドクが教えてくれた。
では、コドクには、何があっただろう。
家族?あの、コドクを無い者として扱う奴らが?
友人?一人としていない。そもそも、コドクの事を、誰も見ようとすらしていない。
味方?むしろ全部が敵だ。
「あ、ああ…!」
ユーナは、呻いた。
「何が、何が私だったらよ……!
コドクは、私と違って、最初から独りじゃない……!」
ユーナの目から、涙がこぼれ落ちた。
コドクに今までとっていた態度が、向けた嫉妬の感情が、それこそ、理不尽なものである事に、ユーナは気が付いたのだ。
コドクは、ユーナに優しくして接してくれた。それどころか、自分も、友人のカナンも助けてくれている。
そんなコドクに、ユーナは、図々しく知識を要求し、自分の望みを押し付けたのだ。それも、何も知らずに勝手に嫉妬し、それが当然とばかりに、ユーナはコドクに『理不尽』を押し付けたのだ。
ユーナは、震えながら呟いた。
「これじゃ……私も、あの人間達と、同じじゃない……。」
ユーナは、それでも、この気持ちが湧き上がってくるのを、抑える事ができなかった。
「なんで、なんで言ってくれないのよ。なんで私を責めないのよ。なんで許しちゃうのよ。私、コドクに優しくされる権利なんて、無いのに。
ばか、ばかばかばか、変態、ロリコン…!」
ユーナは、胸から吹き上げる感情に喘ぎながら、上を向いた。ユーナの閉じた目から、涙が飛び散った。
「コドクの、ばかぁ…!」
本当は謝りたいのに、素直な言葉が出てこないユーナ。
次こそ。次こそコドクに、ちゃんと謝ろう。声を上げて泣きながら、そう思ったユーナであった。
世界に好かれれば、何をやっても上手くいくというなら、世界に嫌われてしまった人は、いったいどうなってしまうのだろうか?
そう考えた時に、「コドク」というキャラクターが、私の中で生まれました。
誰にだって、幸せになる権利はあると思うのです……。




