126 愛しい我が子達へ
月夜の間に、コドクに呼び出されたカナンやユーナなどの一家と、牛鬼やプルプル達が集められた。
コドクの後ろで、物凄い真剣な表情で私物(全部コドクに関する物)を交換する、美輝と星花とシズクに、皆が呆れた目を向ける中、コドクは集まった皆に声をかけた。
「うん、皆集まったな。
まず、一言。心配かけてごめんね。でも、この通り、もう大丈夫だから、心配しなくてもいいよ。」
コドクの言葉に、カナンは頬を膨らませた。
「また、無茶した。」
「いや、本当にすまない。
……いけると思ったんだけどなぁ……」
「むう、反省してない。」
そう言って、コドクをバシバシと叩きはじめるカナン。
そのカナンの頭の上に、プルプルが、ポヨンと飛び乗った。
「まぁまぁ、カナンちゃん。お父さんならいつもの事だからねー。
今回は怪我もしてないし、許してあげようよー。」
それでも不満そうなカナンに、パラが言った。
「そこまで心配する必要はないだろう。こいつも、これで慣れただろうしな。
許してやれ。」
機嫌が良さそうに、珍しくニコニコと笑いながらコドクの味方をするパラに、コドクが、目を見開いた。
「……え、どうしたんだ、パラ。珍しく機嫌が良さそうだけど。」
戸惑うコドクに、シャウランが困ったように笑った。
「うーん、最近、ずっと機嫌が良さそうなんだよね。
ユアーさんが酷い目にでも合っているのかな?」
シャウランの言葉に、コドクは、「あ。」と言いながら、目を逸らした。
もしかしなくても、理由はそれだろう。コドクとシズクが重なったあの状態のヌレバに、ユアーは散々な目に合っていたのだ。
コドクは、一度咳払いをした。
「えっとだな。それで、なんで皆を集めたか、なんだが。
ユアーが余計なやっつけ仕事をしてくれたせいで、問題が増えました。主に、魔界と精霊界に。」
コドクがそう言うと、ユーナと呼幸、シャウランがパラを見た。
パラの機嫌が一気に悪くなり、パラは舌打ちをした。
「おい、コドク。」
「うん?何?」
「それは、神界が滅んで、そのリソースが魔界と精霊界に分配されたのか。」
パラの言葉に、コドクは目を丸くした。
「よく分かったな。まさに、その通りだ。
あのニートが神界を神もろとも滅ぼしてくれてね。急に増えたリソースのせいで、精霊界はすぐに問題は起きないだろうけど、魔界が崩壊しそうなんだよな。」
溜息を吐きながら、そう言うコドクに、ユーナが髪を掻き毟りながら叫んだ。
「あーもう!分かったわよ!
精霊界の管理は私がやるわ!」
「え、いいのか?ユーナがやってくれるなら、これほど頼もしい事はないけど。
でも、お前、女王は嫌なんだろ?」
気遣わし気にそう言うコドクに、ユーナはコドクを睨みながら言った。
「何を今更、そんな事を言っているのよ。今まで私が女王って呼ばれているのを楽しんでいた癖に。
それにね、パラからこの事を言われから、覚悟はしていたわ。」
そう言いながら、ユーナはそっぽを向いた。
「それに、精霊界にいるあの子らも、今更、見捨てることなんてできないし……。」
頬を染めてそう言うユーナに、呼幸がユーナの後ろから飛びついた。
「おやおやぁ、結奈ちゃん?ツンデレですかぁ?」
「なっ!そんなんじゃないわよ!
これはコドクの為じゃなくて、精霊の為だって言っているの!」
「それ、ツンデレのセリフですよ?」
騒ぎ出す二人に、カナンは少し考える素振りを見せると、ユーナに声をかけた。
「ユーナ。私も手伝う。」
その言葉に、ユーナが、目を見開いて驚きながら言った。
「それは、嬉しいけれど……シャウランはいいの?」
ユーナの言葉に、カナンは優しい笑みを浮かべた。
「うん。シャウランは、もう、大丈夫。
私がいなくても、パラと一緒に、立派にやっていける。」
「カナンお姉ちゃん……」
カナンは、シャウランの隣で腕を組んでいるパラに歩み寄ると、パラの手を取って言った。
「シャウランをよろしくね、パラ。」
「……言われなくても、そのつもりだ。」
そっぽを向きながらそう言うパラに、カナンは微笑むと、ユーナの隣に歩いていった。
プルプルはカナンの頭から飛び降りると、少し寂しそうに震えた。
「お父さん。行っちゃうんだね。」
プルプルの言葉に、牛鬼は、ハッとしたようにコドクに目を向けた。
「父上、もしや、魔界に……?」
疑問の声を上げる牛鬼に、コドクは笑って言った。
「無くちゃ困るだろう?この国は、魔界から資源を調達しているからな。」
「だが……ルナンは、ルナンは。」
「勿論、分身体を付けるさ。
……あのな、牛鬼。何も、一生の別れじゃないんだ。焦る必要なんてない。」
コドクは、伸ばした尾羽で、牛鬼をあやすように、その背を撫でた。
「何かあったら、いつでも呼びなさい。俺は、いつだってお前達を見守っている。」
コドクの温かい言葉に、牛鬼は無言で頷いた。
コドクは、皆を見渡した。今や、大切な家族である、皆を。
コドクは、目を細めた。
「さて、そろそろ俺も、魔界に行こうと思う。
会うつもりなら会えるけど、世界を隔ててしまうから、今までのように気軽には会えなくなるだろう。
でも、忘れないでほしい。これは、永遠の別れなんかじゃないし、何時だって、俺達が家族である事は変わりない。
生まれた場所も、種族も違うし、血の繋がりもないけれど、それでも、俺は、お前達を大切な家族だと思っている。何が変わろうと、それだけは変わらない。
だから、何かあったら、遠慮なく頼ってほしい。皆で助け合ってほしい。無論、俺も何かあったら、皆に頼らせてもらうよ。」
コドクは、翼を広げ、伸ばした尾羽で美輝ら三人を包んで自分の背に乗せると、背後に、魔界へと通じる門を開いた。
「では、しばしの別れだ、愛しい我が子達。
自由に、力強く、羽ばたきなさい。この世界を、生を謳歌しなさい。
俺は、いつでもお前達を見守っているから。」
そう言うと、コドクは、魔界へと消えていった。
こうして、親鳥であった蠱毒の精霊は、魔界を管理する為に、魔界へと渡っていったのであった。




