121 世界の管理者
穏やか過ぎる、不気味なヌレバから逃げてきたパラとシャウランが自宅に帰ると、疲れ切った表情のユーナが机に突っ伏していた。
そのユーナを見たシャウランが、ユーナに声をかけた。
「あ、精霊界から帰ってきたんだね、ユーナお姉ちゃん。」
「ええ……ようやく帰ってこれたわ……」
ユーナは顔を上げると、不満気な表情で愚痴をこぼした。
「まったく、私は女王なんかじゃないって、何回も言っているのに、あの子達ときたら……
それも、神界が滅びるとか、皆そんな事ばっかり言って騒ぎ出すし。勘弁してほしいわ……」
疲れ切ったような声でそう言うユーナに、パラは頷いて言った。
「そうだな。何処かの創造神が神界を放っておいているせいで、神界は近い内に滅びるだろう。」
「……え?それ、本当?」
「ああ。」
パラのその言葉に、ユーナは頬に手を当て、溜息を吐いた。
「そうなのね……どうにかならないのかしら。
あの子達にとって、神様はいなくてはならない存在らしいのだけれど。」
ユーナは、唇を尖らせた。
「そもそも、その神様がいないせいで、私が女王なんてものをやらなくてはいけなくなっているのよ。
まったく、そのニートって奴、迷惑な奴ね!」
「そうだろう。あいつはろくに仕事もできない、どうしようもない馬鹿だからな。
私と同等、もしくは私以上に価値も意味もない奴だ。いつか壊す。いや、今すぐにでも……」
声に憎しみを宿し、ぶつぶつと呟き始めたパラに、ユーナが困ったような顔をシャウランに向けた。
「えっと、仲が悪いのね……?」
「うーん、どうなんだろう?悪くはないけど、良くもない、かな?
因縁はあるみたいだけど、ユアーが一方的にパラを気に入っている、といったところかな。」
苦笑いを浮かべながら、首を傾げてそう言うシャウラン。
と、シャウランの言葉を聞いたユーナが、眉を顰めた。
「ユアー……?それって、あの、創造神と言われている、あの?」
「うん。あの創造神。」
そう言いながら、シャウランは、あのユアーのチャラチャラした態度を思い出して、内心で苦笑した。
あの、荘厳さも神々しさも、なんの欠片も無いユアーを見たら、きっとユーナのツッコミが止まらないだろうな、と、シャウランは思ったのだ。
シャウランがそんな事を思っていると、呼幸が扉を開けて部屋に入ってきた。
「あ、シャウランちゃんにパラちゃん!ただいまです~。」
「うん、おかえりコサチお姉ちゃん。」
呼幸はニコニコと笑いながら、ユーナの隣の席に腰を下ろした。
機嫌が良さそうな呼幸に、シャウランも笑みを浮かべた。
「精霊界はどうだったの?」
シャウランの問いに、呼幸は胸の前で両手を合わせた。
「ええ、とっても綺麗な場所でした~♪
自然豊かで、空気も綺麗ですし、不思議と落ち着ける、いい世界でしたよ。」
そこまで言って、呼幸はニヤリと笑い、目を光らせた。
「そうそう、精霊界でですね、いきなり結奈ちゃんが、「誰が絶壁ですってえぇぇぇ!!??」って叫んだのですよ♪
しかも、理由が「ヌレバに絶壁って言われた気がしたのよ!」という事らしくってですねぇ。
いくら胸にコンプレックスがあるからって、ねぇ?ちょっと自意識過剰っていいますか……」
「ちょ、呼幸っ!?」
顔を赤くして、呼幸に掴み掛るユーナに、呼幸はニヤニヤとした笑みを浮かべた。
「だいたい、あんなに「私は女王じゃない」とか言いながら、皆に世話を焼いていたじゃないですかぁ?
この際だから、やってみたらどうなんです?女王様?」
「は、はぁ!?だから、そもそも私はそんな性質じゃないし、女王なんてできないわよ!」
キャーキャーと姦しく騒ぎ出す二人に、いつの間にか我に帰っていたパラが、首を傾げながら言った。
「いや、ユーナならば適任だろう。力はあるし、世界を管理する事も、お前ならば可能だ。
ついでだから、崩壊する神界のリソースを精霊界と魔界に振り分けて、精霊界はお前が管理すればいい。
少なくとも、あのニートに任せるよりは十分マシだ。」
「ちょっと、何勝手に世界の管理をさせようとしているのよ。私、世界の管理の仕方なんて分からないわよ。」
「いや、お前ならできる。霊脈の調整を、世界規模でやればいいだけだ。
それ以外の事もあるが、何かあればコドクに押し付ければいい。
どの道、あいつの居場所は人間界ではここしか無いし、それ以外の行く宛てとなったら魔界しか無い。魔界に住む事になったら、なし崩しに魔界の管理をやるだろう。お前が困る事は無い筈だ。」
そう言いながら、何処か苦虫を噛み潰したような顔をするパラに、シャウランが首を傾げた。
「……?どうしたの、パラ?」
「いや。こうなるのも、全て予想した上で、あのクソニートはコドクに魔界の管理を押し付けた、と思うとな。
他人事とはいえ、やっているのがあの駄神だと思うと、どうも気に入らん。」
吐き捨てるようにそう言うパラに、ユーナが困惑したように言った。
「なんていうか……余程嫌いなのね、そいつ……」
「ここまで嫌悪感をあらわにするパラちゃんも、珍しいですね~。」
そう言うユーナと呼幸に、パラは鼻を鳴らした。
「当たり前だ。あいつは、私と同じ、世界に存在してはならないものなのだから。」
不機嫌そうにそう言うパラに、シャウランが眉を上げて言った。
「それならば、その内、僕も許されない存在になっちゃうね?」
シャウランがそう言うなり、パラは、戸惑ったように身じろぎした。
「それは……いや、お前は違う。」
「だったら、認めてあげようよ。勿論、パラ自身の事もね。」
そう言って、にっこりと笑うシャウランに、パラは、もごもごと口を動かし、やがて、唇を尖らせてそっぽを向いた。
それでも、シャウランは、パラにニコニコとした笑みを向けていた。




