表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/141

11 あなたは独りじゃない

コドク視点スタート。

 さて、魔物も処理した事だし、町へと帰りましょう……となったのだが。

 あの、二人共?なんで、さも当然といった様子で俺に乗っているのかな?

 しかも、ユーナに至っては、俺の頭の上で熟睡しているという。眠りたいのは俺なんだが…

 まったく。ささやかな仕返しとして、こっそりと霊脈を調整してやろう。どうだ、これでぐっすりと眠れる筈だ。

 俺の目には、もう町らしきものが遠くに見えてきている。というか、どんだけ遠くの場所に来ていたんだよ、この二人。

 しかし、そうだとすると、気になる。なぜ、こんな遠くに行ってまで、俺の所へ来たのだろうか?


「なあ、カナンよ。」

「……むにゃ?」


 おい、むにゃってなんだ、むにゃって。かわいい……じゃなくて、お前まで寝ようとしていやがったな?

 まったく、この娘二人は、無防備すぎないか?俺、一応、男(多分)なんだが。

 俺は、思わず溜息を吐いた。


「……まあ、いいや。

 で、カナン。お前、なんでわざわざ結界を越えてまで、遠い俺の所へ来たんだ?」


 俺がそう聞くと、カナンは眠そうに目を擦った。


「ううん……呼ばれた……気がした、から?」

「はい?なんだ、そりゃあ。そんな理由で、魔物がいると分かっている所に来たのか?」


 俺がそう言うも、返事が返って来ない。

 もしやと思って、首を回して背を見ると、そこには、俺の毛をしっかりと握りながら、毛並みに埋もれるようにして眠るカナンの姿が。

 その、安心しきった表情の、無防備な寝顔に、俺は思わず苦笑した。


 弱い精霊と契約した、というだけで、親から冷たい仕打ちを受けたこの子は、どんな気持ちだったのだろうか。

 両親から向けられていた、不変な筈の愛情が、たった一つの事でころっと変わり、全てが偽りだったと知ったこの子は、今までどんな気分で日常を過ごしてきたのだろう。

 それは、辛かった筈だ。とても、不安だった筈だ。守って貰える筈の、その両親から、その存在を否定される苦しみは、俺がよく知っている。あの、はらわたが溶けていくような不安と、突然足元が消えてしまったような、ぐらぐらとした浮遊感…。

 あの感情を、この子も味わったのか。

 あの絶望感を、この子は身に受けたのか。


 俺は、思わず呟いた。


「カナンは、強いな。本当に、偉いよ。」


 俺は、あの時、全てを諦める事で、心の平穏を保った。

 だけど、この子は違う。

 俺と違って、独りでは無かったとはいえ、よくぞここまで普通でいられたものだ。きっと、ユーナと一緒に二人で支え合いながら、今まで生きてきたのだろう。

 それでも、だからこそ。カナンも、ユーナも、きっと、「安心できる自分の居場所」というものが、欲しかったに違いない。だからもし、俺がその居場所となれるのなら、喜んでこの身を貸そう。

 生きているのか、死んでいるのか、それすら分からないような人間になるのは、俺一人で十分だ。この子達には、そんなものとは無縁に生きてもらいたい。

 なに、この可愛い寝顔が見られるのなら、例え布団代わりでも構わない。それで、この子達が安眠できるというなら、安いものだ。


 夜が、完全に明けてきた。

 暖かい陽の光が、優しく照らす。

 俺は、それを、目を細めながら見た。

 暖かい陽は、カナンとユーナだけではなく、俺にも注がれている。

 その事が何故だか、この世界は俺も受け入れてくれている……そう言われているように感じて、俺は思わず目を閉じた。

 ほんの少し。ちょっとだけ、胸が温かくなった。



 町まで、あともう少しという所だった。

 眠っていたカナンが、急にぐずり始めた。

 涙を流しながら、必死に、俺の毛を掴んでいる。

 ……正直に言おう。どうすればいいのか、分からない。

 あやすにしろ、慰めるにしろ、した事もされた事も無いので、どうすればいいのか、さっぱり分からないのだ。

 とりあえず、尾羽で頭を撫ででみる。


「ぐすっ……」

「お、おお、大丈夫だ、大丈夫だから。何が悲しいのか、それとも怖いのかは分からんが、俺はここにいるぞ。

 だ、だから大丈夫だ。もう何が大丈夫なのか、俺自身分からんが、多分大丈夫だ。だから泣かないでくれ。」


 声もかけてみるが、泣き止む様子は無し。

 ど、どどどどうすれば?

 こと戦闘においては問題無い俺ではあるが、こういうのは専門外である。俺が泣きたい。

 おお、そうだ!こういうのは、同じ女の子であるユーナに任せればいいのでは!?

 そう思って、頭の上に意識を向けると。


「ひっく、ぐすん……」


 ユーナまで泣いていた。ユーナの足の爪が、俺の頭に食い込んでちょっと痛い。


「え、え、えええ?お前も?これ、どうすればいいんだ俺。」

「ううっ、コドクの、ばかぁ…!」

「何故か罵倒されたんだけど。いや、寝言だろうけどさ。っていうか、どんな夢を見ているんだ二人共。

 え、起こした方がいいのかね。わ、分からんぞ。え、ええと、小説なんかでは、こういう時は、ええと……」


 どうしていいのか分からず、あたふたしていると、カナンが目を覚ました。

 泣き腫らしたような、真っ赤な目で、俺を見つめるカナン。


「こど、く……?」


 その声が、あまりにも悲しげで寂しげで……思わず俺は、カナンに手を伸ばした。


「おお、そうだよ、俺だ。どうした?悲しい夢でも見たのか?」


 鋭い爪の生えている指先が、カナンに触れそうになり、すんでの所で止める。危ない危ない。

 だが、俺のその指に、カナンが縋り付いた。


「お、おい。危ないぞ、カナン。」

「……コドク。」


 下手に動くと、爪でカナンを傷付けてしまう可能性がある為、固まったままそう言う俺に、カナンは俺の目を真っ直ぐに見つめた。

 カナンの、綺麗な茶色の瞳が、俺の目を真っ向から貫く。

 カナンは、その目に強い光を浮かべた。


「コドク。あなたは、独りじゃない。」

「あ、ああ。」


 いったい、何の話なのか、さっぱり分からないまま頷く俺。

 まあ、確かに一人じゃないな。カナンや、ユーナがいるし。

 俺がそんな事を思っていると、カナンは、目を閉じ、俺の指に額を押し付けた。


「だから、だか、ら……

 お願い、死なないで……」


 その、悲壮感溢れる、必死そうなカナンの言葉に、思わず俺は、息を飲んだ。

独りと一人。同じようで、違う言葉。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ