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10 希望の発芽

三人称視点スタート。

 急に黙り込んでしまったコドクに、カナンが不安気な表情で口を開いた。


「コドク?」


 コドクは、その言葉に、ハッと我を取り戻すと、気まずそうに、爪で頭を掻いた。


「ああ、ごめん。つい、俺基準で話をしてしまって。

 まあ、そうだよな。身体の中に魔石を入れる行為は、お前達にとっては、まだデメリットが高すぎるものな。」


 急に謝り始めたコドクに、ユーナが呆れたように溜息を吐いた。


「別に、あなたの話が、あなた基準で規格外なのは、今更よ。

 で、あなたのその話だと、あなたは魔石を身体の中に取り込んでいるのよね。

 コドクが規格外なのは、魔石を身体の中に持っているからなの?」


 目をギラギラと光らせながらそう言った、ユーナのその言葉は、どこか、興味以外のものを含んでいた。

 コドクは、そんなユーナの様子を見ながらも頷いた。


「まあ、俺の強さの一部は、この魔石にあると言っても過言ではないだろうね。

 だけど、これは扱いが難しい。―――俺にとっては、手足を動かすようなものだけど。

 そうだな、もし魔石を身に取り込むのなら、魔力の制御と、霊脈の調整がうまくならないとだめだな。

 ……だから、ユーナ。お前の気持ちは分からないでも無いが、強くなりたいからって、今の段階で、魔石を取り込んではだめだぞ。」


 コドクの忠告に、ユーナは目を丸くし、不貞腐れたようにそっぽを向いた。

 ユーナは、強くなりたかった。いけないと心では分かっているつもりでも、やっぱり、手っ取り早く強くなる方法があるのなら、多少のデメリットがあるのだとしても、その方法に惹かれずにはいられなかったのだ。

 そんな心情を、既に強いコドクに指摘され、ユーナは、なんだか気に入らない気分になったのである。


(…私の気持ちなんか、分からない癖に。)


 その感情が、逆恨みに近い嫉妬だと分かっていても、ユーナは、心の中でそう呟かずにはいられなかった。

 そんなユーナの心の呟きを聞いた訳ではないだろうが、コドクが、苦笑を浮かべながら、ユーナに言葉をかけた。


「そう、不貞腐れるなよ。言っただろう?俺の知っている事なら、教えてやるって。

 そう心配しなくたって、あんな魔物くらい、簡単に追い払えるくらい強くしてやるさ。お前達にはいずれ、強くなってもらうつもりだったしな。」

「……言ったわね?なら、約束よ。やっぱりできませんでした、なんて事になったら、絶対に許さないんだから。」


 コドクを睨みながらそう言うユーナのその言葉に、コドクは笑って答えた。


「ああ、勿論だとも。

 ただし、強くなって、周りから、俺みたいに「規格外」だなんて呼ばれても、俺は知らないからな?」

「ふんっ。だったら、コドクのせいにするから、別にいいわよ。

 規格外なコドクに鍛えられるんだもの、規格外になるのは当たり前でしょう?」

「おいこら。俺は知らないって言っているだろうに。」


 そう言いながらも、コドクの声に、怒りは混じっていなかった。

 コドクには素直になれないユーナだが、その最後の言葉は、ユーナなりの信頼の言葉だという事が、コドクにも分かっていた。

 カナンは、そんなユーナの姿を見て、安心したように、ほっと息を吐いた。

 自分が弱いせいで、悩み、表情に影を落としていたユーナ。カナンにとって、ユーナは家族よりも親しい親友だ。そんなユーナが、その目に希望を宿し始めている。

 カナンは、その事実が、まるで自分の事のように嬉しかった。

 カナンは、微笑んだ。


(……コドクと、契約して、本当に良かった。)


 真っ黒で、大きくて、規格外な強さを持っていたコドク。最初は恐ろしかったが、その見た目に合わない不器用な優しさに、その恐ろしさはどこかへと行ってしまった。

 カナンは、そのコドクの後ろ姿を見た。相変わらず、真っ黒で大きいが、そこにはもう、恐ろしさは感じない。

 いまだにユーナと言い合っているコドクに、カナンは、小さく呟いた。


「……ありがとう。」


 聞こえたかどうかは、カナンには分からない。だが……

 まるで、「どういたしまして」とでも言うように、コドクの長い尾羽が、ゆらりと揺れた。




 魔物が持っている魔石だが、売れば金になるし、様々な設備や道具に使えるとの事で、持ち帰る事になった。

 なんでも、質のいい物で、銀貨数枚程度にはなるのだとか。

 ちょっと興味があったので、貨幣制度について聞いてみると、貨幣は、鉄貨、銅貨、銀貨、金貨、白金貨の5種類あり、


 鉄貨10枚→銅貨1枚

 銅貨10枚→銀貨1枚

 銀貨100枚→金貨1枚 

 金貨100枚→白金貨1枚 


 という感じになっているらしい。

 パンなどが、銅貨1~3枚あたりで買えるらしいので、銅貨1枚=100円といった所だろうか?

 となると、魔石は、日本円にして、最低でも数千円の価値があるという事だ。


 俺の体内にある、他の魔石を売ったらどうなるんだろう?

 一応、核の魔石よりは小さいが、どの魔石も質は良いものばかりだ。

 魔石は質を高めると、その色を変える特性を持っている。

 最初は赤、その次に金、そして青だ。


 ……ん?あれ?

 なんか、この色の並び、最近どこかで聞いたような…?

 ああ、そうだ。瞳の色だ!

 魔物は赤、精霊は金、そして神が青。

 つまり、瞳の色は、魔石の色と同調している、という事なのだろうか?

 だとしたら、俺の瞳の色が金色なのも、頷ける。

 何故なら、今、俺の核にある魔石は、金色の魔石だからだ。


 ―――あれ、待てよ。この法則が成り立つのなら、俺って神にもなれるんじゃね?

 俺の得た魔石の中に、大きさをあえて無視して小さくし、質だけを高くして作り変えた、青色の魔石があるのだ。

 だけど、これはうかつには試せない。なんとなくだが、俺には分かる。これは、まだ俺が使っていい段階ではない。

 この青色の魔石を核にすれば、きっと、様々なもの…姿形ですら、大きく変わってしまう。……そんな予感が、ひしひしと伝わってくるのだ。


 今は、まだ。止めておこう。この魔石の力をコントロールする自信はあるが、気軽に試していいものではない。

 俺は、精霊だ。魔物から成り上がった、蠱毒の精霊。そして、カナンとの契約者。

 それで、十分。わざわざリスクを冒してまで神になる必要は、どこにも無い。

 その力が必要になるその時まで、この魔石は俺の中で眠らせておこう。大きすぎる力ほど、危険なものはないのだから。

コドクはその内、神にもなるかもしれませんが、基本は精霊です。

なんせ、「蠱毒の精霊」ですからね。この小説のタイトル。

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