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9 新たに生まれた感情

コドク視点スタート。

 ユーナに、霊脈を調整する事を勧めたのだが、自分でやるとそっぽを向かれてしまった。

 俺が、何故相手がこんなにも嫌がっているというのに、しつこく勧めるのかというと、この霊脈がしっかりとしているか、していないかで、生死を分ける事があったからだ。


 あの殺し合いの日々の中、霊脈がボロボロのままで戦って、攻撃を食らって死にかけた事がある。

 あの時は、大変だった。

 霊脈を修復しながらも逃げ続け、時には隠れて息を潜め、勝てそうな相手だったら奇襲して殺し、涙が出る程に不味い肉を無理矢理飲み込んだ。

 霊脈を修復すれば自然回復する速度も上がるので、その時はなんとかなったが、あの時は本当に死ぬかと思った。

 もしかしたら、この世界は、今はもう悲鳴も上げないあの弱い魔物が基準で、俺がいたあそこが異常だっただけなのかも知れないが、この世に絶対なんてものは存在しない。

 この二人には、俺が体験したこんな思いなど、して欲しくないのだ。

 霊脈は、特別な力を持つ命の血管のようなものだ。魔力の通り道であり、身体の生命力や、病に対する抵抗力に直結する大切な部分。


 人間や精霊には無いみたいだが、俺や魔物には、霊脈の根幹に、核……俺は魔石と呼んでいるが、その魔石がある。

 魔石は、簡単に言えば、魔力の電池だ。魔素が鉱石化したものであり、これも調整する事で魔力の通りが良くなったり、溜められる魔力の量が多くなったりする。

 更に、魔石は魔素を加えながら圧縮する事によって、その質を向上できる。

 この魔石もまた、霊脈と同じくらいに重要な部分だ。魔物は、これが無いと存在を保つ事もできない事から、魔石は身体の形状の記憶媒体でもあるのだろう。つまり、魔石があるだけで、傷の治りが早くなるし、例え腕がもげても元に戻るのである。

 俺は、いずれ二人に、魔石を持ってもらうつもりである。霊脈の核になる魔石の恩恵は、計り知れない。


 前世では、例え孤独でも平気だった。

 心の痛みなんて、感じる事すら無かった。

 …………筈、だった。

 何故、この二人…カナンとユーナが死ぬかもしれない、と考えるだけで、心がこんなに痛むのだろうか?

 あの殺し合いの日々でも、こんなに胸が苦しくなった事なんて、一度も無かった。


 ……ああ、そうか。俺は『怖い』のだ。

 たった数時間、話をしただけの相手。でも、俺にとって、初めて心を許した相手。そんな人が死ぬかも知れないというだけで、こんなにも苦しく、怖いものだとは、知らなかった。

 カナンの満面の笑みが、ユーナの呆れたように笑う姿が、脳裏に浮かんだ。

 ああ、そういう事か。

 小説なんかを読んで、名前だけ知っていた感情。

 これが、『愛おしい』という感情なのだ。この暖かい感情こそ、『愛情』だったのだ……。


 俺は、カナンを必死に説得するユーナと、それに対して「誤解」と説明するカナンを見た。

 守りたい。

 俺の事は切り捨てた癖に、妹の事は必死に守っていた、俺の両親の気持ちが、今なら少しだけ分かる。

 両親も、妹を守りたかったのだろう。その為には、俺は非常に邪魔だったに違いない。

 まぁ、もうそれは過去の事だ。しかも、前世の事。今は関係ない。


 ずっと、見守ろう。この二人の人生を。

 俺が体験した事を、もう繰り返さぬ為に。


 ……とりあえず、檻の中の魔物はもう死んでいるので、それを伝えにいこう。

 なに、時間ならまだあるのだ。ゆっくりと二人を強くしていっても、問題は無いだろう。

 ユーナの霊脈の事なら、そのうちやればいいしな。本人にやり方を教えるのでもいいし。

 だから、今はいいだろう。……物凄く心配にはなるが。

 俺は、仲良く話し……言い合っている二人へと、苦笑を浮かべながら近寄っていった。




「おーい、二人共。あそこの魔物、もう死んでいるんだ」

「出たわね元凶!私の友達に手を出した事、後悔させてやるわ!この規格外ロリコン!」

「なんか増えてる!って、あの魔物はいいのか?

 雑魚とはいえ、魔物には核があるぞ?」


 コドクが来た途端、翼を広げ、威嚇するユーナに、コドクは魔物を指しながらそう言った。

 すると、ユーナの隣にいたカナンが、苦笑をこぼした。


「……雑魚。」


 カナンの苦笑交じりのその呟きに、ユーナが呆れの混じった声で返した。


「私達にとって、厄介な魔物でも、コドクにとっては雑魚同然なんでしょうね。

 で、なんですって?核?それって、魔石の事?」

「おお、やっぱり魔石って言うんだ。そう、魔石だよ。

 味は最悪だが、取り込めば色々と便利だぞ。」


 コドクのその言葉に、ユーナとカナンが目を剥いた。

 ユーナとカナンは目を合わせると、コドクをあり得ないものを見るような目で見た。

 ユーナが、恐る恐るといった様子で口を開いた。


「ね、ねえ、コドク。あなた、それ、冗談で言っている訳じゃないわよね?」


 ユーナのその言葉に、コドクは、なぜ自分に魔石があって、二人に魔石が無いのかを悟った。

 つまりは、普通、魔石は身に取り込むものではない、という事なのだ。

 あんなに恩恵があって、何故……と、コドクは考え、ハッと気付いた。


 魔石は、魔力の最大値を上げてくれるなどのメリットも大きいが、その分、体の中を流れる魔力を制御するのが難しくなるのだ。

 魔物に理性がないのも、荒れ狂う魔力に霊脈が乱され、魂と身体が狂ってしまう為。

 コドクには魔力の制御も、霊脈の調整も、息をするかのように、当たり前にできるが、普通はそうではないのだ。

 コドクは、その事が早く分かって良かった、と思うと同時に、やはり、魔力の制御と霊脈の調整は、早く二人に覚えて貰わないといけないな、と思うのであった。

しばらくは、毎週2話連続投稿が続きそうです。

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