なろう小説の特徴 〜大きなストーリーラインを夢見て〜
サイト「小説家になろう」には数多の作品が日夜更新されています。自分は作品を読む側であり、書くことは今までありませんでした。基本的に息抜きとして作品を読んでいるだけだからです。
ただ、最新話を読みながら感想欄にコメントをすることは割と有ります。展開を予想してみたり、疑問点を挙げてみたり、好き勝手している自覚はあります。「一言」欄には気楽にコメント出来てしまうからでしょうか。他の人がどのような感想を抱いたのかを見るのも面白いですね。
感想欄を眺めていると、否定的な感想もしばしば見かけます。内容は様々。至極もっともな指摘から単なる雑言まで、感想一つとっても読み手の個性が表れます。感性は人それぞれですから、否定の意見に対して反論する人も出て来たりします。互いにヒートアップしすぎて言い合いが起き、作品そっちのけになるケースもありますね。
こうなると非常に見苦しいですし、感想欄が設けられている趣旨にも外れてしまいます。ですから率直に言って、感想欄で他人の意見にコメントを行なうのは賢明ではないでしょう。
しかし、私はそれを承知の上で自分が感じた作品の特徴を書き込むことがあります。その多くは情報が小出しにされる作品でした。否定的な感想としては「説明不足」「主人公の掘り下げが甘い」といったものが多くなります。そしてそのような感想が書かれるのは作品が始まって間もないことも度々ありました。
私が書き込んだ内容を端的に言えば、「大きなストーリーラインを持っている作品だと期待します」ということに尽きるでしょう。もちろん方向性が見えず霧の中を手探りしているような感覚を覚えるようでは読み手に苦痛を強いてしまいます。しかし、伏線が回収されたり真相が明かされたりしたときのカタルシスもそう悪くないと思います。推理小説を読むときには誰しもモヤモヤとした思いを抱くことになりますが、溜まったフラストレーションからの解放が一種の爽快感を生じさせることは恐らく多くの人の賛同を得られるものと思われます。
では何故、否定的な感想が書かれてしまったのでしょうか。
なろう作品の一つのパターンとして最強モノが挙げられるのは議論を待たないでしょう。ランキングに登場する多くの作品が該当すると思われます。そしてこれらの作品の常として、最初から能力やステータスが示される場合が多いですよね。多くの場合は生きる上での軸や主人公の性格を一つ決めて、あとはイベントが色々と進んでいく感じでしょうか(軸がブレルると感想欄のコメントが荒れることになりますし、ゴールの設定が曖昧なケースもままあります。「唐突に始まる学園編→更新停止」という流れは最早お家芸のレベルと言っても過言ではないかもしれません。)。
作品はそれこそ泡沫のように多く生じ、またその一部はひっそりと消えていきます。
多くの作品に共通して言えることは、良くも悪くも小話積み上げ型だということです。こち亀型、と言っても良いかもしれません。もちろんそれが悪い形だと言うつもりは毛頭なく、連載小説という形態にはむしろ適している可能性があります。
ただ、結果として大きなストーリーラインを描いて伏線を貼り、徐々に情報を開示していくタイプの小説は少ないですし、時に辛辣なコメントをされているのを見るとやるせない思いを抱いてしまいます。
書き手側としては、まずはキーワードで興味を誘って閲覧数を稼ぎ、その上でストーリーが始まっていく形態にするのが手っ取り早くランキング入りを果たす方法だと思われます。また各種選考や書籍化ということを念頭に置いた場合、最終話まで書き終えないとまとまりがつかないというのはあまりにも不利だといえるでしょう。最終話まで書き終えてから投稿するのではなく、徐々に更新をして完結に至る、という書き方が出来るからこそ気軽な執筆が可能になるという特大のメリットも見逃せません。
一方読み手側としても、バッタバッタと敵を薙ぎ倒す痛快な展開を求めている可能性が大いにあります。息抜きに読む作品でフラストレーションを溜めてどうするのだ、という意見の方もいるでしょう。更新がスムーズにいかなければそれだけモヤモヤする期間も長くなってしまうのですから、伏線やら何やらを求めるのならば一般書籍を読めば良いのかもしれません。
そう考えると否定的な感想が書かれてしまうのも理解は出来ます。読み手が求めていたのはその日の疲れや退屈を吹き飛ばす爽快感であり、読んでモヤモヤした思いを抱けば事前に作品に抱いていた期待を裏切られたと感じてしまうからです。
しかしそれを感想欄でわざわざコメントすることにより、書き手には萎縮効果が生じてしまいます。自分の書き方ではスローテンポなのではないか? もっと分かりやすく派手な展開の方がウケが良いのではないか? といった具合です。
それ故に私は時に作品擁護とも受け取られるようなコメントをしてきたし、その回数が増えて来たので今回の文章を書くにも至ったのです。
ランキングに載っている作品はある意味ではその時点での流行と言えますし、埋もれた名作が数多く有るのは理解しています。検索時にはその点を心がければ思いもよらぬ出会いがあるということも。また、完結作品の中には見事なストーリーラインが描かれているものも存在するということも。
ただ、自分としては連載を始めたばかりの方はやはり応援したいですね。そしてその作品が伸び伸びと膨らんでいくことを願っています。情報が小出しで叩かれている作品に対しての「大きなストーリーラインを持っている作品だと期待します」というコメントにはそんな思いがあるのです。
始まったばかりの多くの作品の発展があらんことを。そして、願わくば大きなストーリーラインを持った作品を書く勇気を持つ人が多く現われんことを。
今日も私はそんな「小説家になろう」を夢見ている。