表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
じゃくしんさん(寂心山)  作者: ああい すもも
2/3

  ♪すももおでかけ

 すももの朝は毎日同じパターンで始まる。

 つ・ま・り"ぺろん!"と飼い犬のGONに顔を舐めて起こされるのだ。


 GONは白い毛と黒い毛の入り混じったおじいちゃんみたいな容姿をしている若い犬である。


、初めてこれをやられた時は驚いて、家中に悲鳴を響き渡らせ、パパとママとクルミおねーちゃんが悲鳴に驚き、何事かとすももの部屋へ飛んできた。


 すももの悲鳴に驚いたのか、GONは興奮して部屋の中を駆け回って机の上はひっくり返り、ランドセルは噛んで振り回して中身をぶちまけ、ワンワンとうるさく吠え立てて、後始末がものすごく大変だった。



 今日もあの時のように、いつもと同じく、GONは散歩に連れて行けとばかりにシッポを千切れんばかりに振りながら、すももの顔を舐めまわすのだ。


「GON。おはよ~・・・・・・」

 すももはGONの頭をなぜると上体を起こしてしばしボーっとした後、おもむろに起き上がると、着替え始めた。


 着替え終わって部屋の扉を開けると、GONはけ玄関に向かって一目散にかけてった。


 玄関に行くと、GONは行儀よくお座りして、リードを咥えてシッポを振っている。


 すももは、その脇のGONの水入れをとると、軽く洗って水を入れて玄関に置いた後、顔を洗って身支度を整えた。


 玄関にきちんと座って待っていたGONからリードを取って玄関を開けると、梅雨前の初夏の涼やかな風がすうっと吹き抜けていき、真っ青な空が高く広がっている。


 思わず見上げて立ち止まったすももを、ぐいっと引っ張るGONが

どうしたのと言わんばかりに振り返ると、「ごめん。ごめん」と謝りながらいつものコースを寂心山へと歩き出した。




 人見知りで人が苦手なすももは、時間が早くて人気の少ないこの時間が好きだった。


 この時間は、忙しそうな新聞配達の人か、すももと同じく犬の散歩をしているいつものおばさんやおじさんたちとしか出会わない。


 でも今日は、そんないつもの朝とはちょっと違って、見た事のないおじいさんがタバコの自販機を睨みながら何やら唸っている。その後ろをそおっと通り過ぎようとしたすももの気配を感じたのか、おじいさんがふっとこちらを振り返る。


「お嬢さん。おはよう」

 背筋がすっと伸び、鼻筋の通ったなかなかかっこいいおじいさんだったが、すももは目が合ったとたんにびくっと固まって萎縮してしまった。


「すまんがこの近くに、煙草を売っているところを知らんかな?これにはわしがいつも吸っているやつが入っとらんのじゃよ」


 にこにこと人懐っこい笑顔を向けられたのでいつもより緊張せずにはすんだが、それでもやっぱり話しかけせれれば怖いものは怖いのだ。


「この先にコンビニならありますけど・・・・・・」

 と、ちっちゃな声で、恐る恐る返事をして、前のほうを指さすのがせいいっぱいで、それでも、『聞き返されたらどうしよう』なんて考えてしまう。


「をぉ。そうか。ありがとう。

 実は最近こちらに引っ越したばかりでな、ここいらの地理がよく分かっておらんのじゃよ」

 おじいさんはそう言いながら、すももと同じ方向に歩き出したので、仕方なくすももも一緒に歩くことになってしまって、「はぁ、」とか間抜けな声を出す。


「植木町のはずれの青い屋根の家に、息子の仕事の都合で一週間ぐらい前に越してきたんじゃが、わしだけ用事で昨日着いての。今日は早くに目が覚めてしもうたんで、近所を散策しとるんじゃよ」

 と、とても陽気でよくしゃべるおじいさんだったので、


「あ、ここです」

と、コンビニに着いた時に一言口を挟むのも大変だった。


 おじいさんが「ありがとう。お嬢さん」とにっこり笑ってコンビニに入っていくのを確認した後、すももは、


 ダーッ!!


 っと走り出した。


 なんだか笑みがこぼれて来た。


 GONもかけっこが嬉しいのか、シッポをぶんぶん振り回しながらすももの前を駆けていく。


 やがて寂心山へと続く緩やかな上りに差し掛かったところで、クスクス笑いながら足をゆるめると、


「なんだか、すごく変なおじいさんだったねー」

 と、GONに話しかけた。


 見た目はちょっとかっこよかったけど、ほんとに変なおじいさんだった。


 家に帰ったらお母さんに話してあげようと思いながら、寂心山への道を登って行った。



 寂心山へ着いて、GONのリードを外すと、GONは思いっきりそこらを駆け回り始めた。

 すももはその間、ベンチに座って本を読んだりしている。


 GONにボールを投げてあげることもあるが、今日は何か面白いものでも見つけたのか、遠くのほうで勝手に遊んでいるようだ。


 やがて時計のアラームが鳴ったので、すももは帰り支度を始めた。

 本をバックになおすと、口に指をあてて、


“ピーーーーッ!”


 っと鳴らした。

 お父さんから習った、家族しか知らないすももの特技の一つなのである。


 この指笛を聞くと、GONは何をしていても一目散にすももの元へと駆け寄ってくる。


 駆けて来たGONの頭を撫でると、ジャーキーを一切れ食べさせた後、近くの水道から水を与え、来た道を帰るはずだったのだが・・・・・・。


 すももが帰る方向とは逆の方から自転車に乗った同い年ぐらいの男の子が、よろよろと蛇行しながらこちらへと登ってくるのが見えた。


「GON。GONってば、帰るよ」

 いつもなら、水を飲んだ後はおとなしくリードをつけさせてくれるのだが、間の悪いことに、今日は目の前をひらひらと飛んでいくちょうちょを追っかけて行ってしまった。


 あわててGONを呼ぶが、こういう時に限ってなかなか寄ってこない。


 指笛のことは頭からすっ飛んでしまっているし、すももは登ってくる男の子に気付かれるのが嫌なので、大きな音や声を出したくないのだ。


 やっとのことでGONにリードをつないだ時には、男の子は木の向こう側を登り切る寸前で、あわてたすももはとりあえず自販機の後ろに隠れて、GONが動かないように、GONの首を抱え込むようにして座ると、GONは遊んでもらえると勘違いしているのか、嬉しそうに、シッポを千切れんばかりに振っている。


 すももはそおっと自販機の陰から男の子の様子をうかがうと、男の子はそのまま通過していかずに、芝生の上にごろんと、大の字になって寝転んでしまった。


「う~。しまったなぁー。隠れたりせずに知らんふりして帰ればよかった」

 後悔してももう遅い。


 家に帰るためには、道路わきに寝転んでいる男の子の側を通らなければならない。


 しばし悩んでいたが、『普通に歩いていけば大丈夫だよね』と、覚悟を決めて立ち上がろうとした時。そのタイミングを待っていたかのように、男の子は上体を起こしてきょろきょろと辺りを見回し始めた。


 すももは自販機の後ろに引っこんで、息を殺した後、再びそおっと覗いてみると、男の子がこちらに歩いてくるのが見えた。


 思わずGONを抱く手に力が入り、GONは嬉しそうにパタパタとシッポを振り続ける。


 その、GONのシッポの音に今更ながら気が付いたすももは、音がしないようにGONのシッポを必死になってつかもうとするが、しっぽの動きはますます激しくなって、、、


 すももは必死で頑張るのだ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ