虚ろな鏡の描く夢
ーーぽた。
ーーぽた。
透明な雫が、一雫ずつ落ち、それはルートを通って「彼」の中へ注がれて行く。
彼は真っ白な髪を無造作にベッドに投げ出したままピクリともしない。その全身に痛々しいほどの管が通っている。
透き通るように白い肌はやや病的なほどで、「彼」の体調がさほど良くないことは誰にでも解った。
そんな彼の隣に。
ひっそりと、黒い影が佇んでいる。
よく見ればそれは、全身を漆黒の衣装で包んだ、絶世の美女であった。
「……あなたも、災難ね」
漆黒の女は、「彼」にそう言う。
「よりによってあれに捕まるだなんて、運がないわ。ーーまぁ、あなたはそうは思わないのでしょうけれど」
血で染めたかのように赤い唇を緩め、女はどこか残念そうに笑う。
ややあって、女は一向に反応を示さない「彼」に
「あなたは彼女に逢えて、そんなに幸せなのかしら」
心底不思議そうに、そう訊ねた。
「人間は不思議な生き物だものね」
そういうと、女はルートに指を這わせた。
「これを切ったら、死んでしまうのかしら」
脆いわ、と言いながら女は床を見つめて目を細めた。
そうしてルートから手を離し、それを拾う。
それは1本の、水色の髪の毛だった。
「ーー彼女は驚くわね、あなたのこの姿を見たら」
水色の髪の毛をじーっ、と見つめ、それからそれにふっと息を吹きかける。その途端髪の毛は端の方から燃え始め、ついには全て灰になってしまう。
「哀れね」
女はそう呟くと、姿を消した。
取り引きをしないかい。
君にとってはいいチャンスだと思うけれど。
君だってこんな所で死にたくないだろう?
だからとある人の、人助けをして欲しいんだ。
そうすれば君の望みを叶えてあげる。
さぁ、さぁ、すべてを委ねて。
生きたくばその手を伸ばすがいい。
紡ぐ夢など僅か一時。
今一度君に時間を赦そう。
泡沫に抗う彼の少女に、その身全てを差し出して。
もし願いが叶うなら、それは歯車が狂った時。
さぁ、今一度。
君に大罪を赦そう。
時を、流れを、彼の夢を。
滅ぼさんとする其が罪をーー