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罪ある魔女の闇

即興小説から転載http://sokkyo-shosetsu.com/novel.php?id=273347

お題:大きな流刑地 制限時間:30分

 見渡す限り、荒野、荒野、時々枯れ草、荒野。


 いやぁ参った。


 エレナ・ゲイブルスは頭を掻いた。

 着古した黒いローブに、手にはごつごつとうねる木の長い杖。

 手入れが行き届かない茶っぽい髪は、埃っぽい。

 悪の魔女業を始めてこの方、瞳は血のように赤い。

 とはいえ、悪い魔女業も、流刑になって畳みどころだったのやもしれないが。

 善の魔女にとっ捕まって、胸糞悪い裁判にかけられて、死刑のところを恩赦で流刑。

 ガレー船の暗い船底に放り込まれ、他の罪人と共に息苦しい闇の中を、気味の悪い波揺れに身を任せて過ごしていた。

 蠢く罪人、醜悪の環境、闇に沈んで、悪い魔女の本分を思い出した。


 こんなことに付き合ってらんない。


 エレナは空間を裂いて杖を取り出した。名うての善の魔女にも見つけることの出来なかった、エレナの杖の隠し場所だった。

 杖を手にすると、力の使い道が見つかる。闇の力は常にエレナの体の奥底で蠢いている。

 手枷を外すと、隣りの囚人にバレないように、静かに心の中で呪文を唱えた。


  暗闇よ繋がれ

  我をここではないどこかへ

  誰にも見つからぬ世界の果てへ

  汝の彼方に在る場所よ

  我を連れて届けよ


 闇は温かく、黒く、抱くようにエレナを包み込んだ。

 ありったけの闇の力を使って、エレナはその闇と同化した。

 闇の渦動に任せて、あとは苦しみと悲しみに溢れた力に揉まれながら運ばれていった。

 闇と闇を移動する魔法は使ったことはあったけれど、魔力の調整ができないほど精神的に消耗しているときに使ったことはなかった。

 どこに出るか、全く分からなかった。


 そしたら、案の定。

 これだ。


 エレナのいた国は森林と山に囲まれ、海に面した豊かな国であった。王城の政治家や、富裕層から、暗殺だの呪いだのの依頼が次々に舞い込むような。

 しかしどうやら、闇はエレナにそんな暗い欲望に触れる機会などない場所を差し出したらしい。

 闇が拓け、エレナが飛び出したのは、日がカンカン照り、文明の欠片などない荒野だったのだ。

 こんなところで、生きていくことすら難しい。悪環境の船旅で消耗しきっているのに、どうしろというのだろう。

 闇の非情さに、毒でも吐きたくなるが、闇は常に平等に闇だ。恨んでも仕方がない。


 エレナは一歩、足を踏み出した。とにかく、枯れ草があるのだ。オアシスくらいどこかにあるだろう。水場を探して、それから先は考える。

 埃っぽい砂が風に乗ってエレナの視界を遮る。日の光に目眩がする。霞む意識の中で、エレナは胸中で毒づいた。一体何で、自分は馬鹿真面目にガレー船に乗ってじっとしていたのだろう。思い返してみれば、逃げ出す余裕など、いくらでもあった気がする。ガレー船に乗る前の待ち時間、檻付馬車で移動中、牢屋の中、裁判で尋問中・・・


「あの人はそんなに悪い人じゃないんです。私の子供の病気を治してくれました。一晩中ずっと、看病してくれたのです」

「俺の娘がいじめられているときに、助けてくれたんですよ。貴族相手に泣き寝入りするところを、脅かして追っ払ってくれた」

「どうか死刑にしないで」



 余計なことを。



 エレナは思い出した。

 暗殺事件の露見、死刑がほぼ確定している裁判。

 次々に出廷した証人たちは、エレナの行状を告白し、流刑にまで罰を引き下げた。

 お陰で、エレナはずっと考え込んでしまった。

 どうして自分はこうなった?

 何であの人たちは、エレナを放って置いてくれなかったのだろう。

 エレナはエレナ自身など、もうどうでもよかったのに。


 遠くに緑が見えた。

 エレナは力を振り絞る。

 まだ死ねない。


 そう思うような自分に、いつの間にかなっていた。

I like a wilderness.

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