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悟り

即興小説トレーニング(http://sokkyo-shosetsu.com/novel.php?id=240946)から転載 お題:誰かは民話 制限時間:15分

 嬉しいねぇ、みんな卒業論文提出できて、よかったよ。

 この飲み会も最後だな。ほとんど全員が論文提出できるのって、ここだけの話、珍しいんだぞ。お前ら、えらいえらい。

 今年は一人だけだったな、論文出さなかったの。

 宮本っていただろ。あいつってどうしたの、最近ゼミで見ないけど。

 え、旅に出たって?なんだそりゃ。はやりの自分探しか?

 ほとんど何も持たずに、お遍路参りに行ったってね・・・。そんな信心深かったっけ、あいつ。そういうキャラクターじゃなかったよな。いつも飲み会に顔出して、パーティーとか、懇親会とか、バイトとかに明け暮れている如何にも大学生って感じだった。ゼミには大して顔を出さないけど、ゼミの飲み会には来るような。


 でも大体、数年に一回は、そんな学生が出てくるんだよね。急に悟っちゃったような奴。

 俺が大学生の頃にも、そんな奴がいたよ。


 最高学府で、「いい意味でのエリート意識を持つべきだ」なんて言うような奴だった。努力家で、人を集めるのも上手くて、企業の人とかともよく会っていた。将来的には起業したいって言っていて、あいつに付いていけば食いっぱぐれないんじゃないかって、仲間内では言われていた。

 そいつがね、ある日突然変わっちまった。授業にぱったり来なくなって、キャンパスでも見かけなくなった。偶に見かけて、声をかけてもろくに話もしないで、すぐにどこか行ってしまう。

 俺は偶々、卒業式の日に、そいつが休学届を出しに来ているのを見かけて、話をしたから、そいつがどうして突然そんなことになったのか知っている。


 知っている、といっても、妙な話だったな。

 大手町とか、日本橋の方の高速道路の下に川が流れているのを知っているか?

 ある夜、そいつが企業の人と会った帰りにその近くを歩いていると、はっとするほど美しい赤い服を着た女が、その川を流れていったそうなんだ。

 そいつは思わず、その女を追って、川を下っていった。

 ビル街を歩き、橋を渡り、高架下を抜けて、ひたすら川の流れを追っていくと、鈍りのような川面に囚われたようになって、夜も川面も関係なく、真っ黒な中に迷い込んでいくような気分だった。

 気が付けばそいつはネオンの輝く湾岸に辿り着いて、海を眺めていた。

 女はどこにいったか、いつの間にか見失っていたけれど、海に飲みこまれるようにそいつはただそこに佇んだそうだ。


 よく分からないけど、そのときからそいつは、エリート意識も立身出世も、最高学府にも価値を感じなくなったらしい。

 まあなんか、悟ったってことなのかな。

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