色鮮やかな世界へ
もうやめても良いや。
そう思いつつも、せっかくレベルを苦労して上げていたので、その後も継続してプレイを続けていた。
もう無理だ。
そう思っていたレベルは既に58まで上がっていた。
勿論ジョブはファイターのままだ。
我ながら良く上げたものだと思う。
しかしそれももう限界だ。
これ以上は上げられる気が全くしない。
高性能な武器!
一緒に戦ってくれる仲間!
そしてなにより使い勝手の良いスキルを使えるジョブ!!
間違いようも無く何ひとつ持たざる者である自分にはこれが限界だと確信した。
武器を作るにはまず武器工房の弟子にならなくてはならない。
しかし武器工房なんてものは既に存在しない。
一緒に戦ってくれる仲間を集めようにも、人がいない。
ジョブチェンジしようにも、神殿に司祭がいない以上、ジョブチェンジのしようが無い。
無いものづくしだ。
無いものねだりしても事態は変わらない。
むしろ最初のジョブのまま、ここまでレベルを上げたプレイヤーなんてひとりもいないだろう。
今こそあの限界集落の連中を見返してやる時だったが、彼らの姿はやはり最初にカストールを出て以来一度も目にしていない。
それは叶わぬ夢だった。
レベル60まで上げたらやめる。
もうやめる。
そう心に決めてフィールドをうろうろしていると、ある日、おかしなイベントが発生した。
見た事もない1体のゴブリンが現れた。
ゴブリンと言えば普通はこんな感じだろう。
1。緑の肌の小人。
2。鼻が長く、皺の多い老人顔。
3。皮の鎧に身を包み、手にはショートソードか弓矢、まれに盾を持ったのもいる。
目の前のゴブリンはどうだろう。
1と2は合っている。
しかし、3が違っていた。
漆黒の鎧に身を包み、盾を持ち、そして手にはゴブリンが持つには大きすぎる両手剣を持っていた。
よく見ると腰にはゴブリンの大きさにあったショートソードも下げている。
そのゴブリンがひざまずき、手にした両手剣を差し出してきた。
隠しイベント?
どこかでフラグを踏んだのだろうか?
何も思い当たる事が無い。
そういえば一度、ゴブリンに話しかけたけれどもそれとか?
とにもかくにも、クエストを受けられなかったせいで、ろくにこなした事のないイベントがようやく起きたのだ。
これを逃す手はない。
そう思いゴブリンを調べると、自分の分身であるキャラクター、ノル君が差し出していた剣を自動的に受け取っていた。
「王よ」
ちょっと待った。
今、スピーカーからではなく、頭の中に直接響かなかったか?
「はい?」
口から意味のない言葉が漏れた瞬間、ディスプレイから光の奔流が流れ出してくる!
あまりの眩しさに俺は目を閉じた。
それは手を目の前にかざしたくらいではとても防ぎきれない圧倒的な光だった。