男だから
明くる朝、とりあえずは練石集めをする事にした。
ふたりだけなので、そんなにたくさんは集められない。
アリアは鼻歌交じりに俺の後ろをついてくる。
先に行かないのは、何気に前回の練石を探すのに夢中で先に進んでしまってたのをまだ気にしてるのかもしれない。
途中、奇妙な魔獣が襲ってきた。
木の影が不自然にすーっと伸びてきたかと思うと、影の先が牛に変じた。
不自然な絵の具のような赤色。
角は鋭く、長い。
思わず抜いた剣でばっさり斬ると、斬った先はかき消え、根元はまた元の木の影に返った。
こんなモンスターいたっけ?
まるで記憶に無い。
後でギルドで確認した方が良いかもしれない。
バグか?
やがて日は高くなり、そろそろ戻らないともう1泊するか、夜通し歩く事になる。
アリアの顔を見ると、手の平を俺に向け、どうぞという仕草をした。
正直、何日も粘ってまでこだわる事の程では無い。
さて、どうしたものか、と考えていると、岩山の上から岩がばらばらと落ちてきた。
見上げる。
そこにいたのは巨大な鶏だった。
ツヴァイハンダーを抜く。
アリアは何も言わなくても手を出さない。
さあ、リベンジマッチだ。
トサカ野郎!
コカトリスの胸がふくらむ。
例によって例のごとくのペトロブレスか。
鎧には石化無効が付いている。
しかし、俺は大きく飛んでまき散らされた白い吐息を避ける。
俺の鎧には石化無効は付いていない。
自分の心にそう言い聞かせる。
飛ぶ前に既に足場の確認は済んでいる。
滑らせる事なんて万にひとつもない。
しっかりと着地すると、弾かれたように瞬時に飛ぶ。
それは鶏がブレスを吐き切るタイミングとぴたりと一致する。
そのくちばしに剣を差し入れると、真横に引いた。
がりっとあまり心地良く無い感触が手に伝わる。
けたたましく鶏は鳴くと、突進してくる。
割れたくちばしからは白い吐息が不気味に漏れ出ている。
鶏の蹴爪が迫る。
それをくぐり抜けるようにかわし、すれ違い様にももに一閃する。
ハイスラッシュ。
斬撃抵抗は伊達じゃないらしい。
至近距離からのハイスラッシュを受けても、足を断ち斬るには至らなかった。
しかし、吹き出した血の量は、それが十分なダメージである事を伝えている。
鶏の足が鈍る。
俺の接近を阻むようにブレスを吐く。
割れたくちばしから吐かれたそれは、収束する事無く散り、射程は最初の半分程度に落ちていた。
足にダメージが無くても、こいつはブレスを吐いている間は動けない。
避けるには半歩も下がれば十分だった。
やがて息が切れる。
ブレスが止まる。
その瞬間に、まっすぐに鶏の口に向かって飛んだ。
何のスキルもかけていない、ただただまっすぐな一撃は、鶏の口の中を貫き、脳を貫き、後頭部を突き抜けてやっと止まった。
手を離し、後ろに飛ぶ。
その時点で既にホルダに手を掛けている。
優先で設定されている両手剣が1本、回復アイテムがひとつ、呪符が1枚だけ飛び出す。
着地すると同時に見ないで両手剣を抜く。
鞘に手を掛け、抜き放てる体勢になった所で、鶏はどうと倒れた。
びくりびくりと痙攣しつつ頭から大量の血を噴き出している。
近づき、首に剣を落とし、断ち切る。
気が付くと、アリアがすぐ横に来ていたので、空の手を挙げると、アリアは思いっきりその手を叩いた。
いえい!
ワイラ:正体不明の怪異。レベルは低く、特定の木の陰から移動しないため、その木に近づかないと出くわす事は無い。
主人公君は何でも知ってる訳じゃないって事で。




