ゴブリンの村
話が終わって、今度は6ゴブを集めた。
アコルディオンに行った者だけでなく、集落に残った者にも話をしなくてはならない。
宿のベッドでひたすらに、あの場面でどうするのが最善だったのかを考えた。
あの時、3ゴブは避けようの無いピンチに陥っていた。
どうしたらああはならなかったか。
実際、あの時、剣は折れてもまだ戦いようはあったのだ。
呪符を撃って削り、その隙に剣を替える。
コカトリスは消耗していた。
呪符だけでも倒せたかもしれない。
コカトリスの攻撃は概ね避けられていたので、ひたすらにかわしアリアの到着を待つ。
アリアとははぐれていたとは言え、アリアだって馬鹿ではない。
自分ひとりだけが先に進んでしまった事に気が付けば引き返してきただろう。
実際に、アリアは戻ってきた。
焦らず、じっくりかわして待てば良かったのだ。
3ゴブに投石などをして、武器を替えるわずかな時を稼げと指示しても良かったかもしれない。
その場合のコカトリスの反応はどう出るかは不明だ。
しかし、ああも突っ込むよりかは、緊急的な事態に陥らずに済んだようにも思える。
6ゴブは成長している。
それでも戦闘の判断を任せてしまうには幼いと感じた。
時に小学生を相手にしているかのような気持ちになってしまうのは間違ってはいないのだ。
絶対に俺やアルフレッド、そしてアリアの指示には従わなくてはならないと厳命する。
斧ゴブがしかし!と声を上げる。
あの時、確かに剣は折れていた。
それでも戦う術はあったのだ。
ホルダから1枚の呪符を取り出す。
ゴブリン達にとっては嫌な記憶だろう。
それを見た瞬間、表情がはっと変わる。
呪符がひとりでにホルダから飛び出し、炎をまき散らしたのはそう昔の記憶では無いはずだ。
アリアには言わなかった科白をあえて言う。
信頼するのだ。
自分の命だからと言って、簡単に投げ打ってはならない。
もしも本当に命を投げ打つ必要があるのなら、俺やアルフレッドがそれを命ずる。
その命が無い以上、自らの命を投げ打つ真似は決して、してはならない。
アルフレッドとアリアは工房整備で忙しく、その日からしばらくは俺ひとりで6ゴブと一緒にナハトの森に行く事になった。
基本的には6ゴブ達自身が考え、話し合い、戦う。
論理的でない行動や悪手があれば修正するものの、彼らの頭で手で道を切り開いて行く。
俺自身、強くならなくてはならないけれども、彼らにも強くなって欲しい。
意図的に人数を減らしたり、武器を持たない状態から戦い始めたりして、戦い方にバリエーションを作りつつ、ナハトの森の攻略を進めて行った。
ナハトの森のボスはナイトメアだった。
カーヴァルウシュタと変わらない巨体を持つ真っ黒な馬。
レベルもそれほど変わらない。
やっかいなのはいななきだった。
至近距離で奴がいななくとゴブ達の動きが止まった。
恐怖効果のあるスキル、悪魔の囁きだ。
恐怖になると攻撃が強制的にキャンセルさせられる。
コカトリスの時にも感じた事だ。
バッドステータスを防ぐには、抵抗、無効を付けるしか無いのだ。
心の有り様や技術だけではどうしようも無い。
バッドステータスの恐ろしさを実感するにはちょうど良いとも言えた。
恐怖の効果は攻撃キャンセルだけだ。
分かっていれば、どうとでも出来る。
全員が恐怖に掛からないように、タイミングを計り、弓ゴブと槍ゴブで馬の動きを誘導する。
剣ゴブが盾で、斧ゴブが斧で足を止め、そこをナゴブと刀ゴブで削って行く。
危うい場面もあったものの、ついには6ゴブだけでナイトメアを倒した。
アリアの工房もついに完成した。
最初に完成したのは革工房だった。
アリアは最初に自らコモドドラゴンの革でヘルム、メイル、アームガード、レッグガードを作ると、新たに集落のゴブリンから5人を選び、作り方を教えた。
失敗もあったようだけど、コモドドラゴンの革を使っての装備がひと揃い完成した。
教えている合間にアリアはカーヴァルウシュタの革と鱗でカイトシールドを、ナイトメアの革でひと揃いの装備を作っていた。
今まではバラバラの装備で、どこか抜けている印象を与えていた6ゴブが工房で作られた装備をまとい、一気に戦士団の趣きを見せる。
盾は剣ゴブが装備し、ナイトメアのひと揃いは刀ゴブが装備する事になった。
新しい装備を得て、カーヴァルウシュタを狩りにも行った。
ナイトメアを一蹴した6ゴブは新しい装備のおかげもあってか、難無くカーヴァルウシュタも倒した。
カーヴァルウシュタの肉を持ち帰ると、集落はお祭り騒ぎになった。
前回は食べられなかった水馬の肉はこの世界に来てから食べた肉の中で最高の味だった。
今では定期的に革を集めるために、ナハトの森での狩りを、6ゴブが新たに選抜されたゴブリン達に教えている。
うまく回り出せば、革の防具を街に卸す事も出来そうだ。
鍛治工房も完成した。
こちらもアリアが4人のゴブリンに鍛冶を教えている。
革よりも難しいのか、しばらく失敗が続いていたらしい。
結構な量を持ち帰っていた練石がみるみる減っていった。
それでもアリアは根気よく教え続け、やがて1本のナイフが完成すると、それは俺にプレゼントされた。
それは見覚えのあるナイフだった。
ゴブリンナイフ。
ゴブリンが極めてまれに落とすレアアイテムだ。
レアアイテムとは言え、今の俺には使い道の無いくらい攻撃力の低いナイフだった。
それでも俺がこのアイテムを手放す事は無いだろう。
ゴブリンナイフが完成してしばらく経った頃、アリアからスプリガンシリーズの防具を返された。
そしてそれとは別にひとつの防具も渡された。
サークレット。
ヘルムと違って、額を覆うように装備する防具だ。
アルフレッドやアリアが装備している防具と同じく、つやのある美しい黒で、無駄な飾りを排した無骨なデザインだった。
凡人がアルフレッドみたいになれるなんて思わない事ね。
と、アルフレッドも頭部には防具を何も着けていないのと比較して渡されたのは彼女なりの口実だったのだろう。
鎧にはこれで一通りの無効が付けられているらしい。
装備した感じでは特に変わった印象は無かった。
装備が返ってきた所で、俺はアコルディオンに向かう事にした。
アリアがいつの間にかデレているな。
一気に進み過ぎ?




