決意
明くる朝、集落に向かうと、真っ先にアリアの姿を探した。
アリアはアルフレッドと共に、新たに革工房とする事になった家にいた。
テーブルに何事かの書類を広げて話している。
「おお、おはようございます。ノル様」
アルフレッドが挨拶してくる。
アリアに挨拶はない。
ただ、俺の格好をじっと見たかと思うと、不意に目をそらした。
今日はいつもの鎧では無かった。
ラームジェルグの制服、ガシャドクロの骨手甲、レプラホーンのブーツだった。
「ああ、おはよう。アルフレッド。アリア」
昨日は大変でしたな。アルフレッドが声を掛けてくる。
彼の声は朗らかだ。
昨日の事は聞いているだろうに、しかし、そこに俺を責める言葉は無い。
アリアが顔をしかめる。
俺としてもあまり積極的に語りたい話ではない。
ああ、昨日は帰ってきたのに顔も出さないですまなかった、とアルフレッドに返事をして、アリアに話を振る。
「アリア、頼みがあるんだ」
「なに」
俺の顔を見ようともしない。
ホルダからスプリガンメイルを出す。
「これを直して欲しい」
スプリガンメイルは所々が石化したままだった。
「街で頼んだら」
「いや、アリアにお願いしたい」
机の上にスプリガンメイルを置き、さらにアームガード、レッグガードも出す。
さらに手持ちの素材を全て机の上に出す。
机の上に収まりきらない分は床に積み上げる。
積極的に集めていた訳では無かったとは言え、それはかなりの量になった。
「それと、俺の手持ちの素材を全て渡しておく。可能な限り無効、抵抗を付けて欲しい」
やっとアリアが俺の顔を見た。
「なんで素材を持っていたのに、今までそれをしなかった訳?」
視線は鋭い。
出来る事をしなかったのは何故だ。
それをしていたらあんな事は起こらなかったのではないか。
前は出来なかったから。
そう、馬鹿正直に答える訳にはいかない。
実際、やろうと思えば出来たのだ。
街で神殿が、そしてギルドが使えると分かった時点で街の工房に頼めばそれは出来た。
しなかったのは自分だ。
「今までは必要なかった。自分ひとりのために必要最低限な事だけやってれば、それで良かったんだ。でも、今は違うって自覚した」
そう、ゲームの時の延長で考えていた自分がいたのかもしれない。
心のどこかで舐めていたのだ。
何よりも未熟だったのは剣の技術じゃない。
心だ。
前はひとりだった。
死んでも自分ひとりの責任だ。
しかし、今はひとりでは無いのだ。
アルフレッドがいる。
アリアがいる。
ゴブリン達がいる。
自分のために命を掛けてくれる仲間がいるのだ。
アリアが背負っている剣に気が付いた。
ツヴァイハンダー。
昨日折れた剣と同じく、何の特殊効果もない両手剣だ。
「あんた、その剣」
アリアの表情に困惑が浮かぶ。
「昨日、思ったんだ。十分に強くなったつもりでいたけど、もっともっと強くならないといけないって」
今朝は本当に迷った。
何を装備するべきか。
アリアに何を装備しているのかを見せるのは、俺の意志を見せる事に他ならないと思えた。
「強い武器を使えばその分だけ強くなれるけど、それは俺の強さじゃない。そういう意味で俺は強くなりたいんじゃないんだ」
あの時折れたのはクレイモアだった。
でも、もし王の剣がああいう事になったら、俺は王の剣を折った相手にどうやって戦えば良いのだろうか?
「王の剣が無いと戦えないなんて腑抜けにはなりたく無い。今の俺が強くなるにはこの剣で十分だ」
信用してくれ、なんて口にはしない。
アリアが俺を信用するかどうかなんて、これからの俺の行動次第だろう。
言葉は尽くした。
アリアの目を見つめる。
アリアも何も言わない。
どれくらいの時間が流れただろうか。
「昨日は私も悪かったわ」
唐突にアリアが頭を下げた。
「勘違いしないでよね。あんたを責めた事じゃない。戦いが始まった時、あの場に私はいなかった。いなかった私にあの場の誰も責める権利は無かったわ」
目をそらして言う。
「あんたを責める前に、あの場には私がいるべきだった。あの場に私がいなかったのは私の手落ちよ」
そう言うと、これは預かっておくわ、とぽつりと言った。
じっと黙っていたアルフレッドが朗らかに笑った。
ラームジェルグの制服:ラームジェルグが低確率でドロップ。軍服。
ガシャドクロの骨手甲:アオヤマ墓地の宝箱で入手。
レプラホーンのブーツ:グリーニアの街の地下ダンジョンの宝箱から入手。




