戦い終わって
「なにしてんだ、あんたは」
近づいてきたアリアは一も二もなく俺を蹴り飛ばした。
文字通りぶっ飛ばされた。
思わず咳き込んでしまう。
「あんたが盾にならないでどうする!守ってやらないでどうするんだ!」
反論の余地も無い。
その通りなので言われるがままにする。
あれは完全に俺の手落ちだった。
3ゴブが俺とアリアの間まで来て、アリアに向かってひざまずいた。
「何よ、あんたたち!」
3ゴブは言う。
手を出すなと言われていた事を。
俺がひとりで鶏と戦っていた事を。
剣が折れ、新たな武器を出せずにいた事を。
「はあ、結局そいつの未熟が招いた結果には違いないじゃんか!」
俺の所々石化している鎧を見て、アリアは目を細める。
3ゴブはひざまずき、頭を下げ、引かない。
「あんたたち、今、やられる所だったのよ!分かってんの!?」
刀ゴブがそれでも構わなかったと言うと、今度は刀ゴブが蹴られた。
「おい!」
思わず声を出す。
「どうかしてるわ。あんたたちも。アルフレッドも」
今度はナゴブが、斧ゴブが語る。
元々自分たちには何も無かったのだと。
あるのは怒りだけだったのだと。
アルフレッドが、そして俺が現れてからそれが変わったのだと。
誇りを持って生きる術を見つけた事。
世界に喜びを見いだす術を見つけた事。
切々と3ゴブは語る。
その姿はいつか見たアルフレッドの姿に重なった。
“ですので、いかにして生きるべきか。その規範を彼らに示したいのでございます”
そう言ったアルフレッドの姿が蘇った。
あの日、俺の胸を打った言葉は俺だけじゃない、彼らにも伝わっていたのだ。
そして、彼らの胸に灯った火を、俺はこんな所で消してしまう所だったのだ。
神殿でスキルについて調べている時に、ガルーダに聞いていた。
この世界の人達は決して蘇ったりはしないのだと。
人として生活していても、彼らはやっぱりモンスターなのだろう。
オール・オーディナリーズ・サーガでは、倒したモンスターを蘇らせる術は無かった。
それと同じようにゴブリン達は死ねば蘇らないのだ。
彼らはあの時、本当に命をかけていた。
「あれは俺の手落ちだった。悪かった」
アリアにではない。
3ゴブに謝る。
3ゴブはひざまずいたままに振り返る。
我らこそが王を守るべきでございました。
我らの未熟をお許しください。
ゴブリン達は深く頭を下げる。
違うよ。
未熟なのは俺の方だった。
アリアは目をそらす。
その時の俺には分からなかったが、彼女の目に浮かんでいたのは哀切だった。
カストールに向けて元来た道を歩く。
アリアはあれ以来、口を閉ざしたままだ。
いや、誰も口を開かなかった。
俺の背中には王の剣がある。
アリアはそれを見ると、俺から距離を取って歩いた。
しかし、今はこれを背負っているべきだろう。
帰りにも何度か魔獣に襲われた。
それは全て俺が斬り捨てた。
特に何も回収する事無く道を進む。
コカトリスもアリアが仕留めたままで、そのままにしてきた。
色々な感情が心の中を渦巻いていたけれど、何も考えたくは無かった。
自分が死んだらどうなるのだろうか?
ゴブリン達の死を意識して、それをやっと考えた。
気が付いてしまった。
自分が決して無敵ではない事を。
カストールに着き、そこで俺はアリアと、3ゴブと別れた。
宿に向かい、そのままベッドに体を埋めた。




