オール・オーディナリーズ・サーガ
モンスター以外の全ての登場人物をプレイヤーが演じる、NPC無きオンラインRPG「オール・オーディナリーズ・サーガ」も、かつての盛り上がりは遠のいて、多くの街は廃墟と化した。
俺以外に遊んでる人いるのかな?
最後にゲーム内で人と会話した記憶がいつのものなのか本気で分からない。
冒険者は言うまでもなく、武器屋や宿屋、さらにはクエストを交付するギルド員すらもプレイヤーの誰かが演じているという他にあまり類を見ないゲームは、プレイヤー人口の激減により街はゴーストタウンと化し、まるで世界の終末、人類の終焉を体験する別のゲームになっていた。
「人類は絶滅しました」
そう呟いてみるも、画面上に何の反応も無い。
ディスプレイに映っているのは、のどかな草原のフィールド。
スピーカーからは鳥のさえずりと穏やかなBGMが流れている。
そう、俺はどうしようもなく、ただのひとりだった。
オール・オーディナリーズ・サーガはもはや過去のゲームだ。
ディスプレイに映るグラフィックは最新の美麗なものと比べるべくもない。
はっきり言ってしょぼい。
しかし、このゲームのサービスが開始された当時の盛り上がりは凄まじいものがあった。
各ゲーム誌はこのゲームの攻略を連載で行っていたし、ネット上での盛り上がりはまさに社会現象と言って良かった。
その当時から興味は持っていた。
しかし、当時の俺は就職したばかりで仕事が忙しく、プレイできる環境に無かった。
あまりの仕事の忙しさについには体調を崩し、長期休暇を余儀なくされた時、最近あのゲームの話題を聞かなくなったな、とふと思い出し、話の種にと始めたのが半年前の事だ。
その時点でこのゲームに残されていた街はたったひとつしか無かった。
カストール。
人類最後の希望の街である。
実際にはまるでチャットルームのように昔からの知り合い同士がただ集まってしゃべっているだけのプレイヤーのたまり場だ。
もはやゲームに新サービスの追加は為されていない。
そしてもう熟練プレイヤー達はこのゲームを攻略しきっていた。
サービス終了の噂は常であり、いつ終わってもおかしくなかった。
それが未だに終わらず、こうして続いているのはどんなクエストにも勝るこのゲーム最大の謎だ。
なぜ街がひとつしかないのか。
いや、実際には他にも街は存在する。
ただ放棄されているだけだ。
ゲームサービス開始当初は、ギルド員などの街の主要施設は運営側のプレイヤーが演じていた。
しかしあまりにもにぎわっていたため、店や施設をやりたいプレイヤーがいても、肝心の店や施設が足りなくなっていた。
全ての登場人物が一般のプレイヤーの手にゆだねられるまでに、そう時間は掛からなかったと聞いている。
プレイヤー充の当時はそれで良かった。
問題はプレイヤーの減少スピードに歯止めが利かなくなり始めても対策が施されず、さらにそのスピードがどれだけ加速されてもそのまま放置された事である。
その結果が今の人類終焉の世界へと繋がった。
プレイヤーの数が減れば街の重要施設の担当者も減る。
担当者が減れば街の施設が満足に使えなくなる。
自然、街が街として機能しなくなる。
そのようにして施設機能を維持できなくなった街は捨てられていった。
ひとつ、街が駄目になり、ふたつ街が駄目になり、そんな終末的事態に残っていたプレイヤーはどうしたのかと言うと、なんとか維持できるひとつの街に集まったのである。
それがカストールの街だった。
一部のプレイヤーは人類最後の街での生活をロールプレイの一種として楽しんでいるようだったけれども、大半のプレイヤーはSNSのひとつくらいにしか使っていない。
そんな状況でゲームに参加した俺は浮いていた。
いや、はっきりと言おう。
相手にされなかった。
いまさらゲームとして、このオワコンを攻略する気のあるプレイヤーは皆無だった。
そしてハブられた。
まるで限界集落である。
新参者、余所者を決して認めない。
そんな身内感覚に俺は打ちのめされた。
無駄な抵抗はしなかった。
いや、そんな閉鎖的な限界集落のジジイ、ババアどもを見返してやりたかった。
カストールは人類最後の限界集落である。
つまり、外の世界には誰もいない。
そんな事は分かっている。
オンラインRPGなのにわざわざ誰もいないゴーストタウンに向かう意味は全く無いだろう。
それでも俺は、いや、俺の分身であるキャラクター、ノル・ブリンカは誰もいない終わった世界へと旅立った。
5月7日、大幅修正です。