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エッセイ

蜆の美味しい食べ方の考察

作者: fumia

 たまたまのお休みで、自宅にてごろ寝をしつつテレビをボンヤリと視聴していると、こんな事をやっていた。


 漁獲量日本一!を誇る蜆の名産地、島根県松江市の宍道湖。その湖畔にある『日本しじみ研究所』とか云う胡散臭い研究所の屋内で、NHKの女性レポーターと、そこの責任者と称する、蜆の研究を40年継続している、という白衣姿の初老の男性が、我々視聴者に向かって『美味しい蜆の食べ方』を伝授してくれるという。


 何の事はない。単に砂抜きをする時に、真水ではなく1%の食塩水を使うと、食する時のアミノ酸量が120数残基から750ちょっと、即ちなんと6倍にも増えて美味しくなるのだよ!えっすごーーい!という、ただそれだけの話だった。

 これだけでも時間を無駄にしたと後悔するにも関わらず、たちの悪い事に、何故そうなるのか?という単純な原理説明すらなされなかった。何が蜆一筋40年の専門家だ。笑わせる。


 実際、その理由は素人の私でも容易に説明する事が出来る。単に真水よりも、より汽水湖である宍道湖の環境に近い1%の塩水の方が、蜆にとって居心地が良いからだ。

 だから単純に体の内外の浸透圧の差の調整に体力を割かない分、蜆の体内の栄養分が多く保持されているのは自明の理である。つまり、増えたのではなく残っていたのがほぼ6倍量だったのだ。


 たとえ100g中の1gの差でも、蜆のような高等とは言えない水生生物に於いて、体内と体外の浸透圧に隔たりがある環境は、実は過酷である。

 何故なら、これらの生物は我々陸上生物や高等魚類とは違い、体外の環境の浸透圧に関わらず自然に己の体内のそれを恒常的に一定に維持する機構を殆ど持たず、あっても機能的とは程遠いお粗末な代物であるからである。つまり、貝や蟹にとっての体内の浸透圧=その時に置かれる外環境の浸透圧、という風になる。


 当然、汽水の環境が一番適した蜆を真水に投入すれば、蜆の体内へ大量の水が流入し、蜆自身の浸透圧も限りなく0へ近似しようとする。

 当然そのような事態に本当に陥れば、細胞壁を持たない蜆の細胞膜ははち切れて中身が流出し、死んでしまう。それではあまりにも可哀想過ぎるし、彼等も本意では無かろう。彼等が取れる手段は唯一つ。砂抜きをする序でに、浸水した水を出水管から全力で体外へ吐き出すだけである。そんな必要の一切無い快適な環境下に置かれた個体と比べれば、エネルギーを消費する為に使われた分だけアミノ酸量が乏しいのは考えるまでもないだろう。

 例えて言うなら、気温10℃の寒さの中を全裸で全力疾走している人と、同じ時間素っ裸で過ごしていても暖かな部屋の中で寝っ転がっている人とでは、エネルギーの消費量が全く異なるのと同じ事だ。


 飲み?食いも許されずその瞬間まで生かし続けさせられるのだ。どうやったって時間が経てば栄養量も減れば鮮度だって落ちる。美味しい蜆を食べる為に我々が出来る事は唯一。出荷されたばかりの物を買って薄い塩水の中で砂抜きをし(但し、食塩を加え過ぎてもいけない。今度は蜆の体内から水分が流出し、栄養素が消失するどころか砂抜きも出来ていないという散々な結果になる。)、早目に食してしまうだけである。


 まあ、本当に蜆の潜在能力を100%引き出したいのであれば、砂抜きを終えた後で、汽水に近い環境で空腹状態の蜆に餌付けして丸々太らせる事だろう。

 少なくとも私はそこ迄手間を掛けて蜆を食べたくないし、無我夢中で久々の食事を摂るだろう彼等をこの手にかける気にはとても成れないと思うが……。

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