四話 魔術
――何なんだよ……あの男……
牛乳瓶の蓋のような分厚い眼鏡が特徴のバルバロス海賊団航海士ヘンリー・リードはヒビキの圧力に震え腰を抜かした。
「だから海賊なんか嫌だったんだよ……」
彼は元々海賊などにはなるつもりなどなかった、戦闘など争いごとは嫌いだし他の船員達と違い好きでジャックに従ってるわけではなかったからだ。
ヘンリーが幼少の頃のことだ。
彼の家は一般の家庭に比べれば裕福な方で父・母・自分の3人家族で楽しく毎日を過ごしていた。
家が裕福だったのは商船で航海士として働いている父のおかげ、母親に毎日のようにそう聞かされていたヘンリーは自分もいずれは父のように立派な航海士になりたいと思っていた。
将来の目標ができたヘンリーは一生懸命に勉強した……。
十年後、青年となったヘンリーが商船で父と同じように航海士として働き始めた……。
いくつもの航海を重ね航海技術にも自信が出てきた頃だった……ある日ヘンリーの乗った商船はバルバロス海賊団に襲われた。
船に乗っていた人間は全員……殺された……。
だがヘンリーだけは殺されなかった……理由は……バルバロス海賊団には優秀な航海士が必要だったから……
「俺たちはこれから黄金郷を目指す! 誰も見つけられなかった幻の都だ……そんな場所を見つけるには優秀な航海士が必要だ。これだけいえばわかるよな?」
あの時商船で見たジャック・バルバロスの鬼のような強さに……彼は……嫌だとは言えなかった……それが……こんなにもあっさりと……
「クソ……バケモノがああああああああ!」
ジャックの左腕はすでに地面に転がっている。最初に斬りかかったとき……ジャックが渾身の力を込めて振り下ろしたサーベルをヒビキはあっさりとかわし……左腕を斬り落とした。
「バケモノって……あのなぁ、あんたの動きが単純すぎるだけだって」
退屈そうな表情でジャックを見下しバケモノ呼ばわりされたことにヒビキは口を尖らせた。
そのヒビキの態度・表情がジャックの苛立ちをより一層ひきたてる。
「貴様……!」
ジャックが鬼のような形相でヒビキへと斬りかかる……
「だから……動きが単純なんだよ……死なないとわかんねぇのか?」
ヒビキは笑みを浮かべサーベルを左手の小太刀でいなす……全力で斬りかかった勢いを受け流された為ジャックは完全に体勢が崩れている……。
ジャックの横腹目掛け右手の太刀を振りかぶった……その時……
「水よ! 術者の名に従い敵を打て!」
巨大な円形の水の塊がヒビキを襲った。
まるで大砲にでも接触したかのような衝撃が体中を走り大きく後方へと吹き飛ばされる……。
ヒビキの体は港の倉庫に置かれた木箱へと叩きつけられた。
「……な、なんだ?」
木箱から体を起こし何が起こったのかを確認する……
「馬鹿者! こんなに港をめちゃくちゃにして……何をしている!」
視線の先にはアクアが立っていた……彼女は顔を紅潮させ怒りに体を震わせている。
「あの水……アイツが?」
「少しは……反省しろ!」
アクアの手には巨大な水の塊がいくつも浮いている……
「ヤバイ……殺される……」
どうやら夢に出てきたお姫様はとんでもない魔術師だったみたいだ。