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異セ界の狐  作者: ままま
第一章 異セ界の狐
4/6

狐、旅に出る

「何がなんだかわからない」



勇者はそう呟く。というのも無理はない。異世界に突然召喚され、非常識な常識を叩き込まれ色々なことに驚いてきた勇者だが、今回のもまた格別なものであった。突然の乱入者、勿論その乱入者本人であるショートカットに揃えられた黄金の髪の毛と、これまた黄金のように輝く毛でフサフサの狐耳と尻尾を持つ人間ではない彼からすれば……乱入というかタマタマ勇者達がそこにいただけと言える、勇者は彼の出現には二重に驚いた。



「旅ねー、今時はやらないっしょ、冒険者じゃあるまいし。」



「………ん。」



まず彼が亜人という点であろう。現実出身である勇者から見れば彼は様々な書籍やテレビ画面の向こうに登場する存在である。しかも、狐である、狐であるのだ、大切なことである。今こうやって、モコモコとかいう不思議なナマモノを青色の炎で焼き上げながら暗殺者と会話になっていない会話を続けるこの存在。勇者は現在進行形で尻尾がモッサモサ動いているのを思わず目を追ってしまう。



「んーー、モコモコのハンバーグなのですー…。」


「一体どうしたんでしょうねー姫様は。」


「貴方わかって言ってるでしょ?」


「さて、なんのことでしょうねー。」



可愛らしさ満点のモコモコが目の前で粉砕されるというショッキング映像をすぐ近くで見ていた王女は相変わらず目をグルグルとさせていた。夢を見ているのか、どういう夢なのか非常に気になることだが、だからといって後で起きるであろう王女に聞く勇気も無い勇者は何もすることがなく肉が焼き上がるのを待つのみである。



「………勇者だから。」


「……は?アレが?」


「………あれが勇者。」



そして更にもう一つ驚いたというのが彼の服装である。何を隠そう彼の服装というのは、勇者がいた日本古来の和服という着物によく似ていたのだ。薄い青を下地にした真っ白な和服である。縦に大きく切れ目の入った緋袴から見える真っ白な太ももが厄い、思わず勇者が目を逸らしてしまうほど。履き物も日本固有のものに近い、よく見る足袋に天狗下駄、幅広い空色の帯に腰回りにジャラジャラと音を鳴らす鎖。緋袴の後側には先程まで元気にフリフリしていた尻尾が何故か今ではピンッと天に向かって固まったままであるが……。鎖に引っかけるようにつけられた輝く白銀色の金槌、チャポチャポと中身の液体を揺らす紫色の瓢箪が妙に目だっていた。



「み、みみみみみミコーーーン!!!!」


「ウワッ!?て、敵襲なのです!?」


「…………?」



ぶっちゃけジロジロ勇者に観察されていたことを知っていた彼であったが、まぁ女性の前であるため特に行動することもなく適当に暗殺者と会話を続けていた。だが、今の通りに暗殺者の"勇者発言"に彼は驚きのあまりに轟き叫んだ。その声に反応しガバッと起きあがった王女。そのうえ王女が持つと指定危険物マッシグラの杖を手に持ち出した。何事ディスカー!?と叫ぶ王女を羽交い締めにして騎士は王女をなだめる。魔女は関係無いと言わんばかりにワケのわからない言語で書かれた本にのめりこんでいた。勇者が彼の突然の叫びに驚きながらも、平常心平常心と心で何度も呟きひっひっふー、と息を繰り返すこと数度、静止してた彼が突然動き出した。


「ってこたぁ、この糞ッタ……この人が勇者なの~?」


「………ん。」


「え?糞?……え?」



勇者の耳に聞こえてはいけない単語が聞こえてきたような気がした。ガビーン、と彼のほうを向いてみれば先程と同じようにニコニコ笑顔でコテンと首をかかげる。しかし勇者は先程とは違うと感じたのだ。勇者の勘(笑)が告げていた、これは違う、と。どこか能面のような、笑顔の向こうでギャハハハ!と薄汚い笑い声を上げているような、あながち間違ってもいない。



「(ゲェッ!?こんなモヤシが勇者だと!?しかも出会ったちまったよー糞ッタレぃ!)」


「え、え~と、そういえばさ。君の名前はなんていうんだい?」



彼がどういう思考をしていようが、勇者からすれば無関係者である。彼は間違いなく出会いたくも無い阿呆集団のお頭ァである勇者だが、その勇者は出会ったのも何かの縁と思いとりあえず仲良くなる、というか会話をしている以上失礼の無いように名前を聞き出そうとした。彼はというと、関わりたくも無い奴らに名前を教える必要性など少したりとも無いのだが……「愛されモテカワボーイ」をうたっている彼は聞かれたら笑顔で答えるしかない。名前を聞かれて答えないなどそれこそ失礼極まりのないことであるのだ。ここで偽名などを使えばいいのかもしれないが、それは勇者の周りがさせないだろう。



「え、え~~っとね、アハハハ。……チッ、僕の名前は『桜花オウカ』って言うんだよ!ヨロシクね!」


「よろしく桜花。俺の名前は、やま、あー…、タケルって言うんだ。」



勇者のパーティに参加している者を見ればすぐにわかる。ギルド最高峰の冒険者"灰色"のジーニアス、魔導の"白き魔女"のマニラ・インレテス、最強の"護神騎士"クリスティアーネ、オマケでどうでもいい水没王女エルリア、特に灰色の暗殺者が問題に多い。職業柄人の嘘を見抜くのは得意だろう、偽名なんて一度も使ったことの無い上、焦りまくっている彼の即興の嘘などすぐに看破される。看破されてもやましいことは一つも無いが、そもそも勇者達に嘘をつくという行為そのものがやましい。国家などから支援を貰う勇者に対してそういうことをするなど、治療しようとして水害を起こす存在並にありえない。



「タケル?勇者様ってば北東出身?」


「あー悪い。俺って記憶喪失なんだ、なんか色々覚えていなくてさ。」


「……へぇ。」



そういえばテンプラも北東って言ってたな、と勇者は前の騎士や王女との会話を思い出していた。おそらく北東には現実世界で言う日本に似た国や文化があるのだろう、と勇者は非常に興味を覚えた。北東辺りにそういう文化があるのなら一度行ってみたいなぁ、と勇者は思う。しかしその思考は途中で中断された。彼がイソイソと支度を始めたからである。綺麗に捌き干していたモコモコの皮をたたみ始め、ドッコショと焼いた肉に目をくれず、ホナさいなら、と言わんばかりに……、



「………ダメ。」


「ちょ!ジーニアス何を――」


「ミコーーン!?」



そうは問屋が卸さない。暗殺者が彼の肩をガシッと掴んだ。彼は額から嫌な汗を流しながら必死に口を開く。そして今頃正気に戻った王女と、王女の側に控える騎士は黙ったままそれを眺めていた。王女は若干不機嫌な顔を見せていたが、さすがに何がそれを起こしているのか勇者にはわからなかった。



「な、何をするの~、僕そろそろいかないと、ごめんね?」


「………仲間、強い。」


「え、でもまだ子供――」


「丁度前衛が欲しかったところだしいいんじゃない?それに一番強いわ。」


「マニラまで!?」



本をパタンと閉じてビシッと言い放ったのは魔女。魔女は彼をキョロキョロと観察しながらそう呟いた。勇者は信じられない表情を浮かべる。まだ10歳やそこいらの子供(に見える)彼を危険(な予定)の旅に同行させるなど、というわけであるが肝心の勇者本人が戦いも常識も知らない存在であるのは黙っておこう。暗殺者、魔女と彼の参加に賛成の意見が出た。彼からすれば有り難迷惑すぎる厄介な話なのは言うまでもなく、明らかに彼の戦闘能力を看破した暗殺者と魔女に不満タラタラである。そういわけで……、



「ウゲェ、このアホエルフにクソ魔女言いやがっ……あ。」



つい口を開いてしまった彼であった。彼はタラタラタラ、と滝のように嫌な汗を流しい尻尾がピンッと力強く立っていた。あるぇー?と勇者は己の聴覚を疑った。この可愛らしい狐耳の少年の口からおぞましい単語が聞こえたような……間違いなく聞こえたからである。



「「「………」」」


「あ、あははははー……。」


「クスクス。」



彼の視線が辺りを漂う。完全にバレてやがる!?と狐は思った。せめて誤魔化してくれ、勇者はそう思うものの逆にこういう行為が正しいと認めており、勇者の仲間達、少なくとも暗殺者と魔女は看破しきっていた。一番ショックを受けたのは、実は勇者ではなく王女であった。どこの世の中でも女の子は可愛いものが好きなものだ。可愛らしい彼の口から"糞"とか"阿呆"とか聞いてしまったのは――ついでに言うがその時の彼の顔はおぞましい物を見たときのように引きつらせていた――実に遺憾の意であろう。



「あ、あれ~?おかしいですね~。なんだが聞いてはいけない――」


「うるせーー!!文句あるボケェ!?はり倒すぞ!?おお!?」


「本性を現しましたか、実に面白いですね桜花殿。」


「………腹黒狐。」


「タケル、なんとかしなさい。」


「無茶言うんじゃねー…。」



王女は顔を引きつらせながら言うが、それの上に被さるように彼が叫び始める。「もうバレてしまったのはしょうがない!どうせだから俺はこっちの道にいくぜ!」と言わんばかりに怒号の如く。騎士はそんな裏表の差が非常に大きい彼を、面白ェ、と思いながらモコモコの焼き上がった肉にかぶりついていた。



「ぜってぇお前等なんかと行きますかー?絶対に断りですー、ああ!?」


「クスクス、いいのかしら?」


「なんでだよぅ!?」



この人は勇者なのよ?そう言った魔女に彼は首を傾げる。コテン、と可愛らしい仕草ではなく隙あらば舐め殺す(?)といった感じに眉を寄せて睨み付けながら、である。魔女はクスクス笑いながら続けた。魔女の言葉を聞くと同時に彼の顔が段々と青ざめていく。



「勇者は世界各国のバックアップを受けるわ。言い換えるなら世界各国、及び自治区は勇者に支援をしなくてはいけない。基本旅のお供もそうね、まぁ雑魚が来ても困るだけだから募らせて試験という形だったけれども……。」


「み、ミコーン……。」


「クスクス、別に断ってもなんの問題もないわ。妙に目を付けられても問題無いのなら、ね。それで?どうするのかしら?『金狐族』のぼーや?目立ちたくないでしょう?」



金狐族、と魔女がその単語を言った瞬間辺りの空気が変わった。威圧感、とでも言えばいいかもしれない。彼は無表情のまま目を真っ直ぐと魔女のほうへと向けた。重圧が辺りを包んだその一瞬にて、暗殺者と騎士は戦闘態勢を取った。反応が遅れた王女と勇者は「なにこれ怖い」やら「どうしてこうなった!?」などと思わずにはいられなかった。ただ、それを口に出すことは出来なかった、今の二人には今まで感じたことの無い――そういう存在がそもそもいない現実から来た勇者や、権力的にそういう存在と相対したことのない王女である――重圧が掛かり口を開くことも、動くことすらも出来なかったのである。



「黙れ『四分の一の穢れ(クォーターデビル)』が、浄化してやろうか?あ?」


「へぇ、言ってくれるじゃない。」


「お?やるか?オセロ魔女め、ひっくり返してやるぞ。」


「黙りなさい、よく言うわ駄狐、お婆様を貶すなんて。」



魔女と彼が色々言い合っているせいか、その場を包み込んでいた重圧がいくらか軽くなる。王女と勇者は顔を引きつらせながらこの場をどうするのかという作戦会議を始めた。



「(めっちゃ怖ぇぇぇ!?しかもマニラって人間じゃなかったんだ!?え?デビル?悪魔っ子だとぅ!?)」


「(ちょっとクリスティ!なんとかするのです!)」


「(難しいですね、守ることは出来ますが……あれほどの手練れとなると…)」


「(手練れって、桜花ってまだ子供――)」


「(………亜人、歳違う。)」


「(あ、そういう奴か……どれくらいかわかる?)」


「(………金狐族、見た目、十倍。)」


「(鍛錬量も人間の10倍、その上亜人特有の身体能力とかありますね。)」


「(……oh)」



ヒソヒソ、ヒソヒソといつのまにか騎士と暗殺者も参加していた。勇者達の作戦会議の光景の背後には、彼と魔女がいるが……、ぶっちゃけ作戦会議をしている勇者達に興が削がれたという奴であろう。魔女と彼はハァ、とため息を吐き武装を解除。だが彼は魔女を睨み付けていた。



「フン、いいよもう。仲間でもお供でもなんでもやってやるさ。」


「「なんですと!?」」



その声がたまたま聞こえた王女と勇者の声がハモる。彼は声では納得しているようだが、表情が残念すぎた。例えるなら「便器を手で磨け」と言われた時の顔だろう。隙あらばその水の溜まった便器に教師の顔面を叩き込みたいといったところ。一応表記しておくが便器は意外と清潔である。汚い場所なんてとんでもない。



「クスクス、素直じゃないわね。」


「うるせぇー魔女っ子。」


「………仲間。」


「ふむ、前衛が増えるのはいいことですね。正直私だけじゃ心許ない。」



フン、と息を出しながら彼はそっぽを向く。尻尾がパタパタと動いていたのは、誰も気付くことはなかった。狐と勇者、魔女、暗殺者、王女、騎士、後に語られる『史上最悪らぐなろく』な勇者パーティの誕生の時であった。



「あ、あぁヨロシクな桜花。そういえば金狐族って……?」


「私もどこかで聞いたことあるような気がするのですが……。」


「まぁ、亜人の中でも特に有名な部族ですからね、さすがの姫様でも聞いたこモガッ!?」


「『狐の亜人ワー・フォックス』の中の部族よ、黄金色の毛が特徴ね。あとは火の扱いが上手いことかしら。」


「………もふもふ。」


「ええい触るなダークエルフ!高貴な俺様の尻尾になんてことを!」


「(拝啓お母様、仲間みんな濃すぎてついていけません、敬具。)」



勇者は自分の影が薄くなっていくことに気付いた。そして後でこれまた気付く事になるのだが、仲間達が言うように彼が一番強いのなら、更に自分の立場の無さが加速していくのではないか?という疑問があった。命を落とす危険性が少なくなったことに喜べばいいのか、それともまんま子供の彼や女性達に守られることに嘆くべきなのか…。



「なぁマニラ、クォーターデビルってどういうことさ。」


「あら、気付かなかったの?……そういえば隠していたわね。」



チョコーン、と魔女の背中、黒い艶のある髪の毛をかき分けて出てきた小さな翼。勇者の予想通りの悪魔っぽい翼だが……サイズが違う。バサッと、そんな風に考えているようなサイズだったのだが、なるほどこれがクォーターって奴か、とよくわからない納得を勇者はした。パタパタと魔女が翼を動かすが、全然飛べそうにねぇ、と勇者は呟く。必要ないもの、と魔女は勇者に答えるがその意味が"どっち"に当たるのかはあまり想像したくはなかった。



「(飛ぶ必要がないのか…、翼無しに飛べる意味なのか……後者だと怖ェ、さすがファンタジー。)」



そのとき縁起でもねー、と呟く彼を見て、勇者は思い出したかのように彼に尋ねた。



「桜花って寿命が違うんだろ?何歳なんだ?」


「んー、ひーふーみーよー……。」



一つ一つ指を折りながら数えていく彼である。腹黒狐にも、体型的に素直でこういう部分があるのだろう、と勇者は妙に嬉しく思った。ただ、その数えが終わったのは数分後であったことを除けば、良い最後になったかもしれない。




「今年で108歳だ。」



『狐ガログインスルヨウデス』

『果て無き夢の世界アグリローディナ

儀杖型収束神具、事実上無限に魔力を収束させ破壊力をぶちまけるチート武器。そういう概念のため魔力以外にもいろいろ収束出来る。担い手に莫大な魔力を素で与えるから困る。必殺技はスターライトなんちゃら。初代ミドルアーク女王から代々伝わる数少ない継承者がいる神具である。完全に砲撃系の神具であり伝承には『相手からお話してくる(泣いて謝る)ほどやばい』という表記がある。初代ミドルアーク女王と親友柄であった勇者のお供の一人とはよく潰しあった。無論、その親友も担い手である。

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