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一里塚

「で、どうなったんですか?」

「ん、落ちたよ。まっさかさまに」

頭から落ちたが無傷だった。あの体勢で無傷なはずはないのだが、わざわざ調べようとは思わなかった。あの担任と被ってしまうのが許せないが所詮は他人。こちらに火の粉が降ってこなければ構わない。


 ぼくは高校生ながらアパートで一人暮らしという中々珍しい生活をしている。

当たり前だが高校生が部屋を借りれるわけがなく、そこはバイト先の店長、紅月明≪こうづき あかり≫と、幼馴染である穂月二解≪ほづみ にかい≫の二人に細工をお願いした。


この国の経済を支える三本の支柱。如月、穂月、暮歳。

この三つでこの国が成り立っているといっても過言ではない。

これの恐ろしいことは穂月という名前を出すだけでテロシズムも人殺しだろうがその事件の存在自体が抹消されてしまうということだ。



「おにいちゃんは相変わらず役立たずだった。というわけですね」

「淀深ちゃんはぼくを役立たずと思っていた!」

「・・・甲斐性なしだと思ってましたが?」

「なにを今更?という感じで言わないで!!」


甲斐性なしは生活能力がなく頼りにならなくつまらない、金も力もなく要領が悪いということ。そういうことを三つ下の少女にいわれてしまうといのは少しばかり見過ごせない。


一里塚淀深は一四歳にしてぼくとおなじく一人暮らしをしている。

つまりは店長が保護責任者となってアパートを借りられているぼくと淀深は仮の家族である。


「それにしてもお兄ちゃんの運動神経なら捕まえられなくない状態でしたが、…相手が気持ち悪かったんですか?」

「人が落ちるかもしれない場面で気持ち悪いから触らないというやつがいるのか」

「えっ、…私ですが?」

「当然のように言わない!どんな人でなしだ!!あかりさんに言いつけるぞ」



あかりさんの説教は相手が納得するまで続き、一日で終わらないとみるや学校を休ませ喫茶店も休業。一日じっくりと説教が続く。保護者だとしても赤の他人のためにここまでやるかと、最初は驚いたものだ。


「それは困ります。また喫茶店を休まれては悪いですから。それじゃあ、おにいちゃんは男嫌いということで手を打ちましょう」

「なんでだ!!男も女も同じようにみてるよ!」

「両刀?」

「なんでそんな話が飛ぶんだぁ!!ほんと淀深ちゃんの将来が心配になってくるよ!」

「冗談です。で、どうして落ちたんですか?」


・・・本当か?

淀深と会話すると噛み合っているのか噛み合っていないのかが解からなくなる。


「…掴むことには成功したんだが、なんかこう…弾かれた?」いいながら首をかしげる。いや、まったくもって摩訶不思議。

「いや、聞かれても困るんですが…。引き剝がされたのですか」

「というよりも殴られたといった感じかな?掴んだのは肘なんだが手のひらに殴られたような衝撃がきて思わず手を離してしまった」

話を聞いた淀深ちゃんは考え込む。


「それはきっと…」考察するというより記憶から引き出すようにして喋る。「魔法かもしれないですね」

「………」


現象が現象だけにあまり期待していなかったがまさか淀深ちゃんから魔法という言葉が出てくるとは思っていなかった。


「魔法?なんですか、それ。スカートの中でも覗きたいのですか、そうですか。これからはおにいちゃんの前ではスカートの下に短パンをはかないようにします」という性格だとも思っていた。いやどちらにしても問題はあると思うけど。


「そうかもしれないね」しっかりしてそうで年頃か…。これ以上は聞いてもしかたないだろう。


「あかりさんのところにご飯食べに行こうか」


思ったよりも早くいまぼくが暮らしているアパートに辿りついた。

これから大家兼母親役兼茶店の店主紅月あかりの店に行き、晩御飯だ。


「仕方ないですね。財布盗ってきますので待っていてください」

「取って、こい」「む、よくわかりましたね」「わからいでか」

淀深があかりさんのところに行くのを楽しみにしていることもわかっているつもりだ。


あかりさんが働いている月光茶店は、もともと喫茶店だったところを和を愛するあかりさんが手を加え茶店、喫茶室もあるよといった状態に変わったという経緯がある。

なので見た目は喫茶店でとても茶店とは思えない洋風で入ってくる客も大概が喫茶店と思って入り、内装は茶店なのに驚き、出てくるお茶に驚く。


「わたしは珈琲」

「ぼくはお茶で」


店に入るとカウンターに背中を預け小説を読むあかりさんに注文をする。


「ん、珈琲二つな」

「・・・・・・あかりさん、客の注文を聞かないと店とは言えないですよ」

「客じゃない。家族だ。親のいうことは聞かないとだな」

栞をはさみ立ちあがる。

あかりさんの身長は170あるぼくよりも若干高い175くらい、長い髪を後ろにまとめポニーテールにしているのでさらに高く感じる。背筋を伸ばして立つのもあるかもしれない。


「わかりました、珈琲でいいです」

「ん、ありがとさん」

なぜありがとうなのか、それはあかりさん、淀深との三人で入った喫茶店で出てきた珈琲が原因でその味に三人は驚愕した。それからというもの、「飲み物で負けるのは気に入らない」と同じ珈琲を飲んだぼくたちに珈琲を煎れては出来栄えを聞くようになった。

おかげでここ最近あかりさんのお茶が飲めない。

喫茶もしているだけあって珈琲も美味しいのだがそれ以上に家が茶道の家元だというあかりさんの出すお茶が美味しく、美味しすぎて他の飲み物が味気なく感じるほどだ。

個人的に例の喫茶店で飲んだ珈琲もあかりさんのお茶には敵わない。



そのことをあかりさんにいっても「でも珈琲では負けている」と取り合ってもらえない。


淀深と二人いつもの席に座る。

カウンターの端、あかりさんの作業スペースの前の家族席。


「空」




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