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中編

古地図の謎を追い、北海道の「御猿辺おさるべ村」を訪れた考古学者・久世倫太郎。

そこで出会った大学生グループの1人が、突如として姿を消す。

捜索の末、古い選鉱場で発見された彼は、眼球をくり抜かれ、そこに砂金をぎっしりと詰め込まれるという、この世のものとは思えない無惨な姿に変果てていた。

さらに追い打ちをかけるように、大雪によって村へ続く唯一の道が封鎖。久世たちは、完全に陸の孤島となった狂気の村に取り残されてしまう。

第二の犠牲者は、美波君だった。

彼女は館のホールに鎮座する、時代遅れの巨大な蓄音機の横で発見された。


「……っ!」

佐伯君の叫び声に駆けつけた私が見たのは、彼女の両耳があった場所に流し込まれた、金の蝋だった。


耳は削ぎ落とされ、鼓膜の奥まで熱い金蝋が注がれている。


「ヒィ、ヒィ……」


彼女の喉から漏れるのは、もはや言葉ではなかった。それは、この村の地下から聞こえてくる、あの音、そのものだった。


「ヤマガル様じゃ!」


またも芝居がかった村長山上の叫び


「この娘はもう俗世の汚い音を聞く事はない。黄金の響き、ヤマガル様の御声だけを、耳介に焼き付けて生きるのだ。なんと慈悲深いことか」


泣き叫び、美波君を抱きしめる佐伯君。

 だが私は、その狂乱の芝居を冷徹な目で見つめていた。


 美波君が診療所に運ばれていき、周囲に誰も居なくなったのを確認した私は、懐から測量用のメジャーを取り出して、美波君が倒れていたホールに繋がる廊下の足跡を、数ミリ単位で計測してみた。


(おかしいな、佐伯君は『美波君の悲鳴を聞いて、部屋から必死に駆けつけた』と言った。

だが、この廊下に残された佐伯君の足跡は、歩幅が寸分違わず一定だ。恐怖に駆られた人間の足跡には、必ず『乱れ』が生じる……)


その夜

 

 中島君が、恐怖のあまり「全部知ってるんだ!ヤマガル様なんて言ってるけど、全部、皆あいつが……!」と叫びながら、夜の吹雪の中へ狂ったように飛び出してしまった、またも泣き叫びながら追いかけようとする佐伯君を宿の人が宥めているが、私には彼等の表情が、動作の一つ一つが、芝居に見えてしまう。


翌朝、彼は村の広場の真ん中に鎮座していた。

両足は不自然な方向に曲げられ、その口と両手は錆びた真鍮の針金で、唇を巻き込むようにして「十字」に縫い合わされていた。

一滴の血も流れていない。ただ、口を縫われたことで歪んだ頬が、呪わしい猿の面のように見えた。


またも長老山上が芝居がかった声を上げようとしたその瞬間、

「先生……次は僕だ! ヤマガル様が来る、僕もバラバラにされる!」

佐伯君は震える声でそう叫ぶと、自らナイフを取り出し、腹の辺りに刃を押し当てた。

ゆっくりと、まるで儀式のように刃を縦に滑らせる動作をする。

だが、実際に深く刺し込むことはなく、シャツの表面がわずかに裂けるだけで血は一滴も流れなかった。


「ひっ……ひゃはっ……!」


狂ったような笑い声を残し、佐伯君はナイフを握ったまま深い闇と吹雪の中へ駆け込んでいった。

その背中は、誰かに導かれるようにも、必死に逃げようとしているようにも見えた。

私はその場に立ち尽くしたまま、黙って見送るしかなかった。

(……確信はある。だが、まだ確証がない。足跡の乱れ、美波君の悲鳴を聞いたという嘘……。今ここで追いかければ、すべてがはっきりするのかもしれないが)


三章:断罪

1人になった私はタバコを燻らせながら考察を巡らせる。

 この山が狩っているのは、黄金に魅入られた欲深い人間達、村民も部外者も関係なく…

 第一の被害者は眼をくり抜かれた「見ざる」

 第二の被害者は耳を削がれた「聞かざる」

 3人目は口を塞がれた「言わざる」

 次は自分だと言った佐伯はナイフを腹に当てた

『死なざる』


 美波君が被害にあった時点で佐伯君だと確信はしていたが、4人目は…私じゃないのか、なぜ佐伯君なんだ?……彼がこの村の出身、もしくは関わりのある人間だとしたらどうだ?

 旅行鞄から、河合から借りた付近の町の町史を引き摺り出す

「ここは丹別町の管轄、だとすると…」

御猿辺集落に関しての詳しい情報は記載されていなかったが、この村を開いたとされる4人の開拓者達

山中一太郎、山上岩吉、山下拓真、佐伯卓

そして、アイヌの伝承であるとされる、金庫の山と書かれた大雑把な手書きの地図の

事前に印刷してきた航空写真と見比べると、そこは、高橋君が被害にあった選鉱場の奥。

「やはり、あの壁の裂け目には仕掛けがあったか」

冷や汗が止まらない、手足が震える、喉が渇く、警察は当てに出来ない、電話を借りた所で今更遅い

このまま手をこまねいていたら、夜を明かす事は出来ないだろう。

 冷めたお茶を一気に飲み干し、意を決して発掘用の作業着に着替える、作業ベルトのホルスターに愛用のタガネとハンマーを差し込む。


「さぁ、謎を発掘に行こうか」


自分を鼓舞するように、わざと戯けて声に出してみた。

だが、その掠れた声は、窓の外の猛烈な吹雪と、暗闇の奥から響く不気味な啼鳴の中に、あっけなくかき消されていった。

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